Destiny 5th〜星の約束、その行方〜

  1話:ランデール エカルマの森  

 遠くの喧噪を目覚まし代わりにしながら、あたしは目を覚ます。
 ここは聖道王国ランデール。
 いつもの朝は静かだというのに、今日は妙に騒がしい。
 ここに逗留して三ヶ月。
 聖道士の王国なのに魔道士がいても良いのかななんて思ったりもするけれど、女王陛下に懇願されては仕方ない。
 あたし、『黒の魔道士』という色称号を持つルイセ・ケイ・エシルはエカルマの王城の右塔の最上階の一番居心地の良い場所を占拠して一時の住処にしている。
 聖道王国の割には魔道書なんかが結構あって、まぁそれを読んだりもしたりするから暇ってほど暇じゃないし。
 魔道士ギルドのエカルマ・カムイに行けば小銭稼ぎ程度の依頼はあるけど、さすがにねぇ。
 SS級の魔力があってその上黒の魔道士なんて呼ばれてるあたしが、ちょこっとの小遣い稼ぎのためにCランクとかBランクの依頼を受けるわけにはいかないし(受けたら受けたでシャナ・カムイの方から文句が来るし)。
 そういうの場合大抵個人依頼だし。
 第一、私は団体専用の魔道士なのだ。
 Sランクレベルになるとだいたい団体専用の依頼しか受けられないし。
 まぁ、それ以外を受けるつもりもないけどね。
 あたしは、相方である召喚士のマリーチ・ドゥ・アルファと共に聖道士協会本部国家法人エカルマ・ケトイの代表、ランデール女王であるエスナ・ラヌーラ・ジョーカーの依頼という形で、このランデールの首都、風のエカルマに留まっている。
 それにしても騒がしい。
 何かあったのかな?
 塔の最上階にいようが階下からの声は聞こえてくる。
 騒ぎともなればなおさら。
 ともかく、行ってみないことには分からない。
 というわけで着替えを済ませ扉を開けようとした時だった。
「ルイセ、おりますの?」
 と、どこかのんびりとした口調で図々しくも開く扉。
 というか入ってくる人物。
 栗色の髪と瞳を持つお嬢様というより、この国が運営する法人の代表代理でもありこの国の次期王位継承者でもあるアリーナ・ラヌーラ・ニールだった。
 したたかで食えないエスナ女王陛下の娘とは思えないほどのんびりしている上に世間知らず。
 いくら何でもここまでの世間知らずは見たことがないぐらい。
 同じ王女でもファーレンのリアやハーシャのターナとは大違いだ。
 一応、ランデール国内のことは把握してるみたいだから良いんだけど。
 代表代理まで務めるんだから国外のこともある程度は把握しておくべきだと思うんだけど、知らないことが多すぎる。
「聞いてますの?」
「え?何?」
 あぁ、アリーナが入ってきたとたん何かをまくし立ててたけど、全然聞いてなかった。
「女王が行方不明ですの。それからガイもみかけてませんの。今は母様の姿が全く見えないということで、城内は大騒ぎですのよ」
「ガイのことはともかくとして、女王がどこにもいないってどうしてわかったの?」
「ルイセ、今は何時だと思ってらっしゃいますの?」
 今の時間?
 そういわれたって、お昼前じゃないわよね。えっと、8時?ぐらい?
