団員のひとりごと 第12回

基本

何事でも基本は大切だ。基礎的なことをみっちりやることはとても重要だと思う。基本をしっかり身に付けておくと、その後の事の運びがスムーズである。しかし、それが出来ないのもまた事実である。

「基本」といえば、私は10年前の体験を思い出す。新婚旅行でオーストラリアの島に行き、6日間同じ島に滞在しゆっくりと過ごした。初日は海辺でブラブラしていたものの、それだけではつまらなくなって翌日からはマリンスポーツにチャレンジすることにした。手始めに小さなボート(ディンギー・ボート)に乗って無人島に行き弁当を食べたりした。そして、その次はスキューバダイビングを体験することにした。

日本でも人気のあるスキューバダイビングだが、「初心者でも容易に体験できます」とのうたい文句に乗せられて、その島でも多くの人がチャレンジしていた。まずはプールでマスクの付け方やフィンを履いて泳ぎ方の練習をした。その後、各種器具の簡単な説明を受けてその日は終了した。翌日には、実際にダイビングに出かけると聞き楽しみにしていた。

翌朝大きな船に乗り、同じく体験ダイビングを申し込んだ約16名のグループと供に出発した。初心者でも簡単に海底散歩が楽しめると言う。ただただワクワクしていた私は、この後に一体何が待ち受けているかなどと言うことは全く想像していなかった。太陽がさんさんと輝く中、船は約2時間、かなり沖合いまで到達し止まった。ここで潜るという。インストラクターが指示するままに、私達は準備をし一人ずつ海に飛び込んだ。そしてグループ全員が揃うまで船から水中に垂れ下がったヒモに掴まって待っていなさいと指示された。

最初の方で海に入った私は、約10分間ヒモに掴まっていたのだが、その時突然海水を飲んでしまったのである。水面下にいるダイバーは、トラブルがあっても決して急上昇してはならず、ゆっくりと上がらないといけないと聞いていたものの、どうしてよいかわからなくなった私は、ほとんどパニック状態となり、もの凄い勢いで海面まで浮上してしまった。状況を訴えたところ、船の上のインストラクターは「OK、OK」、「海水は飲んでしまえばいいんです」と言い、再び水面下に戻らされた。

結局、その後は大きなトラブルはなかった。慣れてしまうと面白いもので、船上での昼食後もう一潜りしてオーストラリアの美しい海底を楽しむことができた。そして海水を飲んでパニックに陥ったことなど忘れてしまった。

その翌年、せっかくだからとダイビングのライセンスを取ることにした。夏休みを利用して伊豆での2泊3日の超最短コースに参加した。昼間は技術、夕食後には厚い教科書による講義と問題に取り組んだ。講義の中で先生が最も強調されていたのは「ダイビングに当たっての心構え」、「トラブル時の対処法」、「安全性」といった基本的なことであった。ダイビング技術そのものは、ライセンス取得後にも経験を積みながら習得していくものであるが、こうした基本的事項については最初にみっちりと覚えておく必要があると言われた。これはもっともなことだと思った。

「海水を飲んでしまった時の対処法」についても教わった。「飲み込むのではなく、肺に残っている空気とともに吐くようにしなさい」と言われた。「あの時、こうした基本的なことさえ知っていれば、、、」とつくづく思った。場合によっては事故にもつながりかねないことである。あの時のグループの中でも、「午前中のダイブで怖くなっていまい、午後は潜りません」と諦めてしまった女性がいた。彼女も、もしもう少し基本を教えてもらっていたならば、もしかしたら午後もダイビングを楽しんでいたかも知れないと思うと、やっぱり基本が大切であると思った。

その後、ダイビングに関して種々の事故の報道がなされるのをたびたび耳にするようになった。あの時、業者のうたい文句に乗せられて、何の知識もないのに申し込んだ自分にも問題はあったであろう。それでも大きな事故にならなくて良かったと胸をなでおろした。トラブル発生時には頭では理解していても必ずしも適切に対応できるとは限らないとも思うが、それでも必要最小限の基本は知っていなくてはならない。これは何をやるにしても言えることであろう。

ビオラについても同様だ。基本的なことをついついおろそかにして弾いている自分に対し、この文章を書きながら自戒の念を感じずにはいられない気持ちとなった。明日から基礎をみっちり練習しようかな?(←三日坊主にならないように祈ります)
担当: ビオラ 小川
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