魔法のスターマジカルエミ

魔法のスターマジカルエミ
魔法のスターマジカルエミ

 DVD COLLECTION BOX 1

「不思議誕生魔法のスター」

 待ちに待ったアニメーション作品のDVD-BOXが発売されたので、今回は、趣向を変えて私の大好きなアニメーション「マジカルエミ」について語りたいと思います。このアニメを語らせるとうるさい方が世界には多数いるかと思いますけど、そこまで私はマニアックに語ることは出来ないので、こんな作品なんだということがわかってくださるだけでも幸いです。

<ファーストインプレッション>
 このアニメを初めて見たのは1985年の7月でした。当時住んでいた静岡では確か東京よりも1ヶ月ほど遅れてスタートしたと思います。1話のオープニングを見て、すごく綺麗な絵とかわいいキャラクタが多数登場するので一瞬にしてこのアニメが気に入りました。当時はビデオデッキを持っていなかったのですが、しっかりと音だけはカセットテープに録音していました。

<このアニメの魅力>
 この「マジカルエミ」というアニメの魅力を語ろうとすると、登場人物、音楽、作画監督、キャラクタデザイン、監督など、あらゆる方面で語ることになり、いくら文字数があっても足りません。それに今までに様々な方々が語っているので、私は自分が好きである部分だけを書かせてもらいます。

キャラクタ
香月舞 by 岸義之&三浦智  主人公の香月舞ちゃんはショートカットです。私は当時から、ショートカットで少しボーイッシュな女の子が好きでした。そして、それと反するようなミニスカート。当時はロングスカートの全盛でしたが、今ちまたではこの程度のミニスカートをはいている子が多いので、舞ちゃんのファッションは時代の先を行っていたといえますね(ミニが災いして1話ではいちごのパンツを翔君に見られてしまうというエピソードもありますけど)。

 そして舞ちゃんが時々発する「エヘッ」や「アハッ」などの擬声語がとてつもなくかわいいというのも魅力の一つです。これについては後でもう少し書きます。

 舞ちゃんが魔法のスティックで変身した姿であるエミは16歳という設定なので高校生ということになりますが、とてもスタイルが良いです。しかし、変身しても中身は舞ちゃんのままなのでかなりきついボケをかましてくれることもありますね。

 他の登場人物も非常に魅力的で、マジカラットのメンバー、舞ちゃんのお父さん、お母さん、弟の岬君、そしてボーイフレンドの武蔵君、憧れの男性(?)の翔君などのレギュラーメンバーや1話限りのゲストキャラがみんなひとクセもふたクセもある人達ばかりで物語をみんなで作っているという感じがします。マジカラットのメンバーとしてはあまり目立つことのないユキ子さんですが、実はものすごい運転音痴だということがバレてしまった「すてきなパワフルドライバー」という話もあります(よく免許が取れたものです)。あと個人的にはテレビ局のプロデューサ小金井氏とその部下の国分寺氏のやりとりが好きですね。

色づかい/作画
 初めて見た時に感じたことですが、画面の色使いがとても綺麗で、水彩画のような印象があります。パステルカラーをふんだんに使っているのも私の好みでした。当時は第一次フィギュアブームでしたが、マジカルエミに限らず女の子キャラのフィギュアにパステルを使って彩色するのも流行りましたね。その淡い色使いと淡々と進むストーリーがとてもうまくマッチしていました。

 そして、全編を通して作画のレベルがとても高いのも魅力の一つ。毎週放送されるテレビアニメは製作会社が持ち回りになっていることが多く、どこのプロダクションが作画をするかで画にバラツキが生じるのは仕方がないことです。また、テレビアニメはビデオアニメと比較して予算も少なく中には適当に描いたとしか思えないカットが入るアニメもあったりします。ほぼ同時期に放送されていた「機動戦士Ζガンダム」でも作画のバラツキが気になったものでした。ところが、「マジカルエミ」はどの回を見ても非常に作画のレベルが高いのです。それは今見てもそう思います。

 当時のスタッフは大変だったでしょうが、結果的に17年経った今でも十分に鑑賞に堪えられる作品を残してさぞ良かったことでしょう。

声優
 主人公の舞ちゃんとエミを演じているのは小幡洋子という新人アイドルでした。これは同じシリーズの「クリーミーマミ」(太田貴子)を十分に意識した配役でしょう。

 新人アイドルがいきなり声優でデビューするのはその後も行われましたが、総じて「演技が下手」で声と画が合っていないことが多いです。しかし、小幡洋子の場合、第一話から舞ちゃんのキャラにとても合った声を出していました。確かに最初は下手だったのですが、その下手故の「えへっ」「あはっ」の何ともいえない素人臭さがすごく魅力的なのです。ベテランの声優が言った方がはるかにうまく出来ると思いますが、素人にしか出せない魅力があります。それは新人アイドルの歌う歌が下手でも、それはそのアイドルが精一杯に歌った結果だから十分に魅力的であり、その時期にしか残すことの出来ない貴重な記録だからこそ好きになるのと同じことです。

音楽
 音楽を担当しているのは奥慶一氏。ジャズ、フュージョン系のサウンドが基本になっています。またマジックものアニメということで、マジックショーのBGMはビッグバンド風の豪華なものになっています。