「ルイセ、今はもうすでに10時を過ぎていますわ。朝のお勤めも終わり、女王陛下の朝の執務の時間ですわよ」
「ってことは、ものすごい朝?」
「ものすごい朝というのはどういう意味ですの?我々聖道士が5時に目を覚ましておつとめをするのは当然ですわ」
 あぁ、はいはい。
 魔道士は自由気ままで自堕落ですよ。
「とは申してませんでしょう?ともかく、朝のお勤めの時母様は部屋で一人でなされます」
 朝のお勤めとは神に祈ることで。
 ここランデール聖道王国は慈愛なる女神「ゲーラ」を崇拝している。
 ゲーラは慈愛の女神ではないと思うけど。
 信仰は人それぞれ。
 まぁ、そのおつとめの後、護衛の聖騎士が女王陛下の元に出向いて、朝の会議に出る女王陛下を出迎える。
 その出迎えの聖騎士は数名の持ち回りで、ガイがなぜかその護衛の騎士になってた。
 まぁ、ガイは聖騎士だけど。
 ガイ・エルバート・シルア。
 法皇の守護神と呼ばれた銀の聖騎士バヌア・エルバート・リクーム公の息子だったりする。
「今朝、母様を迎えに行った騎士が女王がいないと報告してきました。私だけに伝えてくれればいいものを、騒ぎ立てたためにこのような事態になりましたの」
 アリーナはため息をつく。
「で、ガイが行方不明っていうのはどうしてわかったの?何か女王が行方不明の事と関係してるの?」
「その騎士が言ったののです、ガイを見ていないと」
 そりゃ、そうだ。
 ガイは、昨夜のうちにエカルマの城を出ている……。
「そのために女王を拐かした罪でガイが犯人とされていますわ」
 ガイが犯人……か。
 ありえない。
 とまではいえないけれど、ほぼあり得ない。
「ガイが行方不明なのに、ずいぶんと落ち着いてらっしゃいますのね。私は母様が行方不明と聞いて驚きましたのよ。ガイのこともそうですわ。私にとってガイは友人の一人に過ぎませんけど、ルイセにとっては違うのでしょう」
 淡々とガイが行方不明の事を聞いているあたしの様子にアリーナは不思議そうな顔を見せながら聞いてくる。
「え?驚いてるわよ」
 一応ね。
 改めて聞かされてまぁ、本当だったのかと。
 そう驚いてるわよ。
 でも、詳しくアリーナに言う必要はない。
 あたしとガイはまぁ、恋人同士ってやつだった。
 過去形なのはなんだか悲しいけれど。
 エカルマを出ると言ったガイにあたしは何故?と疑問は呈したけれど、一緒に行くという選択肢は何故かなかった。
 確かにその言葉を聞いたときは何かの冗談かと思ったわよ。
 ガイがエカルマを出るだなんて。
 でも、人の事なんて言えない。
 あたしだって、いつエカルマを出て行くかわからないんだから。
「ルイセ、私……軽率でしたわね……。ガイとは恋人同士だったのですし……」
 何も言わないあたしが落ち込んでいるのかと思ったのか、アリーナは愁傷に謝ってくる。
 いや、アリーナが言ったから驚いてるわけでもないし、大してショックを受けてるわけでもないんだけどなぁ。
「ルイセ、いるか!?」
 扉を開けると同時に声を発した男が入ってくる。
 ブルーブラックの髪と瞳の男。
 あたしの相棒、召喚士のマリーチ・ドゥ・アルファだ。
「王女がっっ、アリーナ王女、こちらにおられましたか」
 アリーナを気にかけてるつもりなのかさりげなくマリーチはアリーナの手を取る。
「で、何?」
「女王陛下が」
 マリーチはあたしの問いにアリーナの方をちらりと伺いながら言う。
 最後まで聞かなくてもわかる、女王陛下の姿がない。
 だ。
「女王が行方知れず、それはアリーナから聞いたついでに、ガイが犯人かって言う噂もね」
「じゃあ、俺やおまえ。ついでにアリーナ王女も共犯扱いになってるって言うのは」
 はぁ?
 あたしも共犯?
「兵士はそこまできてる。足止めしてるけど、いつまで持つかわからない」
 あたしの疑問を放ってマリーチは今の現状を本当に手短に言う。
 で、なんであたしも共犯なの?
「ともかく、ガイと親しかった連中が全員共犯になってる。俺たちの逗留を許可した王女もな」
「そんな……関係ないでしょう?まさか。ガイを迎え入れて誘拐させるための協力者って事?そんな馬鹿な論理、誰がぶちまけてるのよ!!」
「リットン公だ」
 よりによってあの無能大臣が?
