「これからどうするつもりだ?」
隊長がオレに聞いてくる。
トリック(反地球連邦)のリーダーでもあり、トリックの旗艦の艦長でもある彼は、戦後のオレの身の振り方を心配しているようだ。
「これから?」
「そうだ」
「……隠れようかなって思ってる」
「……本気か?」
「結構マジ。…こいつがさ…マジでやばいんだ」
今、腕の中で子供みたいに眠っている彼女にオレは目を落す。
「多分、……このままだと…こいつ、壊れるから…」
「………だろうな」
「やっぱ…わかる?」
「だろう?見てて危うい。精一杯虚勢はっているのが見え見えだ。黙認していた俺達も俺達だがな」
そう隊長は苦笑いをする。
戦争中の彼女は見てて痛々しいほど、笑っていた。
泣いてもおかしくないことがたくさんあったのに。
何とかしたくても、何とも出来ない現実が何度も彼女を打ちのめしたのに、彼女はそれを気力で乗り越えていた。
だけど、それも、もう限界。
終戦だとわかった瞬間、彼女は、倒れた。
崩れ落ちるように、眠りに入って、彼女は今だ眠り続けている。
「確か…昔なじみ…だったよな」
「…言ったっけ?隊長に」
「聞いた。お前が、彼女を連れてきた時…いや、お前が彼女に再会したっていった日に、自分で言ったのを忘れたのか」
そう言えば…言ったような気がする。
1年しか一緒にいられなくって…一緒っていったって、その他大勢がたくさんいた中での一緒で…こんな風に抱き上げた腕の中で彼女が眠るなんて事あり得なかった。
だから、だから、今、この腕を放したくなかった。
彼女が大丈夫だって言ったとしてもだ。
「で、どこに行くつもりだ」
「コロニーに帰ろうかなって思う。地域コロニー。難しいかな…」
「……地域か……。オレが何とかしてやる」
隊長の言葉にオレは驚く。
何とかって何とか出来るわけ?
「そのくらいのコネはある」
「さっすが、隊長。だてにトリックのリーダーやってた訳じゃないね」
「お前なぁ、ちゃかしてるのか」
「ハハハ、まさか」
笑って誤魔化す。
「ちゃんと守ってやれ。お前しか、彼女を守ってやれるヤツはいないんだからな」
「あぁ、わかってるよ」
隊長の言葉に強く頷く。
守るよ。
そう決めた。
壊れそうな、こいつを見ててそう思った。
泣いたっていいのに泣かない。
喚いたっていいのに、叫んだっていいのに、そうしない。
そうして、いつの間にか笑うことしかしなくなった。
もっと早く気付いてやれば良かった?
そうすれば、ココまでならなかった?
後悔だけが…先に来る。
いくら彼女が大丈夫だって微笑んでも、そう見えないから、厄介だ。
だから、二度と彼女にこんな苦しみが訪れないように、オレが守るから…。
彼女が目を覚ましたのは、地域コロニーでオレたちが住む部屋にたどり着いてからだった。
どこだと訊ねられて、オレたちが住む部屋と簡単に説明した。
他に、くどい説明はいらないけど。
「そう」
それだけ、答えて、彼女はゆっくりと微笑んだ。
少しだけ、ほっとした笑顔だった。