縁がない。
相応しくない。
望んではいけない。
いらない。
関係ない。
必要ない。
そう言うもののはずだった。
デュオにとっては。
少なくとも、今までのデュオにとっては。
「デュオ」
呼ばれた声に振り向くと珍しくプリベンターの制服に身を包んだカトルがいた。
「カトル、どうしたんだ?珍しいじゃん、おまえがここにいるなんて」
「今度のパーティーの打ち合せに来たんだよ」
「あぁ金ぴかねぇちゃんの」
「デュオ、そんな風にドロシーに言っちゃダメだよ。ドロシー、怒ると大変なんだよねぇ」
と、大して苦労してるとは思えない口調でカトルは言う。
「打ち合せって、別におまえがわざわざ来る程でもないんじゃねぇの」
「僕がねプリベンターとしてドロシーの所に行くんだ。今度財団代表主催のパーティーの警備責任者は僕なんだよね」
「は?」
カトルの言葉にデュオは驚く。
「今度のパーティーってお前も招待客の一人だろ?」
財団、ロームフェラ財団の代表、つまりドロシー主催のパーティー。
L4コロニーの有力者であるウィナー家が招待されないわけがない。
訳が分からず、デュオはカトルにそのわけを聞く。
「理由?簡単だよ。ドロシーと五飛、この前の事件からあまり仲が良くないんだよね」
カトルが言う事件とは何でもないただのドロシーの護衛の時の事だ。
その時、どうやら五飛はドロシーの機嫌を損ねたらしい。
プライドの高い二人がぶつかれば、どうなるかは目に見えている。
今度のパーティーはコロニーと地球の親睦会も兼ねている。
その最中に何かあるわけには行かない。
そのため、プリベンターの代表であるレディ・アンは悩みに悩んだ末、カトルをドロシー側との打ち合わせの担当にしたと言うわけだった。
「た、大変だなぁ、お前も」
「そんな事ないよ。ドロシーと会えるのってそう機会ないんだよね。僕も彼女も忙しいから。だから、こういう機会はフル活用しないとね」
とカトルは嬉しそうに、どこか意地悪そうに微笑む。
実際の所、カトルは五飛を脅して担当を変わらせたのかもしれない。
大人しい顔してその裏は恐ろしいのがカトル。
カトルは「優しい」。
そう言う認識でいられるドロシーは幸せなのかもしれない。
今のところは。
「じゃあ、僕は行くね。次にデュオに逢うのはパーティーの時かな?」
「…って俺もかよ」
「当然でしょう?リリーナさんも来るし、警備は万全にねしないと、ヒイロに殺されちゃうよ」
カトルの言葉にデュオは顔を真っ青にする。
「全員集合だよっ」
「任務了解」
肩を落としたデュオに対し、カトルは意気揚々と部屋を出ていく。
「ねぇ、デュオ」
扉の所でカトルは振り向き、デュオに声を掛ける。
「一つ、聞いて良い?」
「なんだよ」
「今、幸せ?」
その言葉にデュオは驚く。
「急に、なんだよ。そう言うカトルはどうなんだよ」
「そんな事、言う必要もないくらいに、幸せだよ。って言うか、聞いたのは僕だよ?ちゃんと僕の質問に答えてよ。デュオは幸せ?」
自信たっぷりに答えたカトルの問いかけにデュオは笑みをこぼす。
「悩む必要がないくらいにな」
「そっか、じゃあまたね」
そう言ってカトルは部屋を出ていった。
「え?」
「えって。だから、地球おりないかって言ってんだよ」
「来週でしょう?ジャンク屋の仕事どうすんのよっ」
ヒルデはデュオの言葉に驚く。
コロニーに戻って来て一段落した後、デュオが最初にヒルデに言った事は、ロームフェラ財団主催のパーティーの警護をすることになった事と、その時、ヒルデも行かないか?と言う事だった。
もっとも、当日はヒルデと共に行動というのは無理だろうが、その前後だったら地球を案内出来るだろうし、それに打ち合わせだって、5人揃うんだからそうそう問題はない。
