団員のひとりごと 第25回

ある日の練習後の会話。「いや〜〜〜、ボクってリズム感がいまひとつ悪いんだよね〜〜〜」とメンバーの一人が言いました。小生がそれに答えて「ボクはリズム感はわるくないよ」。相手は、一瞬どんな反応をして良いか迷ったらしいのですが、次の言葉を聞いて得意顔になりました。「だって、ボクはリズム感がないんだから」。この屁理屈のような、逆説めいた言い訳のような言葉ですが、悲しいかな、的を射ています。

リズム感はどうやら天性のものらしく、「生まれつき備わっていない人には、後天的に身に付かない」らしい。複数の人からそのような内容の話を伺ったことがあるが、逆に「努力次第でリズム感は付きますよ」と言った人がいたためしがない。

四重奏の練習のあるとき、「チェロはここで少しおくれますね」と言われたことがある。そこは、単に4分ごとに刻んでいるところ(8分音符+8分休符の意味)だから、「遅れる道理がないでしょう!」という意味である。自分でも遅れることがあるのはわかっているのであるが、どうして遅れるのかがわからなかった。

注意してやっていると原因がわかったのでこう言った。「ここで、ファーストの旋律が1オクターブ上がるでしょう。だから遅れるんです」と、得意満面でのたもうたのですが、周囲の反応は冷ややかで、「そんなことが理由になるの?」という雰囲気!小生と同じようにリズム感で苦しめられている諸兄には少し理解していただけると思うのですが、少し解説しましょう。

私の体内にはリズム感がないから、当然誰かを頼るわけである。その曲では、ファーストに頼ってメロディを聴きながら刻んでいる。ファーストが低い音程で歌っているときには、チェロとの和音は2オクターブ違いだからつかみやすい。ところが、同じ旋律だが、突然1オクターブ上がると、チェロと3オクターブ離れることになる。この時に、チェロの小生は動揺するのです。「あれ!今まで、わたくしと蜜月のようにハモっていた貴方であったのに、なぜ断りもなく遠くに行ってしまわれたの?」と、かような具合ですかな?つまり3オクターブ離れたために和音がつかみにくくなってしまい、音程に確信を持つ間の2〜3の刻みが遅れてしまった、ということなのです。

曲の途中で突然リズムを失うことがあるが、どういう時であるかを分析すると、休符の後や長い音の後に、この現象が起きている。例えていうと、リズム感のある人は「草原を流れる小川」に似ている。川のふちは石でかためられ、川床も砂利が敷き詰められている。水量は多くないが、絶えず流れていて枯れることはない。リズム感のない人は、「砂の平原を流れる細い一筋の小川」に似ている。絶えず4分音符や8分音符という柄杓で水を足してやらないと水は砂に浸み込んで消えてしまう。そんな時に、休符(や長音)という恐ろしい「手休め」が来ると水は砂に消えてしまい、その痕跡を探し出して川が再び流れ出るのは困難、なのであります。

努力は少しですがしています。メトロノームに合わせて足の親指を動かすとか、裏拍の練習を続けるとか、、、。

メトロノームがある間は良いのですが、その音が消えた瞬間、私の周囲には荒涼とした空気がまとわりつき、冷え冷えするのです。夏の暑いときでさえも。

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担当 : チェロ 大塚

リズム感