真夏という季節に似合わない温度をもたらしながら、雨は静かに降り注いでいた。
--- いつもそばに…:冷たい雨に打たれて ---
マレイグは一人、冷たい雨に打たれている。
俺やチェスターが何を言っても屋根の下に入ろうとしない。
「チェス、どうする?」
マレイグを悲しげな表情で見つめるチェスターに問いかける。
「……何も出来ないよ…。どうすることも。クロン、ボク達はマレイグと変わってあげることも出来ないんだよ…」
そう言って、チェスターは俯く。
冷たい雨はまだやまない。
昨日まではうだるような暑い毎日だったはずなのに、今日は一変して寒空に変わった。
マレイグの気分と呼応するかのように。
不意に、チェスターが座り込む。
「チェス?」
いつも抱えているキーボードを調節し、メロディを奏で始めた。
「クロンメル、ボクね、…やっぱり、出来ること考えたんだ。そしたら、コレしかないでしょ?」
神経質そうな指で、鍵盤を静かにたたく。
「そうだな…」
愛用のギターを抱え、チェスの曲にあわせるように伴奏を付けていく。
雨の中に立って俯いていてもいい。
でも、俺とチェスは、いるから。
存在を、強く示すわけでもない。
ただ、…マレイグの気が休まればいい…そんな気分で奏でていく。
「何してるの?二人とも」
今、気づいたと言わんばかりにマレイグが僕達の方を見る。
「何って、セッションだよ。見れば分かるだろ?」
「セッションって言うか、新曲のアレンジ?」
適当な事を言って…新曲?。
「チェス、お前新曲だったのか?」
「クロン、今日聞かせるって言ったじゃん。忘れたの?」
うっかり忘れてたよ…。
「……二人とも、こんな所にいないで、中に入ろう?寒くって風邪引いちゃうよ」
「今まで、寒空の下、雨に打たれてたのは、どこの誰だ?」
「全く、マレイグはこうと決めたら動かないんだから」
「…ごめん」
マレイグの言葉をちゃかした俺とチェスに、マレイグは苦笑しながら謝る。
「…中にはいるよ。クロン、チェス。二人とも、心配掛けてごめん」
「いいよ。マレイグは気にしなくても」
「そう、お前を心配するのは俺の役目だもんなぁ」
「うわ、どうしてクロンってそう言うこと真顔で言うんだ?」
「普通、こう言うことは真顔で言うものでしょ?」
「クロン、だから、腹黒いって言われるんだよ」
「あのなぁ」
雨の下で、笑い声が響く。
明日はまた暑くなる。
遠くの方で見える晴れ間がそんな気配を持っていた。