どこにいるんだろう。
あいつのこと、いつも探し続けてた。
じっとしていればいいのに、すぐふらふらっといなくなる。
風みたい。
ホント…風みたいだ。
側にいて欲しくって捕まえておくことなんて出来なくって…。
気がついたら側にいて…。
ホント気まぐれな風だよ…。
どこかの誰かが言ったんだあいつは「方向音痴の神様」って…。
あぁ、言い得てるってつい納得しちゃった。
マサキ、あんたは今、どこで迷ってんの???
初めてあったのは木星圏。
助けてくれて、あたしの顔を見たあいつは「かわいい」って言ったんだ。
そんなこと滅多に言われたことないあたしは嬉しくなって…
「え?かわいい?ホント?」
虫の居所が悪かったあたしはすぐに立ち直った。
そう…思えば…それが最初。
ラ・ギアスのラングランの王城。
数々の混乱もようやく収まり、このラングランも平穏を取り戻しつつあった。
あたしは、なんだかんだ言いながら、このラングラン王城にとどまっている。
マサキ達、魔操機神の操者はラ・ギアスの平和のためにラングランにいる。
時々、ちょっとした事件も起きるけど、…平和そのものといっても過言じゃない。
ただ…マサキがちょくちょく行方不明(という名の迷子)になる以外は…。
今日も…あたしはマサキを探し歩いている…。
…ホント…どこ行っちゃったわけ???
「あぁ〜見つかんないよぉっっ」
「リューネ、どうしたの?」
前から歩いてきた穏やかなほほえみを浮かべたプラチナブロンドの美女。
「テュッティっっ!!マサキ、どこにいるか知らない?」
「あら…また迷子なの?」
「そうなんだ」
あたしの言葉にテュッティは苦笑いを浮かべる。
「ウェンディの所では会わなかったわよ、他の所にいるんじゃないのかしら」
ここにくる途中も会わなかったし…とテュッティは付け加える。
「じゃあ、セニアの所にでも迷い込んでるかなぁ?」
「それはどうだか分からないけれど、見つけたらリューネが探していたこと伝えておくわね」
「ありがとう、テュッティ」
そう言ってあたしはテュッティと別れ、セニアの私室に向かう。
セニアの私室は二部屋続き。
一つは執務室でもう一つはプライベートルーム。
どうも、執務室へと出勤する(現在ラングランの情報収集担当)のが面倒な様で一つにしちゃったらいいんだよね。
で、今回はとりあえずプライベートルームの方をノックする。
「どうぞ」
中からセニアの声がしてあたしは扉を開けた。
「リューネ、いらっしゃい」
セニアがそう言って迎えてくれる。
ただしこっちを向いてない。
向いてるのは部屋の中央のテーブルの上の…チェス盤。
相手は…冷静沈着の天才メタ・ネクシャリスト…シュウ=シラカワ…。
「何やってんの?」
「見れば分かるでしょっチェスよチェスっ。もう、勝てないのよぉっっ、クリストフっっ少しは手加減してよっっ」
「セニア、何度言ったら分かるんですか?クリストフと呼ぶのはやめてくださいって何度も言ったと思うんですが」
「…っごめん。じゃあ、改めて言い直すわっ。シュウ、少しは手加減してよ」
「手加減なんて必要ないでしょう。あなたの手は分かっていますが、油断したらやられますからね。これでも、敬意を払ってるんですよ」
…とシュウはセニアにニッコリと微笑む。
シュウが復活して、いろいろあって、このラングランに戻ってきた時、一番喜んだのはセニア。
まぁ、双子の妹のモニカも異母弟のテリウスも戻ってきたって事が一番嬉しかったんだろうけど、それ以上に喜んでいた。
で、それ以来この二人は結構一緒にいる。
基本的に政治能力が高い二人。
ラングランの頭の固い政治家を一掃し、新たに建国し直しているのがどうやら楽しいみたい。
「あ、あのね」
この二人のやり合いを見て思わず忘れそうになったんだけど、あたし、マサキ探してるのよっ。
「マサキ知らない?」
言い合いの一瞬の隙をついてあたしは二人に話しかける。
「マサキ?また迷子なの。はぁ、信じられない。相変わらずの方向音痴」
そう言ってセニアはため息をつく。
「サイバスターの機動力は天下一品なのに、操者があれじゃ、宝の持ち腐れではありませんか?」
「確かに…言えてるかも」
言いたい放題のセニアとシュウ。
マサキぃ、言われてるよぉ。
…フォローしてあげられないのが…つらい。
はあぁ、あの方向音痴はどこにいるのよ!!!!!
