何を言えばいいのか分からなかった。
肝心なことは、3人ともはずしていた。
それに気づいていながら、何も言わなかった。
いつものようにくだらない雑談。
思い出話もする気はなかった。
これを全ての最後にするつもりは毛頭なかった。
--- 1994 : これから先の〜 ---
ここから始まる次の10年は…あらゆるプロジェクトに対する準備期間だと思う。
それを全ての人に分かってもらえるとは思えなかった。
「いいんだよ。それで。分かる人には分かる。気づく人には気づかれる。全員を、全ての人をだますつもりでいるんだろう?」
「………うん……」
「それがおもしろそうだと思った。オレも、ウツも」
「……うん……」
「だったら、てっちゃんは気にしないでいる。僕も木根も気にしないでソロをやってる。『全てなかったことにして』」
……ウツの顔は前を向いていた。
木根の顔も。
未練たらたらなのは僕だけなのかな?
「最初に言い出したのはおまえだろうが」
「…そうだけど…」
「大丈夫、全員、全ての人、全員騙せるよ。もう、『TM NETWORK』は解散してしまったって」
「…解散じゃないよ」
「でも、世間の人はそう思う。でも、それがねらい目なんだろう?」
木根の言葉にボクは小さく首を縦にふった。
それがねらい目。
僕たちの次のステップの準備期間はたくさんある。
そのための、終了。
その前の10年はデビューするための10年。
デビューしてからの10年は走るための10年。
これからの10年は、次のステップにすすむ為の10年。
ボクは不意に10年前の事を思い出していた。
ボクは、当時浮かれた気分で、ものすごい夢を話した。
「世界?それは聞いてないぞ、僕はあんまり、英語得意じゃないしさ」
ウツが本気で心配する。
「どうしよう?全米ツアーになったら。アメリカは広いんだろう?」
木根も心配し始める。
僕は、夢を広げる。
「アメリカだけじゃないよ。ワールドツアーなんだから。アジア、アフリカも回って、ヨーロッパにも行ってあげないと可哀想だもん」
「長い旅になりそうだなぁ」
木根はその旅に思いをはせる。
「おなか壊したらどうしよう」
「大丈夫だよ。生水飲まなければいいんだもん」
ウツの心配に、唯一海外経験者だったボクは進言する。
その後も夢は広がった。
まだ始まっていなかった、始まる直前、コレから10年間に思いをはせた。
でも、かなえたい夢だ。
もし、世界を回ることができるのなら、3人で回りたいな。
そう思うのは僕だけじゃないかもしれない。
「たかが10年。されど10年。よく言ったものだよな」
「そうだな」
木根の言葉にウツはうなずいた。
「世界。行こうか?」
不意につぶやく。
「簡単に言うなぁ」
「そうかなぁ?結構、簡単だと思うけど」
僕はそう呟いて、二人の顔を見る。
今までとかわらない構図、これからもかわらない構図かも知れない。
「……10年後はワールドデビュー?どう?」
「なりそうだから、怖いよ」
「するの?ねぇ、どうする?ワールドデビューしたら」
ボクが問いかける。
ウツが乗ってくる。
木根も乗ってくる。
ボクらは10年後の未来に思いをはせる。
これからの10年は準備期間。
その後の10年に夢を叶えるために。