あの時、聞こえた声は勘違いだと思いたかった。
あまりにも透明感のある声。
ありとあらゆる『モノ』に染まりながら『ソレ』だと分からさせる声。
その声の持ち主をはっきりと理解していながら、否定したかった。
あの声が聞こえた場所は、嫌悪感をもたらすものでしかなかったから
--- 幼なじみ : 〜否定したかった事実〜 ---
「ナオト、お前に会わせたい人がいる」
男は少年…キネにそう告げた。
自分を拾った、このカイバラ(後に、組織随一の実力者となる)と言う男をキネは好きではなかった。
行くあてもなく呆然としていた自分を拾った理由はテレパスであるキネの能力を持ってすれば、簡単に彼の思考から読みとれた。
ある『人物』の世話をすること。
要約すればある『人物』の監視だ。
人の良い笑顔を見せながらその奥に隠れている欲望は果てしない。
そんな所がキネをカイバラを嫌いにさせるますますの要因となっていた。
「構わないな」
キネの返事を待たずに、カイバラは部屋を出る。
今から、その人物に会わせるというのだろう。
どんな人物なのだろうか。
カイバラの思考を読むのも簡単だったが、読みとるのも面倒だと思い大人しくしていることにキネは決めた。
キネとカイバラを乗せた高級外車がとある雑居ビルの前にとまる。
どう考えても、その場所は廃ビルとなっている場所で…。
『………っ』
車を降りた瞬間、思考と、ヴィジョンがキネの脳裏に響く。
『やっぱり…ここか…』
つい最近感じた思考。
考えたくなかったと言うのが正直な所だった。
「ナオト、ここにいるんだよ」
ビルの一室に設けられた部屋にカイバラはキネを連れてはいる。
カイバラに付いている男が奥の部屋に向かい、一人の少年を連れて戻る。
年の頃はキネと同じくらい。
面影は全く変わりなく、初めてあったときと同じ様子をキネに見せる。
「っ?」
向こうがキネに気づく。
『顔に出すなっっ。今は、何も興味ない振りして』
突然のテレパスに少年は驚く。
キネは昔彼から感じていた思考波を読みとりそこにテレパスをのせて送り続ける。
『オレ達が知り合いだって言うことを知らせちゃ行けない』
「ナオト、紹介する。タカシ・ウツノミヤ。組織が誇る能力者だ。つい最近発見されたシンガーの能力保持者だ」
『キネも能力者だったのか?』
『テレパシスト。だけど、組織には必死に隠してる。知られないように隠すことは昔からやってたからな』
少年の問いを受けてキネは答える。
「どうだろう、キネ。彼の世話を頼めるかな?」
カイバラの言葉に静かにうなずく。
そんなことよりも、今は早くカイバラや他の連中がこの場から居なくなるのをキネは静かに願っていた。
「…やっぱり、ウツだったのか」
カイバラ達が居なくなったあと、ほっとしたようにキネと少年…ウツ…は息を付く。
「なんだよやっぱりって」
「こっちのこと。…ソレより、ウツお前今も歌は歌ってるのか?」
キネは不意に疑問に思ったことを聞く。
あの『雨の日』に聞こえた声は間違いなくウツの声で…。
ソレを確信していても、ウツに確かめることは出来ずに、昔、ウツがやっていたことを思い出したかのように付け加えた。
「…一人で、好きなように…かな。ここにいるせいで…自由には歌えないんだけどね…」
「…で、お前の正直な気持ちはどうなんだ」
「…歌い…たい…かな。無理かもしれないけどさ」
寂しそうにつぶやくウツに、キネは言葉をはく。
「何とかしてやるよ」
「何とかってどうするんだよ」
「オレも、お前も組織にいる。お前がこうしたいって言えば、カイバラの様子じゃ、叶えられそうじゃん?オレも一緒にやるって言えば、うまくいきそうだし」
「…むちゃくちゃだなぁ」
「何言ってんだよ、ウツのためなんだからな」
「……キネ…」
「な、なんだよ」
「…なんか…腹黒い」
「は?」
ウツの言葉にキネは驚きを隠せない。
「腹黒いって何だよ」
「いや、思ったまま言っただけだって。でも、サンキュ、キネ」
笑顔を見せて、ウツはキネに礼を言う。
「気にするなって。きっとうまくいくからさ」
そう言いながらキネはウツを安心させるかのように笑顔を見せた。
本当は、そこにいて欲しくなかった。
ここは思っている以上にひどいところで、こんな所にいるのは自分だけでいいと思っていた。
それでも、知り合い以上の、昔からの幼なじみの彼に再会出来たことは自分の中でひどく心強かった。
誰かが会わせるべきじゃなかったと言うかもしれない。
でも、彼と再会して自分の求めていた場所を得た気がした。