非番と言うわけではないが。
五飛とサリィはプリベンターの本部にある任務職員の部屋で事務仕事を行っていた。
平和になったとはいえ、テロなどの事件を未然に防ぐ役目を持つプリベンターの仕事は多い。
調査や調査に基づく任務などを行えば、まるまる1週間つぶれてしまう事も多い。
事務作業と言えば単調と思われがちだが、常に、現場にいては緊張で身が持たない。
単調ではあるが、事務作業に費やしてのんびりしているのも悪くはないだろう。
もっとも、現在の任務は他のメンバーがやっており、いつ自分たちに応援要請がかかるか分からない状況ではあるが。
それでも、のんびりとした一日を五飛とサリィの二人は事務仕事(報告書作成)に費やしていた。
「五飛、報告書どこまでいった?」
「先週の分がようやく終わった」
「そう、こっちは先々週の分が終わったわ。後は、今週分だけね。そうだ、五飛、少し休憩でもしない。コーヒーでも入れるわ」
そう言って、サリィが席を立とうとしたときだった。
「サリィ、だったら、オレがお茶を入れる。」
「五飛が?」
「何か、おかしいのか?」
驚いたサリィに少し、不機嫌そうに五飛は眉根を寄せる。
「違うわ、意外だと思って。あなたにお茶を勧められるなんて」
「武人のたしなみの一つとして覚えた。今、用意する」
「分かったわ。あなたの入れてくれるお茶を楽しみに待ってるわ」
「………余計な事は言うなっ」
サリィの言い回しに不満を持ちながらも、五飛はお茶を入れる準備をする。
最初から用意をしていたのだろう。
五飛は私物が入っているバッグから中国茶器を取り出す。
急須に茶葉を入れ、沸騰に近いお湯を注ぐ。
するとジャスミンの独特の香が漂う。
「…あら、ジャスミンティー?。久しぶりだわ、ジャスミンティーなんて」
「飲んだ事…あぁ、そうか」
途中まで言って、五飛は思い出す。
サリィの出身地は中国地区だと言う事を。
「出来た」
そう言って、五飛はサリィの前に、茶碗を置く。
白い茶器に注がれたジャスミンティーは琥珀色に近い。
そこには一輪、乾燥したジャスミンが浮かべられていた。
「…優雅ね」
浮かぶジャスミンを見つめ、サリィはうっとりとした表情を見せる。
そんな様子を五飛は満足げに見つめながら言う。
「気に入ったか?」
「えぇ。ありがとう五飛。頂くわ」
一口飲み、そして、五飛にゆったりとした笑顔を見せる。
「とてもおいしいわ」
「……気に入ったのなら…それで、いい」
いつも見せる気丈な態度とは違うどこか照れている五飛をサリィはうれしそうに見つめる。
「五飛、ありがとう。また、あなたが入れてくれたお茶が飲みたいのだけど」
「…良いだろう。張家に伝わるお茶の葉を今度持ってきてやる」
そう言って五飛は自分にはジャスミンの葉を浮かべていないお茶を飲む。
ジャスミンの葉はサリィ用のとっておきで。
その事実に気づいた彼女はもう一度笑みを五飛に向ける。
「五飛が入れてくれたお茶、美味しかったって皆にも教えようかと思ったけれど。これは、もったいないわね」
「もったいないとかそう言う問題以上に、奴らには言うなっっ」
「はいはい」
「サリィ、オレを子供扱いするのはヤメロっ」
「ハイハイ」
「またっっ」
ゆったりとした時間にお茶を飲む。
心が落ち着いて、どこか安心できるのは。
ジャスミンの香りが部屋中に充満しているだけではないだろう。
そう互いに思っていることは二人しか知らない。