「ねぇ、リューネ、とりあえず、一カ所にとどまっていたら?もしかするとマサキもリューネの事探してるかもしれないじゃない?」
「ん〜そうかなぁ」
「だって、今までいろんな人にマサキの居場所聞いてるでしょ」
「うん」
セニアの言葉にうなずく。
セニアの言うとおりあたしはいろんな人にマサキの居場所を聞いた。
このラングランを守った英雄って事で、マサキを知らない人はいない。
歩けば全員マサキを知っているのだ。
最初はマサキとプレシアが住んでいる家に向かった。
プレシアがいたから彼女に伝言を頼んで、王城の門兵にも聞いて、それから、ヤンロンにも聞いて、ミオにも聞い…テュッティにも聞いて…。
そのほかいろんな人にも聞いたから…。
「そうだね、じゃあ…あっあたし、ヴァルシオーネの様子見ようと思ってたんだっけ。じゃあ、マサキが来たらヴァルシオーネの所にいるって言っといて」
そう言ってあたしはセニアの部屋を出る。
…あぁ言ったものの…マサキが無事、ヴァルシオーネのある格納庫にたどり着けることが出来るのかが…疑問なんだけどね。
…言ったことで…余計に迷ってる可能性、高いじゃない!!
マサキ…ホントどこにいるんだろう。
どんな奴が乗ってんだろうって最初に考えた。
手に入れたDCの会長の写真…父親『ビアン=ゾルダーク博士』は厳つくってごっついやつだった。
だから、娘って言うから、筋肉隆々の…ボディービルなんか趣味でやっちゃいそうな感じの女を想像していたんだ。
乗ってる機体はふざけた(って言ったら怒られる)機体(何でホントに人みたい何だ?)でリュウセイが言うにはかっこかわいい機体だって言うし…。
オレには訳わかんなくって、ともかく、そこから颯爽と降りてきた女は…オレと同い年ぐらいの女の子だった。
太陽に輝くような金色の髪に、鮮やかなサファイアブルーの瞳。
かわいいって素直に思えたんだ。
想像していたよりもって言うか、予想以上にかわいかった。
もう少し大人になったら美人になるだろうな…ってのんきに考えて思わず「かわいい」って口に出したら、
「え?かわいい?ホント?」
ってすっげー嬉しそうに言って。
その笑顔がまた…なんかかわいくって…。
それからそいつはオレとよく一緒に居るようになった。
そりゃ…さすがに最初「あんたに着いてくから」って言われた時は「エッ?」って思ったけど…。
ケンカとかよくするけど、結構オレと気が合う。
セニアに言わせれば「似たもの同士」だそうだ。
笑うポイントとか怒るポイントとか結構似てたりする。
だから…つい忘れちまうんだ。
あいつが、オレ「男」とは違う「女の子」だって事。
「…一体…ココはどこだ?」
「ラングランの王城にゃ」
「相変わらず、方向が定まらないのはどういう事にゃ?」
足下の猫、二匹がわめく。
オレだって好きで迷ってんじゃねぇよっっ!!!
会う奴会う奴、リューネが探してるって言いやがるっ。
しかもその肝心のリューネもどこにいるか分かりゃしねぇ。
どこにいんだよ、あいつはっ。
「一言、言ってもいいかにゃ?」
「何だよ、シロ」
シロがオレの前に出て言う。
「リューネの居場所が分かっても、マサキがそこにたどり着ける事が出来にゃいと思うにゃ」
っっっ…。
「シロの言うとおりにゃ。まずはマサキの方向音痴を直さにゃいとならにゃいわね」
畳みかけるようにクロまでもが。
だったら、お前等がたどり着けるように手伝えよっ。
「手伝う前に、マサキがさっさと先に行くからあたし達はにゃんにも言えにゃいんだけど?」
「それに、マサキは言っても迷うと思うにゃ」
言っても迷うって、オレはっそこまで方向音痴じゃねぇよ!!!