 そして、メロディがとても覚えやすいのも特徴の一つ。そういうこともあってか、番組のジングルとしても良く使われていました(志村けんの大丈夫だぁが良い例)。音楽集のアルバムは1枚しか発売されませんでしたが、アルバムに未収録の曲も多く、第2弾が出なかったことが悔やまれます。DVD-BOXのおまけにも収録されませんでしたし、もう音源が残っていないのかもしれませんね。

「マジカルエミ・音楽編1
マジカルエミ音楽編1(1986)  マジカルエミで使用された音楽を21曲と“不思議色ハピネス”、“あなただけDreaming”を収録したアルバム。アニメを見たことがある人には聞き覚えのある曲ばかりが収められています。また、“ストリートファイト”は「志村けんのだいじょうぶだぁ」で頻繁に使用されていたのでこの曲だけでも聞き覚えのある人も多いでしょう。

 個人的にお気に入りは“マジック団がやってくる”、“マジカルサンバ”、“ダンシング・ウィズ・エミ”など一連のフュージョン寄りの曲です。また、悲しい雰囲気の場面で頻繁に使用された“ララバイ”も非常に綺麗なメロディで大好きです。アルバムではシンフォニックなアレンジのバージョンしか収録されていませんが、本編ではギターソロやピアノソロなどのバリエーションもたくさんありました。これらもいつかもし機会があったら何らかの形で商品化してもらいたいものです。

「不思議色ハピネス」
不思議色ハピネス/小幡洋子(1985)  そして、テーマソング“不思議色ハピネス”は舞ちゃんとエミちゃんの声を演じた小幡洋子が歌い、作曲を山川恵津子氏が担当しています。この手のアニメの主題歌としては珍しくバース、コーラスとも少しもの悲しげなメロディですね。それは「クリーミーマミ」の主題歌“デリケートに好きして”と比べると良くわかります。毎回この歌を歌いながらエミはマジックを披露していますが、華やかなマジックにはちょっとミスマッチかな。物語後半で使用された挿入歌“南国人魚姫”は夏らしい明るい曲なので、こちらの方がマジックシーンには合っているような気もしますが、マジカルエミの全体を流れる何ともいえない、淡いパステル調の世界観の中では“不思議色ハピネス”の方がぴったりだったりするのでおもしろいです。

 エンディングテーマはシングルB面に収められている“あなただけDreaming”。これは舞ちゃんが翔君に対して思う気持ちを詩にした曲だと思いますが、実際の物語では2人の仲はそれ程発展しませんでした。高校生と小学生ということもあったのかもしれません。でも、企画当初はこの曲のような2人のラブロマンスもあったんでしょうね。

ストーリー
 ある日、鏡の妖精から自分の願いを叶えられ、舞ちゃんはマジシャン“マジカルエミ”に変身する力を得ることになります。それは天才的マジシャン“エミリーハウエル”のようになりたいと思う舞ちゃんの夢でした。

エミ by 岸義之&三浦智  魔法ものなのにストーリーは舞ちゃんの周りに起こった出来事を淡々と描いていることが多いです。安濃監督は何もない日常を描きたかったそうですが、本当に何も起こらない展開も多いです。TVシリーズ終了後にビデオで発表されたエピソード「蝉時雨」などは本当に何も起こらないごく普通の夏の一日を淡々と描いているだけです。

 何も起こらない日常を作品に仕上げるためには登場するキャラクタの魅力が十分に備わっていなければ出来ないので、ある意味「マジカルエミ」は非常に実験的な作品だったのかもしれませんが、上で書いたようにキャラクタ全員が非常に個性的であるためにそれが成功し、「マジカルエミ」という物語全体に漂う独特な空気感、世界観になっています。このような試みをしている作品は他にないでしょう。ここがマジカルエミが今でも根強い人気を誇る理由のひとつになっていると思います。時流を取り入れることなく淡々と日常生活、人間の感情を表現しているだけ。言ってみれば、アニメ版“ペットサウンズ”ですね。安濃監督は同じような試みを翌年「めぞん一刻」でも試みましたが、決してうまくいったとはいえませんでした。

 このように何も起こらない日常を描くということは、エミの存在自身もだんだんと必然的なものではなくなってしまいます。事実、後半の話の殆どはエミが出なくても話は進めることが出来るものが多くなっています。そしてとうとう最後は舞ちゃん自身もエミとは何なんだろうという疑問を抱き、ただマジックがうまいだけのエミよりもいくら失敗しても一生懸命に練習してやる自分の方が楽しいと言うことに気付いていきます。そして最終的に魔法を妖精に返してしまうことになります。それまでの魔法ものの最終回は、主人公が誰かに魔法を見られてしまうなどして返さざるを得なくなるパターンが多かったのですが、主人公自らが自分の意志で魔法を返すというのは前例がないのではないでしょうか。

 そしてそれは皮肉にも魔法を使うことが女の子の夢ではなくなり始めた当時の風潮にもシンクロし、結局「魔法少女ものアニメ」の終焉に繋がっていくことになります…。

 

 今回は魅力を語るだけで文字数が多くなってしまったので、次回DVD-BOX2が発売された時に物語についてもう少し語りたいと思います。

(2002.06.01)

ジャケット写真他は全て私が所有するCD、レコードその他を撮影したものです。

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