海の見える部屋に置いてある物は部屋の色調にあわせた一台のグランドピアノだった。
とりあえずの隠れ家は意見一致で海が見える所。
だった。
潮騒の音が窓を開ければ聞こえてくる。
グランドピアノのみ置いた部屋には奏でる音がよく響く。
反響は部屋の壁からのみだからだろうか。
何もない部屋が響く理由を少し考えながら、奏でられるピアノに合わせて歌う。
歌う事は全てで、生き甲斐で。
これからも変わらない事だけは、今ひどく実感できていた。
--- 1984 : ここからはじまる全て ---
「もう後戻りは出来ないよ。
ピアノの椅子に座るテツは静かに言う。
「元より戻るつもりはない。でしょう?」
意見を求めてきたキネのの言葉にウツはゆっくりと頷いた。
あの場所から抜け出すことを望んだのは自分で、二人はそんな自分を助けてくれた。
組織という鎖は一人では到底抜け出られる物ではなかった。
「これからどうする?」
テツはまるで確認するかの様に聞いてくる。
全て計画していたのにも関わらず。
出る事を望んだウツの意志を確認しているのだろう。
後悔しているとでも思っているのだろうか。
後悔なんてしていない。
あの場所で手に入れたものは彼ら以外ないというのに。
組織にとらわれたウツの心に光を差し、未来を作ったのは他でもない、キネでありテツだった。
望まない場所で、手に入れる事が出来たのは偶然とか運命とかそんな言葉だけでは片づけたくもなかった。
「これからどうするって?そんな事決まっている。あの場所をつぶす。でしょ?」
「もちろんボクは構わないよ。キネはどうする?」
「聞く必要ないでしょう。俺はあなた達についていくだけですから」
ウツの問いかけに、テツとキネは答える。
相変わらずのキネの腹黒い返答に思わず、ウツとテツは笑う。
「じゃあ決まりだね。ここから全てを始めよう。ボク達の手で、何もかも終わらせて、ボク達の手で全てがはじまる」
挑むような目で言ったテツの言葉にウツとキネはうなずく。
気持ちは始まりの鐘を鳴らすような気分。
高ぶってはいるけれど、どこか爽快感のある。
組織にいた頃は到底感じられるはずもなかった感情。
新たな始まりに、ウツは楽しみを覚えていた。