第三回。

「腹痛ぇ」
「はいはい。おとなしく寝てろ」
ソファに寝転がって唸るのに優しい声。微かに呆れたような色が混じるのは自業自得の部分。
「…全く。仕方ないね。自分で選んだクセに神経性胃炎なんて」
「う〜」
「…粥でも作る?うどん?」
「要んない。…ここに居て」
立ち上がろうとするのを掴んで引き止める。
「…甘えた」
「返す言葉もございません」
「自覚してりゃ良いけどね」
くすくす笑いながら腹に当てられる手にほっとする。
勤務中はなるべく普通の態度を保ってる分、帰ると激しい胃痛に悩まされる。
見兼ねたコーネフが日参してくれなきゃ、どうなってたか判らない…なんて状況。
情け無いったらないよな。
「…後で少しは食べろよ」
「ん〜。…帰る?」
飯食ったら帰る…とか言われると正直辛い。だからこれは我侭。
「居て欲しいなら居るけど」
肩を竦めて頷くのに、安心する。
「怒らんない?」
「あの人、そういうトコ寛大」
「うわ。ライオンさんたら大人ぁ。誰かとおー違い」
腹痛を誤魔化す為にも大仰に反応してみる。…大して効果はなかったが。
「呆れてたけどね」
「あう」
…スケッチブック片手に苦笑してるのが目に浮かぶ。なんつーか、あの人もかなり甘いよな。ここんとこ、コーネフを独占してる所為でポプラン辺りからはかなり非難ごーごーなんだが。
「…ま。気持ちは解らなくもないそうだ」
「…はは。マジ大人ねー」
「アリスの任地が決まるまで治らなさそうだし」
「…仕方ないっしょ。ココだけは嫌だから」
研修先にココを選んだだけでもバカなのに(許可したお偉方はもっとバカ)。
任地もこんなトコなんか希望させたくない。

ココは。

最前線なんだから。

「アイツ、バカだから。嫌われたと思い込んだら希望しないだろ」
純粋で一途で素直で。
エラくガキ。
「…ココに居るのは単なる馬鹿親だけどね」
「お美人様キツい…」
「アリスの評価表!何、あんなに的確につけて」
「…嘘は吐けないもーん」
「即戦力になるって判断されるよ?」
「サブローが居るし」
「矛盾してるんだかしてないんだか…」
「嘘書いたってバレるのがオチ」
評価、酷いのも書けたけど。…こればっかりは嘘吐けなかったな。
どうせ、シミュレーションやらせりゃ、一発でバレるし。
真っ正直に書かざるを得なくて。
だから。
「だから嫌われようとした?…本当にバカだね」
「う〜」
図星っつーのは射されると容赦なく痛い。
「…アリスの任地。決まったら教えてくれるって」
「…そっか」
良いのかよ。軍規の予告破り。…流石は俺の兄弟。
「戻って来た時の事も考えとけよ」
「…」
最終的に決めるのは人事だからなー。そういう可能性も捨てきれないんだよな。…何せ、アレの評価は『適正』なんだから。
「俺もポプランも引き受けないから」
「…キツ」
宣言するなよ。胃が痛いのに。
「今更」
「…なんか恨みある?」
「あの人がね。ライナーが落ち込んで仕方ないってさ」
くすくす笑われる。ったく。
…子供の恋路の邪魔する気はなかったんだがなー。
──────…謝っといて…」



 連載3回目。甘えたアキヤマ。
 どーしてうちのコーさんは甘いんでしょうねぇ(笑)。
 ライオンさんも甘やかしみたいだし(笑)。


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