 確かに大臣席に着いてるけど、あいつって末席よね?
「ルイセ、マリーチ……リットン公はガイの逗留を認めてなかった方ですわ……」
 確か、聖騎士団出身って言う話らしいけど。
 あのちびの小太りが?
「それでもリットン公は大それた事をできる方ではありませんわ。何かの間違いなのでは?」
「でも、公が城の連中にそういってるのは確かに聞いたぜ。だから、三重結界張ってあるこの塔に避難したのですよ、王女。しかしルイセ、おまえも良いところ選んだよな」
「三重結界はあたしが張った訳じゃないけどね。でも連中が結界を壊して、マリーチの足止めを突破するのは時間の問題か……」
 マリーチが何を置いてきたのかはわからないけど。
 気配から察するに……ま、そんな強力なのは置けないか。
「エカルマの森……。ルイセ、マリーチお二人とも、エカルマの森へと参りましょう」
 え、エカルマの森?
 何であんなところに。
 エカルマの森は世界の礎の一つ。
 何のためにって言うんだろう。
「母様が、エカルマの聖域を探していたのはご存じだと思います。今、誰にも何も言わず、供も付けずに向かう場所と言えばエカルマの森以外にありません。エカルマの森は無関係のない者が知ってはならぬ場所ですわ。あの聖地に何かがあった。もしかすると、母様はそれに気づいて、誰にも告げずに向かったのかもしれません」
「ん〜一理あると言えば、あると言えるでしょうけど」
 私もマリーチの気持ちがわかる。
 女王が居ないのはエカルマに言ったというアリーナの予想。
 間違ってないのかもしれないけれど。
 それでも、無能大臣が女王がいない、ガイが犯人って騒いでいる……。
「ガイがいないのが問題なのか」
 そして黒の魔道士であるあたしがいることが。
「どういう意味だ?」
「ガイがいて、女王だけが行方不明ならば、女王がいないってアリーナのところに連絡がいくわよね」
「そうですわね」
「でも、ガイがいない。ガイ=犯人は単純過ぎるけど、ガイはいくらベラヌールで銀の聖騎士と呼ばれていたエルバート公の息子だとしても、突然現れて、女王のお供でいくら理由があるとはいえ、ベラヌールにまで行ってる。今まで女王の供やってた連中から見れば気にくわないわよね」
「おまけに、邪悪な魔道士、黒の魔女の恋人」
「黒の魔女って言わないで。……ともかく、ここは聖道士協会の中心であり王城、いくら何でも白の聖地に黒の色称号付きの魔道士がいるなんてしゃれにならない」
「だからガイを犯人にして気に入らないやつを一掃しようと」
 あたしの言葉の後をマリーチが続ける。
「……そんな、そんな事で?」
 案の定アリーナは驚いている。
 ガイを犯人にしてギャーギャー騒いでいる事から見れば間違いがそう考えるほかにない。
「じゃあ、王女のそれは」
「あたしがここにいるのは女王陛下に雇われているからって事だけど、表向きはアリーナ王女に懇願されてここにいるって事になってる」
「で、同罪って訳か」
「たぶんね、それ以外に考えつかないし」
 マリーチの言葉に頷いたときだ。
 かすかだけど、鈴の音が聞こえた。
「鈴の音?」
「結界が突破された感じ。まだ一つ目だから余裕あるとはいえ……、結界解除されてもおかしくないんだけど……。これからどうするか」
「俺は脱出の準備はできてるぜ?」
「私も大丈夫ですわ」
 とアリーナは聖道士必須アイテムのロッドを見せる。
 聖道士の力である聖力を安定させるためのロッドで力が強くなればそれは飾りになるんだけど。
