団員のひとりごと 第26回

階段に潜む悪魔

担当 : チェロ 大塚
「○○病院の階段には悪魔が潜んでいる」。おお!何とショッキングな出だしでしょう。恐らくこの事実に気づいているのは小生だけだと思われます。試しに数人に話したところ、「可哀相に疲れているのね」といった同情的な反応をする人は一人ぐらいで、他の人は、「馬鹿なこと言ってるねえ、わたしゃね、忙しいんだよ、そんな暇ないの!」という目で見ます。でも、この秘密の大きさがゆえに、耐え切れず、ここに駄文をしたためているのです。

○○病院は4階建てなので、階段もそれほど長いわけではありません。でも、年期が入っている建物なので、階段の照明は控えめで、昼間でさえ薄暗く感じられます。そんなある日、夜間、消灯過ぎに、一人で階段を昇っていくと、、、その時は考え事をしていたのですが、ふと背後から、足のふくらはぎ辺りからじっと見上げている視線を感じて、「ゾクッ」としました。振り返る勇気がなくて少し早歩きで階段を昇りきり、部屋に入りました。その夜は階段をそれ以上歩く気になれなくてエレベータを使いました。

翌日は休日で、昼間に階段を上がりました。3階から4階に昇る人は稀なので、音が良く響きます。すると、また視線を感じたのです!今度は昼間だし、人も近くにいますから、心強いので、「ハッ」と振り返りました。しかし、そこに見えたのは壁だけでした。壁といっても薄汚れているので、「目か何かの模様が見える気がするのかな」と、暫らくあれこれ見ていましたが、何もなさそうです。

その日は時間の余裕もあったので、階段を歩く時には、ゆっくり上がり下がりしてみました。すると、その視線のような気配は3階から4階に行く時だけ現れるのです。1階から3階までは出ません。その視線は、「隙あらば、その肉体を滅ぼしてやるぞ!」といっているような不気味なものでした。

幸いなことに、その後はしばらく間、仕事が忙しいこともあって、そのようなことは忘れていました。かれこれ、1ヶ月後くらいですかね。夜、またその視線を感じたのです。今度は、「エイッ」と振り返ってみました。しかし、やはり壁しかないのです。手すり側は、身を乗り出せば階下まで見えます。高所恐怖症なので、そんなことはめったにしませんが、覗いてみたものの、何にもいません。

「悪魔」という言葉が一瞬で胸に入ってきました。この言葉は、何も不安が無い時には何の感情も呼ばないのに、この様な時には、恐ろしさが襲ってくるのですねえ。「思ってはいけない」、「浮かべてはいけない」、と思うほど、フワフワとこの言葉が浮かんできて、一人、恐怖の中にいました。「エレベータに乗ればいいのに」と考える人もいるとは思いますが、クヤシイので階段を使い続けました。「悪魔」の所作はエスカレートして、視線だけではなく、時には、小生の足を重くし、時には、小生の精を切らせました。

階段を上がるときには、人通りを確かめるために、フモトから頂上を見上げるわけですが、1階から3階までと、3階から4階までは何となくイメージが異なることを、以前から気づいていました。そのようなある日、ふと思いついて、階段を数えてみました。いままで、漠然と感じていたことを、客観的に立証しようと思い立ったわけです。1階から2階までは、10段づつ20段ありました。右足から踏み出すと左足で終わります。2階から3階も同じ。

しかし、3階から4階は右足から踏み出したにもかかわらず、左足が消えたのです。つまり右足で昇りきった訳で、11段づつで22段ありました。1階の高さは、全階段で同じなので、3階から4階に行くときには、2段分高かったのです。「3階から4階に昇るぞ」と決心するときに、いつも感じていた、「あの漠然とした違和感」の原因がわかりました。

そして、序でに、悪魔の正体もわかったのです!つまり、「2段分の疲労が悪魔の視線となっていた」という訳です。「な〜んだ、そんなことですかあ〜」と、あきれる人も居られるかもしれませんが、小生の恐怖は今まで以上に強くなりました。「滅び行く我が身」を、はっきりと感じ、自覚させられたのです。私の細胞が、その破滅の危機を私に訴えたのです。「朱夏の終焉が近づいているぞ!」と。

そらからは、ジョギングやバレーをしたり、子供と運動したりして体力の回復に努めました。。悪魔は今のところ消えています。「出てくるなよ、な!」。かような脅しをかけてから階段を昇っています。小生だけが知っている○○病院の秘密です。口外しては、いけません。あなたに悪魔が取り付かないことをお祈り申し上げます。

ひとりごとへ戻る