ヘアスタイルの好み 新機動戦記ガンダムW 10周年記念

 静かに髪を手で耳に掛けるように後ろに流す。

「お切りにならないので?」

 と問いかけると

「何故だろうな。切ろうとは思わないのだ」

 自分でも不思議なのだがと付け加えながら言う。

「ですが…あなたの様子を見ていると…」
「気にするな。別に、私は気にならないからな」

 とあっさりと笑顔を向ける。
 そう言いながらも、サラサラと音を立てるように顔に流れ落ちる髪を少し邪魔そうに手で後ろに流す。

「ゼクス」
「何だ、ノイン?」
「あんまり邪魔なようでしたら…」
「私は切るつもりはないが」

 ノインの言葉を遮るようにゼクスは言う。
 余程、切るのが嫌なのだろう。

「分かっています。あなたには確固たる信念がおありになって言っているのは理解しました。だから」
「だからなんだ」
「切るのがお嫌でしたら、縛るというのはどうですか?」

 そうノイン言うと、ゼクスは目を丸くする。

「………考えても見なかったな…縛ると言う事は…」

 たくさんの沈黙の後、彼は静かに答えた。

 過去を考えてみれば、彼はいつも髪を縛らずにいた。
 そう、いついかなる所、いついかなる時でも。

 ノインの記憶の中では、確実に。

「どうです?あなたは、髪を縛っていらっしゃらなかった。いい気分転換にもなりますよ」

「これはなんだ」
「ポニーテールです」

 馬のしっぽがゼクスの頭の後ろで揺れる。

「気に入らないようでしたら、次の髪型にしますね」

 ゼクスの感想を聞く前に、ノインはゼクスの髪を縛りなおす。

「これは…あまり好かないのだが」

 ゼクスが見る鏡に映るのは頭の後ろから出来た三つ編みが現れる。

「案外似合いますよ。デュオとおそろいのお下げのしっぽ」
「ノイン」

 不満げにゼクスはノインを見る。

「ご不満ですか?では次の髪型もしてみましょう」

「……コレは…なんだ」
「お忘れですか?昔のレディ・アンの様な髪型にしてみました。リリーナ様が以前なさっていた横の髪を三つ編みにするって言うのも捨てがたいのですが…。リリーナ様とはご兄弟ですから似合うかもしれませんね」
「ノイン」
「思い切って、女子高生のような2本お下げではなく、2つのお団子ウサギヘアーというのも、似合うかもしれませんね。構いませんか、ゼクス」
「……異論、反論を唱えたらやめてくれるのか」

 …少しの沈黙の後ゼクスは聞いてくる。

「……とりあえず、保留です。そうそう、ヘアスタイルの変遷の様子を送ろうかと今、ひらめいたのですが」
「ノイン、それだけはやめてくれ」

 あまりと言うか滅多に聞く事が出来ない情けない声でゼクスは言ってくる。

「冗談ですよ、ゼクス。ともかく、縛りなおしますから、その中から気に入った物をお選びください」
「無難な物にしてくれ」
「了解しました」

 後日。

『ゼクス、2つのお団子ウサギヘアーはなかなか似合うんじゃないのか?』

 モニタの向こうでレディ・アンが何かを見ている。

「………」
『デュオみたいのも良いんじゃないの』

 サリィも何かを見ている。

『オレ、ゼクスとおそろいって嫌だぜ?』

 映らない画面の向こう側でデュオの声が響く。

「……。なぜ、知っているんだ?」
『ノインが送ってくれたのよ』

 サリィの言葉にゼクスは黙り込む。
 そして、背後にいるであろう気配を静かににらむ。

「ノイン、どういう事だ」
「……ゼクスが、髪型を変えたと何気無しに、言ったら見たいと、おっしゃられまして」
「……?」

 ゼクスはノインの言い回しに疑問を抱く。
 ノインの敬語は基本的に限定されている。
 ゼクスともう一人。

 そう、もう一人。

 嫌な予感を抱きながら、ゼクスはノインに問いかける。

「誰だ…」
「………リリーナ様です」

 その言葉を聞きゼクスは頭を抱える。

 リリーナは基本的に一人で楽しむ事をヨシとしない。
 だから、他人に楽しみを広める。
 単純に見せたのだろう。
 似合うとかなんとか言いながら…。

「……何故」
「だから、うっかり、…口が滑りまして。そしたら、見たいとおっしゃられましたので……。誰にも見せない約束でしたけど……」

 スミマセンとノインは頭を下げた。
 延びたら切ってしまう髪をゼクスは見て、溜息をつく。

 地球に戻ったら…からかわれるか、おもちゃにされるかのどちらかだろう。

 そう思って、また溜息をついた。

*あとがき*
ゼクス×ノイン。
読み直したら、素敵にほのぼのラブラブ。
ゼクスとノインってこうほのぼの系ラブラブが似合うんじゃないのかなぁなんて思いながら。 任務とかじゃないんだよなぁ。
ゼクスとノインって。
「今だけで良いからおそばにいさせてください」とか「ゼクス、迎えに参りました」とか「もう、待つのはごめんです」とかだからかなぁ。
基本的にラブラブな台詞が多いからなぁ。
もしかすると、一番ほのぼの〜って言う台詞が案外似合ってしまう二人なのかもしれません。
ゼクス×ノインって。
EWのラストで火星行きのシャトルの中でチェスをやっている二人がスゴく好きです。
得意満面のノインと連敗中であろうゼクスが。


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