「日本だけ丁寧に避けて地球10周したくせに?」
うっ。
そんな昔のこと持ち出すなよっ。
「昔の事って、まだ1年ぐらいしかたってにゃいと思うにゃ。それに、グラン・ガランの中でも迷っていたのはどこの誰にゃ?」
返す…言葉がなくなった。
こいつ等に、あとセニア達に、リューネにそれからヒイロとか甲児とかもう全員にいろいろ言われるオレの方向音痴。
いい加減直したくなってくる。
「リューネいるか?」
大きな扉を開けると、リューネの姿は当然のごとくなかった。
「ここにはいにゃいわよ。ここはセニアの部屋だしにゃ」
クロの言葉にオレは納得した。
部屋の中央のテーブルで体と顔はこっちに向け、目線は手元のカードに目にやっているセニアが目に入ったからだ。
「あら、マサキ。リューネが探してたわよ」
「…ココも来たのかよ」
「…って言うかマサキが迷いそうな所をしらみつぶしに当たってるのよ」
セニアの言っていることに返す言葉がない。
「って言うか、お前何やってんだよっ。仕事はどうしたんだよ」
「見れば分かるでしょ?今日の仕事は終了。今、良い所なんだから話しかけないで」
セニアは手元のカードと、彼女と向かいあわせに座っている野郎とを交互に見ながらオレに言う。
「……仕事終わったからってシュウの野郎とゲームかよ」
「ゲーム、じゃなくって勝負事よっっ!!!一回も勝てないんだもんっ。悔しいじゃない」
シュウがラングランに戻ってきた時、一番喜んだのはセニアだ。
オレは、それを複雑な気分で見ていた。
今まで、憎んでいた奴を、殺そうとまで思った奴を、素直に迎え入れる事なんてそう簡単に出来るか?
たとえ、操られていたんだって言われたとしてもだっ。
まだ、素直に受け入れる事は出来ないけれど、おとなしいから、問題ないのか?
「ねぇ、マサキ、リューネの事、どう思ってる?」
そう言ってセニアはカードから目を離す。
「どうって……別に」
思わず、しどろもどろになってしまう。
…オレ、リューネの事どう思ってるんだ?
ただの…仲間じゃないって事は…気付いた。
けど……。
「なにそれぇ。じゃあ、教えてあげない、リューネの居場所」
「知ってんのかよ、リューネの居る所」
「当然でしょ?マサキじゃないもの、リューネが行く所、ちゃんと彼女に聞いて分かってるわよ」
「教えろよ」
「…知ってどうするの?まぁ、知ったとしても、マサキじゃたどり着けないんじゃない?」
「お前性格悪いぞ」
「ごめんね、マサキ。じゃあ、ちゃんと答えてよ。リューネの事どう思ってる?それ、答えてくれたら、リューネがどこに向かったか教えてあげる」
セニアはおもしろそうにオレを見る。
こいつの好奇心旺盛な所どうにか何ねぇのかよ。
シュウのほう見てもなんも助けてくれなさそうだし、まぁ、あいつに助けを求めようとは思ってもねぇけど。
「仲間?それとも、仲間以上?これぐらいは答えてよ」
「…ただの仲間じゃない…」
それは、…確実だ。
でも、それが…どういう感情かはオレにはわからねぇ。
好きなのかもしれないし、仲間の中で一番の奴なのかって言うのかもしれない。
「ふーん、ただの仲間じゃないか…。マサキ、これだけは忘れないでよね。リューネは女の子何だからね。ちゃんとそれなりに扱ってよ」
「…分かってるよ」
「ま、良いでしょう。リューネはヴァルシオーネの所、行くって言ってたよ。迷わないでね」
セニアの言葉を背に受けて、オレは部屋を出た。
何度となく通った格納庫への道。
「マサキ、一つ聞いても良いかにゃ?」
「何だよ、シロ」
「……この道って合ってるにゃのか?」
へ?
合ってるだろ?
あたりを見渡すと、窓からは遠くのほうに続いている町並みが見える。
「にゃんで地下の格納庫行くはずにゃのに、街の遠くの方まで見えるにゃ」
…ってまたオレ迷ったのかよ。
「…って迷ってるにゃ」
あぁ、一体ココはどこだぁ?
「外の景色見てみるにゃ」
あきれたように言ったクロの言葉にオレは外の景色を見てみる。
少しだけ、開放感があふれる。
「ここは多分、バルコニーに続く道だと思うにゃ」
…バルコニーか。
…行ってみるか?