 アリーナはまだまだ半人前の聖道士なので、無いと不安定なんだよね……って。
「って、アリーナ、何でロッド持ってるの?あんたまさか女王が行方不明って聞いたときにはエカルマの聖地に行っただろうって思ってたわけ?」
「違いますわ。エカルマに向かったのではと気づいたのは、今、ルイセと話した為ですのよ。それに、ロッドは朝のお勤めには必要なんですの」
 さすが聖力が不安定なだけはある。
 ……安定すれば化けるかも?なんて思うのは希望的観測すぎるだろうか……。
「……二つ目……」
 二つ目も消えたか。
「結界が消えましたわね」
「のんびりしてる場合じゃないわね。うかうかしてたら三つ目も消されてマリーチの足止めも消される」
 まぁ、マリーチの足止めは幻覚なんだろうけど。
「ルイセ、準備ができているのならば、逃げましょう」
 そういってアリーナはそれなりに本が入っている棚を軽々と動かす。
 みっしりとまではいかないけれど本が大量に入ってる本棚……結構、重いはずなんだけど。
 アリーナが横に動かすと、扉が現れる。
「まずは、この中へ。ここの先は…、エカルマの森へと出られるますわ」
 アリーナの言葉にあたしたちは頷く。
 旅の準備はいつもしてあるからそれを持って、アリーナとマリーチを先に行かせ、あたしは最後の足止めの結界を張り扉の中に入る。
 扉の先には狭い空間に階段があった。
 最初、この塔を見て中に入ったとき、上ってきた階段が思ったよりも急なことを不思議に思っていたのだ。
「その昔、幽閉された王族がこの階段を使って反乱軍に身を投じたそうです。この先はっキャー」
 叫んだアリーナの姿がない。
「マリーチ、何?」
「階段がない」
 は?
 下りの階段が延々と続くのだと思ってたけど、どういう事?
「お二人とも何をしてらっしゃいますの〜〜」
 反射して間延びしたアリーナの声が下の方から聞こえてくる。
「えっと……ってストッパー、解除されたぜ、ルイセ」
 マリーチの足止めが解かれたらしい。
「とすると、残りはあたしの結界。あぁ、二つ目から三つ目までが早かったから……時間ないかな?」
 最後は一応強力なやつだけど。
 この塔は、その昔この国にいた魔道士が作り上げた結界。
 聖道士の国とはいえ魔道士もそれなりにいたらしく、その証拠はたくさんある魔道書からも伺える。
 だからといって、大手を振って歩けた訳ではないらしく、この塔はそういう魔道士が研究を邪魔されたくないが為に作り上げた結界を持っている。
 最上階が研究所で、最上階に陣取っている人間の魔力で結界は維持されるわけ。
 魔力があればあるほどそれは強固になるわけで、一応黒の魔道士と呼ばれている訳ですから、私の魔力は大きいのですよ。
 なのに、破られるのはあたしより力がある、たとえばトゥルーラの大賢者様(様なんて付けたくないけど)とか、ベラヌールの法皇様とか……。
 ……えっと、今、いやな予想しちゃったんだけど、まずあり得ない……はず。
 はず……よね。
 今はそれどころじゃない。
 逃げるのが先というわけで、意を決して、あたしとマリーチは飛び降りることにした。
 ところでこれってどこまで落ちるのか。
 浮遊落下の呪文使わないとっ。
「遅かったですわね」
 突然の浮遊感を覚えてすぐにアリーナの声。
「ようやく、いらっしゃいましたわね」
 その方を見ればにこにこと笑っているアリーナ。
「浮遊落下の呪文かけたの?」
「もともとこの通路に掛かっている呪文ですわ。掛かるまでに少し時間が掛かるんですけど」
 通路に掛かってる呪文?
