始まりの鐘がなる。
 それは未来への祝福の鐘か。
 終焉の鐘か。

 今、ならさんと言う者にしか分からない。

送り出す思いのその先に--- Self control ---

 夜の街に歌が響く。  ウツ、キネ、テツの三人は夜の街に出て歌声と音を響かせる。  それは三人の意思表示であり彼らを苦しめていた『組織』への対抗措置だ。  三人が響かせる音は実際に聞こえる音とは違う。  音は、空気を振動させて周囲に音を伝える。  秒速340mと言う速さでその音を届けるのだ。  誰も、何も邪魔をしなければ。  実際には空気の流れる抵抗や、ビル、建物等の反射で届く範囲は狭い。  その狭い範囲にいる物だけが『その音』を捕まえる事が出来る。  だが三人は違う。  テレパシストであるキネがシンガーであるウツの歌声、思念、音を飛ばすからだ。  今夜も三人は夜の街に繰り出していた。  誰も入ってこないビルの屋上。  見つけたのはテツ。  こういう事になるとテツはすぐに思いつき、適した簡単に場所を見つける。  三人はテレポーターであるテツの力で屋上まで来た。  誰に見つかる事もない、知られる事もない。  三人の問題は自分たちを縛り続けていた『組織』であるから、彼らに遭遇せずに入れるこの(テレポートという)手段は素晴らしい物だった。  そして三人はおのおのに自分の準備をする。  誰かに届くように三人は夜の街を見下ろしながら歌を歌うのだ。  今日、歌う歌は何曲なのか、それを決めるのはヴォーカルであるウツだ。  今日のウツはいつも以上に乗っていた。 「気持ちよさそうだな、ウツ」 「うん、そうかな。今日は気分がいい」  ウツはキネの言葉に頷く。  そんなウツの歌にテツも気づいているのだろう。  彼の鍵盤を叩く指も楽しそうだ。  キネのコーラスも綺麗にウツの歌を縁取っていく。  いつも以上に彼らが奏でる音楽が夜空を走っていく。  まるで世界が彼らの歌で彩られるように。 「今だったら、空を飛べそうな気がする」 「お、ウツがそんな事を言うなんて思わなかったな」 「いつでも思うよ」 「そうだね、昔とは違う。今は自由だよ。どこに行ったって構わないんだ」  テツの言葉に二人は頷く。  彼らは夜のビルの屋上で自由を謳歌しているのだ。 『組織』を挑発しながら。  ウツの歌声が夜空に響く。  シンガーは自分が歌う歌の情景を人に見せる事が出来る。  その能力を特化させているウツは自分の歌を聞く人に、聞こえる人に届ける。  その時だった。  ウツの歌声に重ねて歌う誰かに気づいたのは。  柔らかい歌声は、決してウツの歌声を邪魔しない。  そして、その歌声は三人が知っている歌声だった。 「ミッコちゃんの歌声だ」  キネが呟く。 「うん、ミッコちゃんだね」 「どうしたんだろう」  ウツとテツの耳にミツコの歌声は聞こえる。  でも、彼女が伝えたいメッセージが分からない。  シンガーは情景を見せる他に歌にメッセージを載せる事が出来る。  ミツコのシンガーのレベルはウツのそれよりも弱い。  近くに行けば強く受ける『言葉』も離れる事に聞こえなくなる。  そのメッセージを読む事が出来るのはテレパシストのキネだけだ。  キネは遠くにいても『言葉』を受け取る事が出来るのだ。 「なんて?」 「TAKに逢ったって。今、一緒だって」  彼女はドコにいるのだろう。  久しぶりにミツコに逢ったのは一週間ほど前の事だ。  テリトリー的には行きたくもない所だがミツコがいるのならば仕方がない。  三人が記憶する限り、ミツコはずっとそこで歌っていた。  ウツと同じ能力を持つシンガーで、柔らかい歌声を持つミツコ。  三人と気が合うミツコは本心を奥底に隠していた。  それに最初に気づいたのは周りを実はよく見ているテツだった。  だから、テツはミツコを仲間に引き入れようと決めたのだ。  