「雨か…」
つぶやいた声に呼応するかのように、細かい雨が降る。
いつやむともしれない雨に、何処ともしれぬ青空を探す。
雨はいつまでも降り続いていた。
--- 雨 : ここにいる、強いメッセージ ---
誰も使われなくなったビルの階段に座り、ウツは静かに雨を見つめている。
いつやむともしれない雨は、ウツの心を沈ませていく。
自分がここにいる意味はあるのだろうか。
そのことがウツを悩ませていた。
不意に、弦をたたく細い音が耳に入ってくる。
ウツの記憶に間違いがなければ、それはピアノの音だった。
ピアノが静かに奏でるメロディはどこか郷愁をさそい、ウツの心の中に入っていく。
すぐにやめてしまったその音に、少々がっかりしながらウツはそのメロディを思い出すかのように、そのメロディを歌い始める。
誰かに、聞かせるように。
誰にも、聞かせないように。
その高く、低く、透明感のある声を静かに響かせていた。
『 ここにいる 』
メッセージをのせて。
誰に届くとも分からない、その歌を。
気まぐれで与えられたギターを見てキネはため息をつく。
誰に聞いたのだろうか。
自分がギターを弾くと言うことを。
いつの間にか知られていたことに少しだけ寒気を覚えた。
雨の音が強くなったことに気づく。
止みそうだった雨足は、音と共に強さを増し、いつ止むかも分からない天気を連れてきた。
キネは静かに弦をはじいてみる。
音は…どうやら狂っていないらしい。
静かにはじいていると、不意に歌が聞こえてきた。
高く、低く、透明感のある声。
聞き覚えのある声に、キネは首を傾げる。
その歌声は誰かを思い浮かばせる。
その『誰か』がここにいるはずない。
それなのに。
強く『ここにいる』ことを感じさせる。
キネは、その歌声に、ギターで伴奏を付ける。
その歌声に併せて、コーラスを歌う。
『 ここにいる 』
その強いメッセージを受けて、誰かに、投げるように。
『 ボク達は、ここにいる 』
誰に届くともしれないメッセージをキネは流す。
手に入れたピアノはテツにとって子供のおもちゃの様にお気に入りとなった。
気まぐれに、昔の曲を奏でることもあれば、自分で曲を作ることもあった。
でも、それは手に入れてすぐの時のこと。
子供がおもちゃに飽きるように、テツは飽きた。
ピアノに、飽きた訳じゃない。
奏でることに飽きた訳じゃない。
この状況に飽きただけだった。
久しぶりにグランドピアノのふたを開け、鍵盤をたたく。
長い間弾いていなかったにもかかわらず、音の狂いは存在していなかった。
気まぐれに、メロディを奏でる。
誰かに聞かせるわけでもなく、誰かに届けたいと願った心に浮かぶメロディを。
それもすぐにやめてしまう。
どうせ届くはずがない。
ふと強くなった雨音共に、聞こえてくる、メロディ。
歌声と、ギターの音。
聞こえてきたわけではない。
頭の中に直接響いてきた音。
その声とハーモニーを奏でるギターの音にテツは静かに涙を流す。
「ここにいる」
「僕はここにいる」
「ここにいる」
「ボク達はここにいる」
「ここにいる」
「ここにいるから」
透明感のある歌声と、響きあるアコースティックギターの音が強いメッセージをのせてテツの頭の中に入り込んできた。
「そこに居るんだね」
静かにテツはつぶやく。
「ボクはピアノを弾こう」
「……いるんだ」
脳裏に響いてきたピアノにウツはつぶやく。
「僕は歌おう」
「届いたんだ。メッセージが」
聞こえてきた歌声とピアノの音にキネは満足そうにつぶやく。
「じゃあ、僕はコーラスと、ギターを」
誰にも聞かれないまま。
『 ここにいる 』
強いメッセージをのせて。
3人の間で繰り広げられる。
いつか、ここにいることを証明するために。
出会うために。