「王族が反乱軍に身を投じたときに使ったと申しましたでしょう?ここは緊急脱出用。なのに落ちて死んだら元も子もありませんわ」
 そりゃそうだ。
「ですから、ここには浮遊落下の呪文がかけてありますの。もう着きますわ」
 アリーナの言葉通り、さほど遅くもなくそれでいて早くもない安定した速度であたしたちは地面に降りた。
「少し、歩きます」
 なれた調子でアリーナは歩いて行く。
 何度も来たことがあるのだろうか。
「ここですわ」
 アリーナが開けた扉の先には森。
 エカルマの王城付近で広がる森はエカルマの森だけだ。
 一度、この王女を捜しに入ったことはあるけれど……、こういう入り方はしていない。
「ここはもうエカルマの森ですのよ」
 アリーナが迷わず歩いていた理由がわかった。
 この娘は何度もエカルマの聖地に向かおうとしていたんだ。
 そしてあの塔の事を知った……。
「最初は好奇心でしたの。一度行ってみたいと。そして調べていくうちに塔からこうやって抜け出せることを知りましたの」
 いたずらっ子のようにアリーナは言う。
「何度も行ってみたくてここまで来ては引き返しましたわ。そこまで勇気が持てなかったと言えばそれまでですわね。でもあの日……、お二人とお会いしたあの日……、あの日はこの場が乱れた日でした。乱れたという言葉は適当ではないのかもしれませんわ。でも何か妙な感じを受けたのは本当ですの。そのことを母様に申しましたところ……「気づいたのですね」と返されました。でも、それだけ。私はいてもたってもいられなくなって、この森に来たところに、あなた方にお逢いしたのですわ」
 女王は気づいていたのだろう。
 アリーナならば気づくだろうと。
 だから、その前にあたしたちをエカルマに呼んだのだ。
 ………。
「マリーチ、ガイは、何でエカルマの森に入ったんだっけ?」
「迷ったって言ってたなかったっけ?」
 あたしの問いかけにマリーチは答える。
 森は、入ることが禁じられているからと言って進入禁止の柵なんて作られても居ない。
 第一、エカルマの森は広いのだ。
 リスブルク大陸の右中央部に存在するエカルマの背後はすべて森だ。
 そして、広大な森。
 そう、エカルマは森の入り口に存在している。
「ルイセ、どうしたんですの?何かガイに?」
「違うわ、全く別のこと。アリーナ、今はエカルマの聖地に行くことが先決でしょう?女王がいるか居ないか……、そこに行けばすぐに問題は解決するわ」
 アリーナの言葉に否定してあたしは二人を森へと促す。
 何を考えてガイはこの森に入ったの?
 入る必要がない森。
 迷い込む理由がないのに……、何を?
 考えるだけ無駄か…。
 予想も何もないのにね。
「ところで、アリーナ、礎の場所知ってるの?」
「いえ、全く。森の中心だと母様から聞きました。でも森は広大ですし……城からは見えませんのよ。王城の中で北側に窓があるのは二階まで。見張り塔ですら北側を見渡すことはできませんの」
 確かに……言われてみれば塔の階段の壁は北側に窓がなかった。
 あたしが居た部屋も北側には窓がない。
 ちなみに隠し通路は北側だ!
「北側に窓がないのは隠し通路の為じゃなく、聖地の場所を秘密にするためだったのね。だから王城の北側には窓がない」
 あたしの言葉にアリーナは深く頷く。
 聖地……礎のある場所は簡単にはわからない。
 昔、トゥルーラの大賢者と呼ばれる師匠からそう聞いたことがある。
 礎の場は簡単に制御できるからわからないようになっている、と。
「いたか?」
 城の方から風に乗って声が聞こえてきた。
 どうやらあたしたちを探しているよう。
「見つけ次第、絶対にとらえろ!、そうすればルフィー様からの褒美は思いのままだ。ただし、女王と王女は手荒に扱うなよ。魔道士と召喚士は殺してもかまわん!!」
 って何よそれ〜〜〜。
 ってルフィー?……って?
「状況、変わってきてないか?」
「予想の範囲内。王女もついでにあたしたちも行方不明ならこうなることは当然じゃないの?でも、ガイの存在が消えてる」
「あぁ」
 ガイが居ないと言うことは今朝になってわかってるはずなら、あたしたちの中にガイが居ると考えてもおかしくないんじゃないの?