そしてそれは成功した。  歌をうたう事を好きなようにやりたいと、ミツコは三人に吐露したのだ。  そのミツコには監視がついている。  特殊能力者が故に、『組織』にいた頃のウツと同じ様に監視がついていた。  ミツコについていた監視の青年は愉快な青年だった。  『組織』を抜けだした後ミツコに話を聞いた限りでは辞めてしまったという。  だが、『組織』にいる以上自ら辞めると言う事はない。 『組織』が辞めさせるのだ。  おそらく彼は別の場所にいるだろう。  同じく監視付で。  そして彼がいなくなってもミツコの監視が弱まるわけではない。  むしろ、厳しくなったようなそんな風に思う。  彼が自分たちと親しかったせいだろう。  そしてもう一つ。  ウツの逃亡に手を貸した(『組織』はそう思っている)のはウツを監視していたキネやテツだからだ。  だから同じ様にミツコの逃亡を手助けすると『組織』が思うのも無理はなかった。  今、ミツコには強い監視がついてるはず。  そう、はずだった。  だが、ミツコは今歌っている。  歌にメッセージを乗せて歌っている。  監視がいたらそんな事出来るはずがない。  聞こえるそれに再びウツも歌い始める。  夜空に響くその歌声は、柔らかくそして優しい。  夜のしじまを汚さぬよう、優しいメロディが辺りを包んでいく。  それにキネがコーラスをテツが電子ピアノを重ねていく。  人が眠りについているこの時間、彼らの歌はどんな風に届くのだろうか。  その歌が見せる情景の儘、おそらくは優しく甘い夢なのだろう。  それを紡ぐ側にいる自分たちはその夢を見る事は出来ないが。 「TAKがそばにいるって言ったね」  気持ちよさそうに鍵盤を叩いているテツがキネに聞く。 「そう、TAKに連れてきて貰ったって」 「監視の彼はいないのかな?」  テツはあの時、一週間前にミツコの元に行ったとき感じた気配を思い出す。  あの時、ミツコを連れ出そうとしたのだ。  ウツや自分たちと同じ様に組織に囚われていた彼女を。  彼女に自由を見せるために。  だが、三人は突然進入してきた思考に邪魔をされたのだ。  そのせいで逃げざるを得なかった。  だが、今は?  気持ちよく歌い、その歌にメッセージを載せるミツコの側にはTAKしかいない。  TAKはテレポーターだ。  本人は気づかれていないと思っているだろうが、テツには彼が能力者、自分と同じテレポーターである事をテツは気づいていた。 「あぁ、ミッコちゃんの側にいるのはTAKだけみたいだ」 「……どうするの?」  キネの言葉を受けウツがテツに顔を向ける。  ウツにとってミツコは同じ境遇にあった同士だ。  ウツはキネとテツのおかげで組織から抜け出す事が出来た。  今だ組織に囚われているミツコに対し、ウツが何も思わないはずがない。 「行こうか、ミッコちゃんの所へ」  テツの言葉にウツとキネは頷く。  そして、テツのテレポート能力で空間を飛んだ。
*****
「え?」 「は?」  ミツコとTAKが二人そろって面白い顔をしている。  突然現れた三人に目を丸くしている二人を見て、キネは思わず吹き出しそうになった。  三人は正確にミツコとTAKの目の前にテレポートした。  彼女は気持ちよく歌っている時で、傍らのTAKはギター片手に弾いていた。  そんなときに現れたのだ驚かない訳がない。 「どうしてここに……」  まだ驚きから冷めないTAKが唖然としながら問いかけてくる。 「ミッコちゃんからメッセージを受け取ったから」 「え?」 「アレ、言ってないの?」  TAKの驚きにテツは首を傾げる。  ミツコはキネの能力をTAKに教えてなかったのだろうか。 「メッセージってミツコさんのメッセージは歌に乗せられてるんですよ。そう簡単に読む事なんて」 「キネくんがミッコちゃんのメッセージを読む事出来るんだよ」 「え?