ある意味、ツボを心得ているメンバーだ。
「それだったら、何とかなるし」
「確かに何とかなるだろうけど…」
ヒルデは来週に控えている仕事内容を思い出しながら答える。
「それにさ、一度じっくりヒルデと地球に降りたかったんだよな」
「デュオ……」
「プリベンターの仕事も結構増えてきたし、人員不足なのかなぁ?」
とプリベンターの現状をデュオは考えるが、実際は平和になってきたために人員削除かつ少数精鋭を目指している事はもちろん、デュオは知らない。
「それとどう関係があるのよ」
「地球勤務とかになったら、ヒルデほっとく羽目になるだろ?それ考えるとさぁ、やっぱりあれだろ?」
「あれって、何よ」
ヒルデはデュオが何を言いたいのか検討が付かない。
「寂しいじゃん」
「…は?」
「だから、ヒルデ、さびしくないのかよ」
「……寂しいけどっ。え?えっ?」
「だから、一緒に今まで通りにさ、地球に住んでも良いと思わねぇか?プリベンターの用事、地球の方が多いし」
「それって?え、ええ〜〜〜」
デュオの言葉にヒルデは顔を赤くする。
「そ、それって、ぷ、ぷ、プロボーズって奴じゃないの?」
「……………ま、まぁ、そうだけど。い、嫌なのかよ」
「嫌じゃないよ。っていうか、嬉しいかな?」
焦るデュオをおもしろそうに見ながらヒルデは答え、そしてデュオに聞く。
「デュオ、一つ聞いて良い?」
「なんだよ」
「私でいいのかなって。って言うか、いつもね、気が付いたら居なくなっちゃうのかななんて思ってたんだよ」
「……ヒルデ」
「逃げも隠れもするが…って、言うのデュオの決まり文句みたいな奴じゃない?だから、いつ居なくなってもおかしくないのかなって思ってた。なんで、そう言う事言おうと思ったの?」
俯きながらいうヒルデにデュオはまっすぐと前を見ながら答える。
「ヒルデってさ、あんまり俺の事聞かなかったじゃん。何で聞かないんだろうって思ってた。何で気にならないんだろうって思ってた。だから、何にも言わない俺が逆に側にいてもいいのかなって思ってる。それは今でも変わらない。でも、やっぱそれって甘えてると思う。だから言おうと思った。ヒルデになら言えるかなって思った」
「デュオ、今のわたしって、過去があって、今の私があるんだよ。デュオだってそうじゃない。過去のデュオがいて、今のデュオがある。誰だって過去に何があったって、それを追求してたら、その人とはいられないんじゃないの?デュオはデュオでしょう?気にしないなんて言ったらウソになるかもしれないけど、でもデュオはデュオ・マックスウェルだ。それだけで結構充分だって事あるとおもうよ」
「ヒルデ」
デュオは、ヒルデの腕を引き抱きしめる。
「デュ、デュオ?」
「やっぱ、お前でよかった」
「え?」
「だから、お前がいて良かったって言ってんだよ。ったく〜、ヒルデってさぁ、結構、鈍感だよな」
「ど、どういう意味よっ」
「だから〜俺は、ヒルデといられなくって寂しいし、一人って、結構つらいって俺は分かってるし。俺は、ヒルデに寂しい思いさせたくねぇんだけど。戦争中は、ヒルデのおかげで助かった事もあったし、助けられたし。でも、これからだって、そう言う事ないなんて言えないから、出来るだけヒルデの側に居たいし、居て欲しいんだよ。いいよな」
「…うん」
デュオに抱きしめられながら、ヒルデはうなずく。
「……やっぱ、こう言うのっていいよな。幸せって奴?」
「な〜に言ってるんだか」
「む、ヒルデは幸せじゃねぇの?」
「そんなの幸せに決まってるんじゃない」
顔を見合わせて二人は笑う。
幸せなんていらないって思ってたけど。
やっぱ、いるかも。
なんて今は思ってたりするのが実情。