 それなのに、ガイの存在が無視されてる。
「事の発端は女王も居なくてガイも居なかったって事よね。それでアリーナはあたしの部屋に来た、マリーチも来た」
 ガイは女王と一緒にいると考えてもおかしくないはずなのに、ガイの存在が消えてる。
 探してない?
 ここで一番疑われてもおかしくないのはガイのはずなのに……。
「どうする?」
「今は急いでエカルマの聖地に行くしかないわね。場所が確定できればいいんだけど……。アリーナほんとにわからない?」
「わかりませんわ。ルイセこそわかりませんの?」
「マリーチは?」
「全然」
 はぁ、森全体が礎の磁場になってるから強力なポイントを特定できないんだよね……。
 だからこそ魔道士でも見つけるのが難しい、あぁ、師匠の言うとおりだ。
 どうすれば良いんだっけ?
 追っ手をやり過ごす為手頃な木に登る。
 だからといってずっとここにいるわけにはいかないんだけど。
 サーチの魔法はたぶん使えないだろう。
 やるだけやってみる?
「この地一帯、燃やすと楽なんだけどなぁ……」
「ハハハ、無茶言うなよ」
「ルイセ、本気で言ってますの?」
 冗談に決まってるでしょう。
 できなくないだろうけど。
「ちょっとだけ、サーチの呪文使ってみる。遠き瞳、目指す物…………女王の足跡見つけた……………」
 しかも新しい。
 まだ色濃く残っている彼女が纏う聖力の後。
 確実に女王がこのエカルマの森に入ったことは分かった、おそらく聖地に向かっている。
 でも、何のために、誰にも言わず、護衛も供もの人間も付けずに森に入ったんだろう。
 騒ぎになるってわかってたはずなのに。
 それ以上に何かの為?
「魔法探知、この場所じゃ難しいだろうな」
 マリーチの言うとおり、途中までは見つけた。
 でも、そこから先が無理。
 聖地が近いせいか消えてるんだ。
「……そうか……女王は聖地の場所を知ってるって訳か。途中までは見つけたから、そこから先はまたそこで考えよう」
 木から下りてあたし達は女王の聖力を頼りに聖地に近づいていく(はず)
 ただ、追っ手が居るのよね。
「見つけた〜〜」
 どのくらい放たれたのかそうも進まないうちに追っ手に囲まれる。
 その数、森の中だというのに20人。
「近衛騎士っ」
 女王の直属の騎士達の用だ。
 ランデールの騎士は聖道騎士団と呼ばれ、ベラヌールの聖堂騎士団、ヌーベルのテンプルナイトと同様に聖騎士のあこがれの騎士団で、聖道に従事しているランデールの騎士は、あのベラヌールの聖堂騎士団よりも聖道の能力は上なのだ。
 だから、ここにわざわざ来る聖騎士も居る。
「王女、ご同行を願います」
 隊長らしき人物がアリーナに言う。
「できません。私は女王陛下を追ってエカルマの聖地に参らなければなりません。誰の命令で動いているのですか?女王がいらっしゃらない中、城内の騒ぎを治めるのがあなた方の仕事でしょう。私はそう命じたはずです」
 アリーナは彼らに向かって言う。
 あたしのところに来るまでにそんなことやってたんだ……。
 そういえば、結構な朝になってから来たんだからそうよね……。
 そのくらい指示とかしてるわよね、一応第一位王位継承者で、国家法人エカルマ・ケトイの代表代理なんだから。
「リットン公が王女は王位の放棄とみなしあなたの命令は無効です」
「何故、リットン公がそのような事を言うのです。私はあなた方とそしてグレイ宰相に命じたはずです。宰相はどうしました」
「何を言う、宰相はクーデターの首謀者!!」
 クーデター?
