「じゃあ、私は帰るわね」
鮮やかに微笑んで、副長は帰っていった。
副長…反連邦の最大組織だった『トリック』の副長で、旗艦の副艦長でもあった。
オレと彼女の事を一番に理解してくれたのも副長だった。
副長が、オレたちの所に来た理由は想像が付いた。
今、この世界を取り巻く現状だ。
戦争が終わっても、すべてが解決する訳じゃない。
その後の処理が一番大変で、そのために、リーダーだった隊長と副長は走り回っている。
オレは、そう言う状況を理解しながら、トリックの支持コロニーの一つである、今居るコロニーにやってきた。
逃げてきたと言っても…いいかもしれない。
彼女の具合を理由に。
不意に、隊長か別れ際に言った言葉を思い出す。
「お前は、彼女と居ることを選んだ。今は、それで良いかもしれない。それでも、いつか二人で居ると選んだ事への代償が降りかかってくるかもしれない。…来ないかもしれないがな。だがたとえそれが来たとしても、お前は、自分の選択に後悔だけはするな。彼女を守ると決めた過去のお前も、今までの事ともすべて否定する事になるんだからな」
代償…、彼女を失うことも、それにはいるのだろうか。
部屋中を見渡して、ため息をついた。
******
「遅い」
「お前なぁ、もっと分かりやすいところにいろよ!さんざん探し回ったじゃねぇか」
「ごめん」
「ごめんじゃねぇよ」
じろっとにらみながら、ため息をつく。
彼女を捜し回った理由は…喧嘩が理由だ。
…複雑だけど、実際は単純。
ようは些細な喧嘩が大げんかに発展しただけだ。
「……ごめん」
「分かってんのかよ」
「……だから、ごめんって言ってんの」
オレの口調も、彼女の口調も喧嘩してる。
頭は冷えたと思った。
彼女の事いろいろ考えた。
そして、結果は迎えに来た。
結果はあくまでも結果で、喧嘩の根本的な解決にはなってない。
彼女は嫌だと思ったら絶対いやで。
オレは嫌だと思いながらも嫌で。
似てるようで違う。
元々住んでいたところも、環境も違くて、昔一緒に居たのなんてほんの1年ぐらいの時間だ。
何もかも、性格も考え方も違うのは当然だ。
「………怒ってる…よね?」
確かめるように、どこかこわごわと確認してくる彼女の様子に思わずため息付きそうになった。
結局喧嘩の原因は二人揃って覚えてないのに、怒ってるも何もねぇじゃん。
「ったく、帰るぞ」
「………怒ってるんでしょ?」
「怒ってねぇって。ほら、手ぇだせよ」
さしだした手に、さしだされた手をつかんで、家路につく。
「…ねぇ、怒ってないの?」
「怒ってねぇよ」
「謝ったんだけど」
「わりぃ」
「それだけぇ?」
「…部屋の掃除はオレがやるって」
「ん〜〜まぁ、いっか」