今日は、12月24日。
今日は、何の日だっけ。
思わず考える。
お店で流れる曲で、はたと思い出す。
クリスマスイブだ…。
敬虔なクリスチャンでなくても、全世界のほとんどの人が知っている季節の行事。
クリスマス&クリスマスイブ。
それを忘れるわたしは、どこか、ぼーっとしている。
「何、考えてんだ?」
「今日って、クリスマスイブだったんだね」
「何言ってんの?」
目の前の彼は、わたしに向かってそう言う。
当の彼は、一生懸命、部屋を金銀のモールで飾り付け。
ツリーには色とりどりのライトをつけ、この、クリスマスイブと言うイベントを、精一杯満喫している。
「お前、冷めすぎ」
「別に冷めてるってわけじゃないけど…。なんか、なれないから…。こう言うこと」
「……じゃあ、なれて、満喫する。ほら、ケーキにターキー、一杯買ってきたんだからな」
テーブルの上にはたくさんの料理。
二人で食べきれるのかな?
なんて事が頭の中を浮かぶ。
「お前も手伝えよ」
「え、アァ、うん」
彼の言葉にわたしは立ち上がり、飾り付けの手伝いをする。
部屋中クリスマス一色…って言うよりもパーティー一色だ。
「ねぇ、あんたってさぁ…敬虔なクリスチャンだっけ?」
「?別に、クリスチャンでもねぇけど。どっちかって言ったら…仏教徒か…まぁ、無信教者?」
「…だよねぇ」
「で、クリスマス祝ってるのが不思議だって?」
「…そう言う訳じゃないけど…」
「楽しいことは取り入れて、楽しむ。この地域コロニーの特色だからな。昔っから、そう言うことばっかりだったから、あんまり気にしてねぇけど。気にしないで、パーッと祝う。ほら、シャンパン開けるぞ」
「え?」
気付いたら彼はシャンパンを手に持ち、栓を開ける準備をしていた。
「はい、メリークリスマス」
「あ、ありがとう」
シャンパンを開けて注ぐ彼にわたしは言う。
…なんだか、いいな。
こう言うの。
「…どうしたの?」
「え?別に、気にしないでよ。おいしそうな料理だね」
「お前、何にもしねぇからな。いろいろ、買ってきた」
「なんか嫌みに聞こえるんだけど」
「気のせい、気のせい。ん、このサラダうまいぜ?」
言葉で軽く片付けて、彼はサラダに手を伸ばす。
ひとしきり、料理を味わった後、彼はおもむろに立ち上がる。
「…どうしたの?」
「ん?ちょっと待ってろ」
そう言って、部屋からでていく。
…どうしたんだろう。
少し、不安になる。
一緒に暮らしだして…まだ1年経ってない。
捨て猫みたいなわたしを拾ってくれた感じのアイツは、いつも一緒にいてくれる。
独占欲強くって、子供みたいにすっごく笑って。
ほっとする。
「何、見てんだ」
外を眺めていたわたしの頭上から声がかかる。
上を見上げると、彼がわたしを見下ろしていた。
「別に、何見てるって訳じゃないけど…。どっちかって言えば…考え事?」
「じゃあ、何考えてたんだ?」
わたしの隣に座り、聞いてくる。
「一緒に住み始めてから、まだ一年経ってないんだな…って事。出逢ってからは10年以上も経ってるのにね」
「15年ぐらい?」
「……そんなになる?」
「なるだろ?」
「マジ?」
「なるって」
……なるかも…。
「やっぱ、長いよ。逢ってから一緒に暮らせるようになるまで」
「何?もしかして、期待してた?もっと早くに一緒にいられるようにって」
「……そう言う問題じゃないしっ」
「オレは…少しは期待してたけど?」
真面目な顔でわたしの顔を覗く。
まっすぐに、見つめる瞳は、昔と全然変わってない。
でも、記憶にあるのはケンカしたことぐらいで…仲良く話してた記憶なんてほとんどないのは…何でだろう。
「そうだ。手、出して」
「手?」
「そ」
笑って言う、そいつの言葉に応えて、手を出す。
手のひら見せてって言うから、手のひらを上に向けたら、銀のクサリと…オプションが降りてきた。
「……何コレ」
「見ての通り、クリスマスプレゼント」
「………ありがとう…」
「もうちょっと、喜ばねぇか?普通」
「……って言うか、ちょっとビックリしちゃって。コレ、指輪カワイイ」
「ピンキーリング。ホントは違うのにしようと思ったんだけど、それは後でって事で」
…ホントは違うのにしようと思った…ってどういう意味だろう。
と思いながら、鎖に通されているピンキーリングを覗く。
しっかりとわたしの誕生石がキラリと輝いている。
「………ねぇ」
「何?」
「…はい、プレゼント」
おずおずと差し出したのは、彼が前から欲しがっていた物。
「…お前…」
「前、欲しいって言ってたでしょ? いい感じなの見つけたから…いいかなって思って……」
「………」
それを見て、彼は呆けている。
「な、何よぉ。欲しくないなら、返せっ。わたしが使う」
「ばーか、オレがもらう。オレにくれたんだろ?だったら、オレがもらう」
「カワイくなーいっ。ちゃんとお礼言ってよ」
「だから、…サンキュ。マジ、嬉しいから」
そう言って、笑顔を見せる。
「好きだよ……好き」
口に付いてでてくる、思い。
時々、足らないと思うのは何故だろう。
言葉を、なかなか表に出せないから、素直じゃないって言われる。
「……滅多に言わない言葉を聞くのって…マジ貴重…。素直になったのはシャンパンのせい?」
「ちゃかさないでよ。たまに言うと、そう言ってちゃかして。何よ」
「ワリィ。お前ってさぁ、時々、こっちの意表付くことやってくれちゃうよな」
「…駄目な訳?」
「違う。もう少し、まめに見せてくれてもいいかなって思うんだけど」
「滅多にやらないから、すっごくいいんじゃない?」
「良くねぇって…まぁ…それでもいいか」
そうそう。
それでいいの。
言うと緊張するから。
でも、言わなきゃいけないんだよね。
わかってるんだけどな。
隣に座る、彼の顔を見上げると、わたしの視線に気が付いたのか、視線を合わせてくれる。
…なんか…いいな。
さっきも思ったけど、やっぱり今も思う。
この先も、そう思いたいな。
ふと肩に手が伸びる。
そして、顔が近付いてきて…、キスされる。
「好きだよ」
紡がれた言葉の後、ニッコリと微笑まれる。
……やっぱり、駄目。
どうしていいかわかんなくなる。
「不意打ちやめてって言ってるでしょ?」
「…予告するか?普通」
「しない」
「だったら、不意打ちはありだろう?って言うか、今のは不意打ちっていわねぇよ」
くっそー。
なんか、ムカツク。
憮然としたわたしを見ながらアイツは笑う。
時を告げる鐘が、日付の変わったことを告げる。
その鐘を聞きながら、この先も一緒にいられたらいいなって…静かに思えた。
「……メリークリスマス。…言ってなかったよね」
「お前はな」
「……そうでした。」