「そんな……」
「あなたも、その一味!!王女、得たいのしれない魔道士ふぜいを側に置いた為ですな」
「そんな、グレイ宰相がクーデター?私も、その一味?そんな馬鹿なことが」
 ……クーデターか……。
 そう来るだろうと思ってた。
 っつーか、得体の知れない魔道士ってふぜいって。
 黒の魔道士なんだけどねっっ
「もう一度、言います。アリーナ・ラヌーラ・ニール王女殿下、クーデターの一件でご同行願います」
「…………」
 騎士の言葉にアリーナは呆然としてる。
「そして、お二人にもご同行願います。抵抗なさらずよう、ただでは済ましませんぞ」
 あたし達に向かって言う。
「ルイセ、どうするんだ」
「単純よ。あいつらを呼ぶ」
「は……おまっ……まさか」
「クーデターだもの大喜びで来るわよ」
 ついでにおまけも付けてやる。
「おい、抵抗するなと言ってるんだ!!」
 あたしとマリーチの密談を呪文だと思ったのだろうか。
 のんびりしてる場合じゃないわね。
「アリーナ、決断しなさい。この先、どうするか。クーデターが起きたのは事実。こいつらも首謀者。さっきの会話聞こえたでしょう?ここでつぶすか、それともつぶされるか」
「つぶすって近衛騎士団をですか?」
「貴様!!!」
 驚くアリーナに頷きながら、剣を向けた騎士に対抗するためカードを展開させる。
「あなたの目的は何?何がしたいの?どうしてここにいるの?あたしとマリーチは依頼主からまだ依頼内容を聞いてないわ」
「ルイセ……。私は、風のエカルマに。この森のどこかにある聖地に行きたいんです」
「了解」
 あたしが頷くと同時に騎士団がおそってくる。
「あたしを黒の魔道士と知っていながらやり合おうって言うんだから黒の魔道士の実力見せてあげるわよ」
 防御の展開をさせてるけれど、そう持つものじゃない。
「マリーチ、幻惑の呪文よろしくね。アリーナは防御の呪文。あと…場…荒れたらごめん」
「へ?っっ彼の影になりて惑わせし者どもの目を奪え」
「は、はい。慈悲なる女神よ、力弱き我らを守り給え」
 マリーチは幻惑の呪文をアリーナは防御の呪文を唱える。
「ベート・ヴァヴを介し金牛宮の水星を通すケテルビナー、マジシャンよ剣を盾に」
 新たにカードで防御を展開させる。
 魔法使いのカードと法皇のカード。そして剣。
 剣のカードが当たりに散らばれば、あとはもう勝手に戦ってくれる。
 マリーチがかける幻惑の呪文、聖道騎士には効き目薄そうだし。
 というわけで、覚悟しなさい。
「ゲーラダイン ナイムイスト ダイガッティン デアエアド ウェアサイド ダイン慈悲深き断罪の女神よ。罪深き者達に裁きの炎を、愚かなる者よ、汝ら灰燼と化せ!ゲイラレスト!!」
「その呪文はっっ」
「おまえ、やり過ぎっ」
「ヴィスザート、大地の守護者よ、我らを守る盾をお贈りください」
 誰かが叫んだけど、知りません。
 このあたしを怒らせたんだから。
 ついでに連中を呼ぶための布石なんだから。
 これで来ないはずがない。
 あいつらはあたしを見張ってる。
 あたしが大量の魔力を放出すれば絶対に来るはずよ。
 クーデターも教えてあげたんだから。
 慈悲深き断罪の女神の炎が火柱となって地面から吹き出す。
 そしてその引力に惹かれ空から大火球を振り落とす。
 黒魔法炎系最大の魔法なのよ。
 あたりは火の海を見る前に灰となりはてるはずだったんだけど……。
 アリーナがヴィスザートの守護の呪文を唱えたせいで押さえられてしまった。
 それでもそれなりには焼けている。
 だからこそわかったのかもしれない。
 聖地の場所が。
 女王の足取りが消えた近く、強大な力を感じる。
 場が荒れるかと思ったけれど、そんなことなく。
 呪文が収まれば騎士団の姿はすでになく、あたし達の目の前には焼けた跡地で一本の道ができあがっていた。
