星が先を決めると教えてくれたのは誰か?
それで、先が分かるのなら、状況は変えられないと言うのか?
それでも、変えたいと、決めたいと…願う。
--- 天体観測 :星を読む先 ---
「チェス?」
森の中にある泉は枝による遮りはなく、夜空が綺麗に水面に映し出されている。
その泉の側に立ちチェスターは星が満面に輝いている夜空を眺めていた。
「……二人そろってどうしたの?」
自分たちの方を向き、チェスはいつものようにあっさりと聞く。
「二人揃って…って、チェス、あなたのことを捜しに来たんでしょう?」
そう、クロンメルはチェスに言う。
僕達、ワール・ワーズは、用事で、アルタミラの近くにある森までやってきた。
ちょっとした用事を言いつけられたからだ。
「捜しに…?ごめん、ちょっと出てくるって言わなかったっけ?」
「聞いてないよ」
「ごめん。言ったと思ったんだけどね」
申し訳なさそうに、頭をちょっとだけ下げて、一息ついた後、チェスはまた夜空を見上げる。
「で、チェス、何を見てるの?」
「…星の位置を読んでいたんだよ。この先何が起こるか分からないからね。星の位置を読んでおけば、それなりに対処が出来るかなって思ってたんだけど…」
そう言って、チェスはうつむく。
「…で、位置はどうだった?」
「どうだろう…。ボクは専門家じゃないから…何とも言えないけど」
とチェスは言葉を濁す。
「あまり、良くないって事か?」
「…というわけでもないんだ。…良くも取れるし、悪くも取れる」
そう言って、チェスは目を伏せる。
チェスターは基本的にポジティブな人間だ。
何か困ったことがあっても『大丈夫、何とかなるよ』の言葉で片づけてしまう。
そのチェスが、いつもの言葉を吐き出さない。
…先が読めていない事への不安なのかもしれない。
「で、生来の楽観主義者のあなたは、どちらを採用するんですか?」
「クロン、採用って…ボクの一存でこれからどうなるかなんて決められないよ」
クロンがちゃかした言葉をチェスは苦笑いで応える。
「でも、変えることは出来るんじゃないの?」
「マレイグ?」
僕の言葉にチェスとクロンが顔を向ける。
「俺たちが変える。チェス、いつもそう思ってたんじゃないの?」
チェスターだけじゃない、僕やクロンメルも思っていたことだ。
自分たちの手で、変えたいと。
それは、あまりにも無謀なことなのかもしれない。
けれど、一人じゃなくって、クロンやチェスとだったら、何とかなるかもと思ったことは事実だった。
「……そう…だね。そうだね、今、ここで落ち込んでいる場合じゃないよね。大丈夫、何とかなるね」
いつものチェスターに戻る。
「二人とも、空を見てみなよ。綺麗だよ」
チェスの言葉に素直に僕とクロンは夜空を見上げる。
天鵞絨(ビロード)の…という表現が似合う夜空に瞬くたくさんの星々。
「…クロンは星座、どれくらい知ってる?」
「えっ?いきなり、何言うのよ」
「知らないの?」
「知ってるってば。俺を物知らない人間だと思うなよっ」
静かな夜に、3人の声が響き渡る。
星が先を教えてくれなくても、何とかなるかもしれない。
そう、思って、静かに夜空を見上げていた。