ここは、地球の旧時代から言うと、ヨーロッパ地方。
ここのある財団所有の城で、その財団主催のパーティが行われている。
主催者はその財団の現代表。
美しく、そして気高く、誰に負ける事を知らない女性。
勝ち気で優雅な笑顔で彼女は数々の来賓に挨拶をしている。
会場が不意にざわめぐ。
しっかりと正装した顔見知りにエスコートされ、主催者に負けず劣らずの女性が入ってくる。
誰もが魅了される優雅な笑顔と彼女の以前の肩書きに負けない優美。
元、地球圏の女王。
クイーン・リリーナの登場だ。
彼女の登場を待ちわびていたのか、主催者は彼女の元に近寄っていった。
もちろん、主賓の一人であるコロニーの裕福と言われるL4コロニー群の名士ウィナー家の若き当主であるカトル・ラバーバ・ウィナーも一緒に。
「何を笑っていらっしゃるの?」
「先ほどのあなたの笑顔を思い出したからですよ」
流れるワルツを踊りながらカトルは相手をつとめている女性に話しかける。
「リリーナさんがいらっしゃったときの君の笑顔。誰もが見惚れる程の嬉しそうな笑顔だったね、正直、僕はそんな笑顔をさせる事の出来るリリーナさんに嫉妬したよ」
「何をバカな事をおっしゃっているの?カトル・ラバーバ・ウィナー。リリーナ様は、私が敬愛するお方。その方に最上級の笑顔を見せるのは当然の事でしょう?」
と、きつい口調で彼女はカトルに言う。
相変わらずの調子でカトルは思わず苦笑した。
「何ですの?その不満そうな笑い方は。私と踊るのがお嫌なの?」
「別に?僕はなんの不満も持っていないよ。僕よりも君の方じゃないのかい?ドロシー。踊っている間中、今も、君はとても不機嫌そうだよ?」
笑みを見せながら問いかけるカトルに、ドロシーはますます眉間のしわを深めていく。
『怒っていても可愛い。そう思うのは間違っているのかなぁ。』
なんてカトルが自問しているとはドロシーは思いもよらない。
「答えて差し上げますわ。あなたの様な方と何故踊っているのかと言う事ですわ」
「それは、僕が君に手を差しだして、君がボクの手を取ったからでしょう?」
「だから不満なのですわ」
「何故?」
「何故って…」
ドロシーはカトルの問いに口ごもる。
実際ドロシーは何故不満なのかが理解出来ていない。
「何故って、私に問いかける前にご自分で考えるべきだと思いません事?」
だから、カトルに逆に問いかけて考える事から逃げる。
そして彼女は演奏をしているオーケストラの方に目をやる。
『早く、終わらせろ』
彼女としてはそう訴えたつもりが、指揮者は勘違いをし、曲を延ばす。
ドロシーは気づいていないのだ。
自分と自分の相手をしているカトルの様子、そしてお互いの距離に。
ドロシーはカトルの問いに真正面から答える。
では、カトルは?
彼は何かを言うたびにドロシーの耳元で囁くのだ。
まるで秘め事を囁くがごとく。
片やL4コロニーの名士ウィナー家の当主。
片やロームフェラ財団の美しき若き代表。
前代表の親戚筋に当たるカタロニア家のご令嬢。
その二人が踊っているのだから注目の的になるのは当然で。
いくらドロシーが不機嫌にしていても、今回の主催者がダンスごときで全身を不機嫌でまとうわけにもいかず、どうして良いか戸惑っていて。
そんなドロシーをカトルは楽しそうに見ていて。
他の客から見れば、カトルに照れているドロシーと言う絵が出来ていてもおかしくなかった。
『カトル、あまり主催者を怒らせるな』
女王の騎士の目がそう訴えていても、カトルはこの状況を終わらせるつもりは毛頭なかった。
『1週間ぐらいは…口を聞いてもらえなくなるかな?』
そんなのんきに考えているぐらいで。
「カトル・ラバーバ・ウィナー。相変わらずの調子ですわね」
間が持てなくなったドロシーは思わず溜息のように言葉を吐く。
「何が?ドロシー」
「私、あなたが嫌いです」
「構わないよ。僕は君が好きだから」
笑みを深くしたカトルの言葉にドロシーは顔を真っ赤に染める。
他人にそれがどう思われているのかも今のドロシーは気づかないから、カトルはとても満足げにワルツのステップを踏んだ