木根さんってただのテレパシストなんですよね、ミツコさんから聞きましたけど…」 「ただのってヒドいなぁ、まっちゃんは。俺は偉大なんだぞ!!ウツの歌を飛ばしているのは俺なんだからな!」 「え?」  やはりTAKは自分の事をただのテレパシストだという認識しかなかったらしい。  そう考えキネはクイズの用にTAKに問いかける。 「オレ達のいたところからココまでどのくらいあると思う?」 「…まさか、そんな遠い距離じゃないですよね…」  信じられない様子でTAKは言う。 「で、テッちゃんどのくらい?」 「え?キネくんっ。全く…僕が結局説明するはめに」  テツの不満そうな言い分と顔に苦笑いを浮かべるキネを見て楽しそうなウツ。  いつもと変わらない三人を見て、ミツコは笑顔を見せる。 「なんでいつもと変わらないんですか。一応ココは組織の領域で、あなた達は組織から追われてる身だって言うのに緊張感がまるでない」  呆れるように言ったTAKに 「んー本当に望んでる事を今できてるからかな?」  ウツは笑って答える。 「緊張感ぐらいはあるぞ、テレパス感知範囲を広げて誰が来ても平気なように対処してるからな。逃げるときはテッちゃんに任せればいいし」  キネは自慢げに言う。 「僕が一番負担多いような……。まぁテレポーターだからしょうがないんだけどさ。じゃあ、再会を喜ぶのはこの辺にして、これからの事を話そうか」  ミツコとTAKの顔を交互に見ながらテツは言う。 「これからの事?」 「どういう事?」 「とりあえず、キネが今言ったように、キネのテレパス感知内に組織の人間はいない」  テツの言葉にキネは頷く。  その言葉にミツコは疑問を抱く。  彼らは何をしようとしているのだろうかと。  その疑問を悟ったのだろう、ウツが笑顔を見せて言う。 「ミッコちゃん、TAK。遅くなったけどオレ達の所に、オレ達と一緒に行こう」  そして手を差し出した。 「……一緒に?」  ミツコは差し出された手を見つめウツの顔を見る。 「そう、一緒に」  テツが言う。 「……いいの?」  出しかけた自分の手をミツコは見つめ、もう一度問いかける。  その手前で躊躇している様だった。 「あたし、皆の所に行っても迷惑じゃない?」 「迷惑なんてないよ。大歓迎さ」  そう答えたキネに同意する様にウツとテツも頷く。 「行こう、一緒に。組織の力におびえる必要も無い」  ウツの言葉に、それでも戸惑うミツコの背をTAKが押す。 「TAKっ」 「組織から逃げたいって顔に書いてありますよ。ミツコさん」 「そ、それはそうだけどっ」 「だったら、逃げたもん勝ち!!!」  テツはそう言った。
*****
 彼らと共に行かなかったTAKは探していた少年と共に夜空に耳を傾ける。  夜空に響く音と歌声。  三人のメロディ。  ミツコは側で聞いている。 「こう言うのって、特権っていうんだよね」  なんて言葉と共に楽しそうに。  そしてウツ、キネ、テツの三人はいつものように夜空の中で歌う。  彼らが望んだステージの上で。
---あとがき---
TM NETWORK27周年お祭りに提出した話。
眠さ大爆発の中でかいてたから旨い具合に行かなかったんです。
まずはその時の後書き。
別名ミッコちゃん救出編。
裏テーマ、松本、グラミーおめ!(書きだした時期がグラミー賞の頃だった)
裏テーマのせいでTAKが出てきてる。
…………………仲良し3人組があまり出てきてないような?
SF設定が生かし切れてないような……。

この話はミッコちゃん救出編となっているとおり『その願いの為に手を伸ばす』の後の話です。
で、『彼が連れてきた少年』に繋がるようにラストに松本と一緒に少年がいます。
確か……………記憶があやふやなのですが…………ミッコちゃんを最初に監視していた青年がべーあんだったような?
読み直したらべーあんみたいですね。愉快な青年って書いてあった。