「この先に……何かを感じますわ。それより、ルイセ、やり過ぎではありませんの?」
「あれは必要よ。奴らを呼ぶには」
「奴らとは何ですの」
 言うべきか、言わざるべきか。
 あたしはまだ悩んでいる。
 アリーナは知っているだろう。
 奴らを。
 でもその本質までは知らないはずだ。
「キュー」
 甲高い声がしてあたし達に影が掛かる。
 上を見上げれば一匹の竜。
「カルパードラゴン?」
「まさか、あれは絶滅したのでは」
「数が少ないって言うだけでまだ絶滅はしてないわよ」
 竜が羽ばたき地上に降りてくる。
 カルパードラゴンは馬より少し大きめのドラゴン。
 ……もちろん、羽を伸ばせば馬よりは断然大きいが。
「やっぱりルイセか」
 降り立った竜から声が掛かる。
「レムネア、ファーレンからここまで竜で来たの?」
「いや、船で来たんだ。レオンは勝手についてきた」
 黒い髪で緑目の青年……レムネア・クラブ・ジードが竜から降りてくる。
「エカルマの王城に用があったんだが、急にこいつが降りてきて俺を引っ張ってここまで来た。そしたら呪文が発動されてて、聖地で呪文を放つのはお前ぐらいだとは思ったけどな」
 悪かったな。
 どうせ、あたしは極悪黒の魔道士ですよ。
「竜が引っ張ってきたか…、聖地の磁場が荒れてたことに気がついたってところか?竜が気がついた……」
 マリーチはそういって考え込む。
 あたし達は気がつかなかったけどね。
 何も感じなかったけどなぁ……。
「ところで、この方はどなたですの?」
 アリーナはレムネアを見ながら言う。
「あたしとマリーチの友人で」
「それ以上は自分で言うよ。俺は、レムネア・クラブ・ジード。ベラヌールの竜騎士見習い」
「の予定が、モユルリ・フヨウ(ファーレン)の第二王女を救ったせいで、ファーレンに逗留することになった第二王女専用の竜騎士様ですよ」
 マリーチがレムネアの言葉に割り込んでアリーナに茶化すように説明する。
「まぁ……私は、アリーナ・ラヌーラ・ニールと申します。エカルマ・ケトイの代表代理を務めております」
「エカルマ・ケトイの…」
 アリーナの言葉にレムネアは驚く。
「どうしたの?」
「……銀の聖騎士をご存じで?」
 銀の聖騎士……。
 か…。
「どうした、ルイセ。お前も知っているのか?ガイ・エルバート・シルアのことを」
「は?ガイは銀の聖騎士の称号を持ってたの?」
 通称みたいな感じで呼んでたけど。
「あぁ、一応亡きエルバート公の跡を継ぐのはガイだと言われてたぐらいだからな……ってお前ガイと知り合いだったのか?」
 うっ……ま……うん。
「まぁ……ガイとはアリーナ王女との縁で会ったような物なんだけどさ……」
 言いづらそうにマリーチは言う。
 なんて説明していいかわからないわよね。
 あたし達は。
「そうか……詳しくは後で聞こう。レオンの様子がおかしい」
 まさか、さっきの奴らが体勢立て直してきたって事?
 でも、聖地が見つからないことには……何となくはわかるんだけど……。
「大丈夫、レオンが知ってる」
 レムネアの合図に竜のレオンは静かに飛び立ちそしてそれほど行かないところにあった岩場に止まる。
 レオンが止まった岩場に行けばぽっかりと大きな穴が開いていた。
 そこからは風吹き出し、そして……強大な場を感じた。
「ここが礎なんですの?」
「この奥でしょうね」
 穴の前でアリーナはのんびりとレムネアと会話をしている。
 近づかなくてもわかる、礎が発する強大な力。
 これでもたぶん押さえているんだろう。
 礎は世界を支える柱。
 礎が崩壊すれば、世界は崩れる。
 女王は、何のために礎に来たんだろうか。
「参りましょう。この先に」
 アリーナの言葉にあたし達は頷き、岩場の中にできた洞窟へと入っていった。
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