七夕

 今日は七月七日だって、テレビが言ってた。
 なんか特別な日なのかなんて思ってたら『七夕』って言ってた。
 地上(東アジア地域)では全域で雨だって。
 なんで、こんなに残念そうに地上のテレビのアナウンサーは言うんだろう。
 地上向けのサテライトのテレビ放送だから天気は重要だけど…。
「なに、見てんだ」
 後ろから、彼が声をかける。
「いや、テレビ」
「それ、わかってるつーの。じゃなくって、何の番組見てるんだ?珍しいじゃん、地上サテライトのテレビ見てるなんて」
「ん、今日、7/7で、地上では雨降ってるんだって」
「あぁ、今日、七夕かぁ」
 感慨深そうに言うそいつにわたしは驚く。
「何?」
「いや、何でそんなに感慨深げなのかなぁって思って」
「七夕って言ったら小さい頃、笹に飾り付けして、短冊に願い事書いて、それに笹にくっつけて…ってやらなかった?」
「知らない、そんなの。何?何それぇ」
「あぁ、お前、多種コロニーで育ったんだよな」
 俺、地域コロニーだから。
 その言葉聞いて納得した。
『七夕』って地域限定なんだって。
 地域コロニー出身の彼は、そう言う『イベント』に接していた。
 多種コロニーだって同人種の集落に住んでいたらそう言うイベントは知っていてもおかしくないけど、あいにくわたしの周りはそう言うイベントを行う同人種はいなかった。
「え、でも、願い事って何?何でするの?」
「うーん、簡単にしか説明出来ねぇけど、織り姫と彦星が、1年に1度だけ逢うからそれにあやかってって言う…」
 …かなり、簡単に、説明されてるような気がする。
 この際だから詳しく聞いちゃえ。
「1年に1度って何で?」
「うーん。最初、二人はまじめな人間だったんだって、で、まじめだから彼氏彼女も出来ないでいる二人を不憫に思ったらしいエライ人が、二人を引き合わせたんだと。そしたら、まじめじゃなくなって…そのエライ人が怒って、二人を引き離したんだよ。んでー、1年に1度の七夕の日しか逢うなぁって事になったんだ」
 へぇ。
 なんか、物知りなこいつに思わず感心しちゃう。
「で、それと雨と何が関係するの?」
「二人は天の川を境にして引き離されたわけ。で、7月7日に雨が降ったら、増水して逢えなくなるんだと。だから、晴れて欲しいって思うんだよ」
 ふーん。
 1年に1度しか逢えない上に、雨が降ったら全部パー。
 どんな気分なんだろ。
「何考えてんだよ」
「何って別に」
 素っ気なく返答したわたしに奴は後ろから抱きついてくる。
「な、何?」
 突然の事に驚く。
 もぉ、こいつの行動って時々、わかんないっ。
 手を前に回してわたしの手を触りながら、聞いてきた。
「なぁ、お前だったらどうする?」
「何が?」
「そこで聞くか普通?俺と、さぁ、1年に1度しか逢えないってなったら」
「えぇ?そんなのあり得ないじゃん」
「わかんねぇよ。この先何があるのかお前、わかんのかよ」
 そう言われると…、分かんないわよね。
 …1年に1度しか逢えないのかぁ…。
「そこまで考え込む事かぁ?」
「まじめに考えてるんじゃない」
「まじめじゃなくって即答しろって事。俺は、やだぜ?お前と離ればなれになるの。1年に1度しか逢えないのって無理だね」
「…わたしもヤかな?」
「かな?その疑問形は何?」
「…いや…です」
「はい、良く出来ました」
 なんか、ムカツク。
 なんか、すっごく余裕な感じがムカつく。
「だからさ、俺とずっと一緒にいような」
 …もぉ、何でそんな事聞いてくるのよぉ。
「聞いてる?」
「聞いてるってばぁ」
 嬉しくってどうして良いかわかんなくなってるんだよぉ。
「お前、嬉しいと声にでるからわかりやすい」
「もぉっっむかつくぅ」
 そう言ったわたしに彼は嬉しそうに笑った。

 織り姫と彦星は逢えたのかな?
 地上では雨だけど、コロニーでは雨が降ってないからきっと逢えてるかもね。

*あとがき*
以前、突発ノートで書いた七夕のHTML版。
改訂するところは特になし。
用語設定:地域コロニー(その人種が住んでるコロニー。例えば、コロニーそのものが日本だと言う感じ)
多種コロニー(いろんな人種が住んでいるコロニー)
コロニーの特色:天気と言う概念が存在しない。すべて気温・湿度すべてコンピューターで管理している。


novel top