亦、三菱電機岩崎弥太郎記念会館にも漆画大作を入れてくださり、三菱関連会社の取締役会で 一堂が集まる会議室正面にその大作を掛けて下さりました。
高杉氏曰く「三菱関連会社の重役達がこの部屋に入る時、正面に飾ってある先生の作品に向か って敬意を表し頭を下げて入るよ」と笑顔で申された事で、
白翁は深い感銘と感謝の気持ちを持って深々と頭を下げたとの事でした。
以後、近鉄・大和・東急・伊勢丹・小田急など各デパート美術画廊や資生堂ギャラリー・経団 連会館・アメリカン倶楽部などで「漆画展」や「乾漆硯展」「漆絵版画展」を開催し大いに活 躍します。経団連会館・〈明治の間〉で白翁乾漆硯展を開催した折、会場に於いて集まる人達 の前で自作硯にて墨を磨り、漆硯に対する白翁持論の趣意を書き表し、また書画を描いて実演 をして見せました。
数十点展示されている硯横にその趣意書を共に飾っておりました。
それには次のように示されておりました。
【漆の醍醐味は黒漆に始まり、黒漆に終わる。色彩漆も亦良し。最良の油の入らない漆で、乾 漆作りの技法にて堆漆を繰り返し制作。漆の肌は天女の肌より勝るとも劣る事無し。神秘の妙 力あり。乾漆へら藝に依る乾漆硯にて心静かに名墨を磨る時、阿吽の呼吸整えば宇宙の妙音を 聴く。墨色に七色の変化を自覚す。十回墨を磨りて墨色を見る。二十回、三十回、四十回とそ の都度墨色を見る。更に続け百八回と人間煩悩の数まで磨る。その以前に良き墨色の頃合を見 てその段階の墨色に合う作品をそれぞれに思考し挑戦す。此れにて墨絵又は即興の詩書を楽し む。 藝道無門 心の技を第一とす 快哉・・・】と記されておりました。
この趣意と共に会場で実演した墨絵類や詩書も共に飾られました。
その時代の記に次の様な文も残されております。
「藝術とは長い歴史の中で育てられ、愛されてきた美を人の努力と感激によって創られたもの である。自然の花は美しく咲き、そしてすぐに散る。ある素材の独特なる表現様式によってそ の美を散る事のなき姿に表現出来る。それが藝術である。その美も不変である事を望む。藝術 価値とは何か、広く宣伝される事によって価値観は高まる。社会人が良いと言うから、あの人 の作品に価値があり秀れたものだというから、楽しみながらも次第に価値も出てくる。出るか らそれで買う。真の藝術価値ある作品は心安らかに鑑賞する時、ほのぼのと豊かに心の糧とな るべき作品・・・それが価値ある作品である。ただ有名だから宣伝されているから価値ある作 品とは思われない。芸術は人なり。藝術に国境なく、萬人の心の糧となる秀れたる作品は、真 の芸術的価値あるものである。めくら千人・目開き三人と人は言う・・・」とあります。

昭和三十五年、スイス・西独の展示会に出品。又米国人グレンショウ氏の紹介でアイゼンハワ ー大統領、ダレス、ケネディ、パブリックライブラリー等に作品を納入します。
この年、日米修好通商条約批准交換の為、万延元年二月十日、我が国初の遣米使節が、アメリ カから派遣された軍艦ポーハタン号で寄港。
また別に同じ使節随行として、木村攝津守や他の随行員が徳川幕府の軍艦咸臨丸に乗って、渡 米してからちょうど百年にあたり、それを記念して吉田茂総裁を団長として「日米修好通商百 年記念」が行われました。
その記念行事の折に、二九八名の功労米人各人に白翁の漆絵版画・「咸臨丸」(八号)の寄贈 が決まり連日の制作に取り掛かります。漆絵版画は数多くの枚数が取れぬ為、原版となるべき 咸臨丸の版を、幾十通りを制作しなくてはならず、気管支炎で苦しむ白翁にとっては、病院と の往復で連日が試練の連続でありました。白翁は昔より弟子は持たず、力の要する作業を手伝 う息子を「私の唯一の弟子」と人に語っておりました。
記念式典には吉田茂氏をはじめ日本貿易会会長稲垣氏・大東防織会長吉田氏・東洋紡績会長阿 部氏・富士製鉄社長永野氏・日本放送、富士テレビの鹿内氏など当時の政財界の花形が一同に 会しました。白翁は吉田茂総裁より心のこもった感謝状を受けアトリエに飾るのでした。

白翁の記に「百年の間、米国人で日本に対して発展友好親善に貢献されたる人達二百九十八名 選出され、それぞれその人達の略歴や功績を収録し記念品を贈呈される事になり、難航中の咸 臨丸をテーマとして漆絵版画の作品を、日本政府並びに日米協会から依頼あり。麻地のキャン パスに漆にて表現せるもの、紺地麻上に咸臨丸は純金、波は純銀で表現す。
漆絵版画手法に依り、漆で押された咸臨丸に純金箔を置き、その上に薄美濃紙を置いて丸型刷 毛打ちを用い、軽く叩きながら漆に付着させる。波も同じく押された漆上に純銀箔を置き叩い て漆に付着させる。
八号サイズの紺地麻中心に、横長の円で大きく空間をあけその中は、麻生地の紺をそのまま生 かす。円以外他の回り全てを朱漆で押す。所謂、朱地外枠内の空間で長円形に抜かれた紺地の 中で難航する咸臨丸を表現。それぞれに特製額入りにて収めました。
友好親善に功績のあった表彰された人々の中には、時代はさかのぼりハリス・ペルリ・そして マッカーサー元帥・バイニング夫人・ライシャワー大使両親も入っておられた。作品一枚ごと に表彰状を付けて日米協会長の吉田茂氏サイン入りで送られた。
10/19P



1 2 3 4 5 6 7 8 9 # 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20