「って…マサキ、格納庫に行くはずじゃにゃいのか?」
「別にいいだろ?風に当たりたい気分なんだよっ」
とオレの言葉にシロとクロは来た道を戻ろうとする。
「どこ行くんだよ」
「日向ぼっこにゃ。屋上からどこつれてかれるか分かったもんじゃにゃいしだからあたし達は日向ぼっこすることにしたのにゃ」
「あんまり遠く行くんじゃねぇぞ」
「その言葉そっくりマサキに返すにゃ」
シロとクロは二人そろってそう言って日向ぼっこをしに、ラングラン城の中庭にあるサンルームへと向かう。
情けないよな…。
オレって。
迷ってばっかで…心配かけて…。
不安になったんだ…荒涼としたゾラの大地で。
リューネがいないことに。
気付いたら、オレはあの時アーガマにいた。
まぁ…運がよかったんだろう。
探す手間が省けて。
はぐれた側だったら完璧にオレは仲間と逢う事なんて出来ないはずだ。
そんな中で次々と合流していく仲間達の中に、リューネの姿を必ず探した。
見つかった時はほっと一安心だった。
どこも怪我ないようだったし。
「不安だったんだ。どこにもいないし」
でも、アーガマに戻って…二人きりで話した時に、ぽつりとリューネはそう、こぼしたんだ…。
大丈夫なわけ…ホントはなかったんだよな。
バルコニーにあがると気持ちのいい風がラングラン王城に吹いていた。
そこで、空を見上げるようにたたずむ少女が一人。
真っ青な空と鮮やかなコントラストを描いている金色の髪。
太陽の輝きに反射し、吹く風にたなびかせて。
瞼は降りていたけれど、その瞼の奥には空と同じ鮮やかなブルーのがあるはず。
その様子は…何故か神々しく見えて…、近付くことも、声をかけることさえも…とまどわせる。
「マサキ?」
ふっと彼女は気配を察知したのかオレの方を正確に見つめた。
「マサキ、どうしたの?」
「探したんだぞ」
ふとかけられた声にオレはあわてて言葉をつなぐ。
「これは、あたしのセリフっっ。マサキ知らないって、城中の人に聞いたんだからね」
「知ってる」
怒り出したリューネにはぁっと息を吐いて答える。
誰も彼もに言われた。
『リューネが探してる』
顔見知りではなく衛兵までに言われた時は思わず苦笑もした。
「リューネ…」
オレはゆっくりとリューネに近付く。
言わなきゃならないこと、…違う。
今、言わないとこの先どうなるか…分からない。
セニアに言われてようやく、自分の気持ちに…気付いたんだ。
リューネに…。
「どうしたの?マサキ」
「…あのさぁ…オレさ…今まで、お前のこと過信すぎてた…っつーか…あのさ」
なんて言ったらいいんだ?
ココに来て言葉を選んでいる。
「マサキ?」
もういい、思ってること、言っちまえ!!
「お前も…女の子だって事…忘れてたんだよ」
…ってオレなに言ってんだよ。
「『女の子だって事、忘れてたんだよ』って何ぃ?!!」
案の定、リューネは目くじらをたてる。
「いいから、俺の話、最後まで聞けよっ。お前って…オヤジさんに鍛えられてきたせいで強いだろ?そのせいで…うっかり…っつーかあんまそう言うの気にしなかったんだよ。でも…やっぱ、気になるんだよな…。お前のこと、心配になる」
リューネの顔がまともに見られない。
オレ…どんな顔して、言ってんだろう。
「だから…オレって方向音痴だろ」
「ん?マサキ?あんた…なに言ってんの?」
突然、変えた話の展開にリューネは首を傾げる。
「黙って聞けよっ。……けど…お前がどこにいるのか分からなくなって…こうやって…探しちまう…。だから…頼むから…オレが…迷う、所まで行くな…。探し回らなくても迷わなくても済む…近くに…いて…くれ…。いて欲しいんだ」
「マサキ…それって…側にいろって事よね」
…確認するように…リューネはオレに…オレの目を見ながら問いかける。
「他にねーだろ」
あまりの照れに目線を外したいんだけど外すわけに行かなくて…。
「バカっっっ!!!」
バカ?
突然、リューネが叫ぶ。
…ってバカって何だよっっ。
「あのねぇ、あたしはいつでもあんたの側にいるでしょ?マサキの方が勝手にふらふらしていなくなるんじゃないっ。探してんのに見つからなくってどこにいるのかも見当つかないし。マサキ…側にいてよ」
泣き出しそうなリューネの顔。
気がつけば、いつも隣にいてくれたリューネ。
気付かなかったオレがバカみたいで…オレは思わず謝っていた。
「…リューネ…ごめん、」
謝ったオレにリューネは首を傾げる。
何でといいたそうだ。
「…お前が…いつも側にいてくれたことに気付かなかったからだよ。…オレ…方向音痴だからさ。リューネに心配かけちまうこといっぱいあるかも知れないけど…、お前が探し回らなくてもすむ位置にいるから」
そう言いながらオレはリューネの体に手を回し、抱き寄せる。
抱きよせて、初めて本当に分かった。
リューネってやっぱ女の子なんだよな…。
「約束…守ってよね」
「お前こそ、守れよな。いつでも、手が届く範囲にいるから…いろよ」
「うん」
吹いてくる風がどこか照れてほてっている頬に心地いい。
「こうやっていつでも側にいるからね。誰かの言葉か忘れちゃったけど、あんたの後ろじゃなくて隣にはいつもあたしがいるから、忘れないでね」
そう、リューネはオレに囁いた。
いつでも、隣にいるから…いろよ。
そうすればいつでも、絶対手が届くから…。