団員のひとりごと 第16回

担当: ビオラ 小川
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親指

しばらく前のことですが、楽譜の製本をするためにカッターを使っている最中に左手の親指を切ってしまいました。爪を貫通するようにかなり深く切ってしまい、その後2週間ほど親指にぐるぐると包帯を巻いて過ごす生活となりました。いろいろと不便ながらも、幸い仕事は何とかこなすことができてホッとしたのですが、一番困ったのは楽器を弾くことでした。

最初は「親指だから指盤を押さえるぶんには問題ない!」と思ったのですが、それも束の間、すぐに大いに問題があることに気付かされたのです。ちょうど赤ちゃん同窓会での演奏を控えていたところであり、「このままで本番は大丈夫なのか?」と不安になりました。

包帯を巻いた指で、恐る恐るネックを支えてみる。少し痛かったのですが、痛み自体は何とか我慢できそうです。しかし、実際に弾き始めてビックリしました。他の指で指盤を押さえることができないのです。押さえようとすると、包帯を巻いた親指がツルリと滑ってしまうので、他の指もずれてしまいます。ポジション移動をしようものなら、目的の位置を越えても親指が滑っていき止める事ができません。

それなら!と思ってゴムのサックをはめてみました。これで滑らずに固定できそうです。しかし、今度は親指がスムーズに動かせなくなってしまい、思うようにポジションを移動できません。結局、包帯を巻いている間はろくに楽器を弾くことができず過ごすことなりました。しばらくして包帯が取れ、生の親指でネックを支えポジション移動した時に、初めて親指がいかに大事であるかということを知ったのでした。知らず知らずのうちに、左の親指はちょうど良い摩擦で、ちょうど良く固定と移動を同時に行っていたのです。

先日、チェロを弾く友人と話していたところ、彼もまた演奏会の直前に鎌で左人差し指を切ってしまったと言っていました。何針も縫って、装具のようなものでしばらく固定されたらしく、しばらくは人差し指を使わずにチェロを弾いていたようです。チェロで人差し指が使えないのも非常に困りますが、私との違いはそれが親指でなかったという点です。実際にチェロを弾くのには困難を感じたようですが、親指での支えと滑りには支障を来たしていないようでした。さらに、チェロは左親指で楽器を支える必要がないため、この点でもバイオリンやビオラとは大きく違うと言っていました。

その時の話の中で、他の友人が「弦楽器では、親指は昔からキング(王様)と言われている」ことを指摘していました。「弦楽器演奏において、左手の役割を果たすには親指が最も大切である」ということなのですが、今回私も親指を怪我してみて、「まさにその通り」と思いました。ふだん左手に関しては、実際に指盤を押さえる人差し指〜小指に神経を使いがちですが、キング(=親指)がいかに重要であるかに気付かされた出来事でした。

弦楽器を弾く皆様、親指の怪我には十分に注意しましょう!