側にいて欲しい。
　居なくならないで欲しい。
　つぶやいた言葉に返された言葉は、ひどく予想外の事で。
　ひどくうれしかった。

****

「何、泣いてんだよ」

　そう言って、指で涙を掬う。
　その様子を見ていて、気づいた。

　自分が泣いていることを。

　最後に泣いたのはいつだろう。
　覚えてなかった。

　涙目で彼を見ると、どこか微笑んでいた。

「何よ、何、笑ってるのよ」

　喧嘩越しに言った言葉に彼はその微笑みを深く穏やかに見せる。

「泣いてる顔見るの、久しぶりだと思ってさ」
「……そうだね」
「お前、昔はよく泣いてたよな」
「昔って、そんな事思い出さないでよ」

　反論しても、彼は笑みを崩さない。

「お前さぁ、泣いてるって思ったらすぐ笑って、すっげー変わり身はえぇなって思ってたんだぜ？オレ」
「変わり身って、…そう言う言い方しなくたって良いじゃない」
「でもさぁ、そう言うお前見てるの、最初はちょっとうざかったけど」
「ひどーい」
「最後まで聞けよ。結構、おもしろくって、好きだったんだぜ？泣いたり、笑ったり、怒ったりするお前見てんの」

　そう言いながら、いつまでもいつまでもあふれ出る涙を拭いてくれる。

「もう、泣きたくないのに」

　止まらない。
　拭いた後からあふれ出る涙を手でぬぐいながら、愚痴るようにつぶやく。

「良いじゃん、今までずっと押さえてたじゃねぇか。だからさ、すっきりするまで、泣いとけよ」

　そう言って彼はわたしを抱きしめる。

「ありがとう」

　泣きながら、わたしは、そう告げる。

「泣けるようになったのは、君のおかげだね」
「お前が安心して泣けるように、オレが守ってやるから」
「……ありがとう。…でもさ、普通は、泣かないようにって言うのがホントじゃないの？」
「それ、今まで泣きたくても泣けなかった奴の言うセリフかよ」
「確かに」

　そう答えて涙目のまま笑う。

　泣いたっていいんだ。
　怖いのは感情を忘れること。
　彼と居ることで、忘れていた感情を思い出せた。

「ありがとう」
「気にすんなって」
「何回も言っときたいの」
「…わーってるよ」

　そう言って彼は抱きしめている腕を強める。

「好きって言ってくれて、ありがとね」
「…………で……」
「でって？」
「それだけかよ」
「……わたしも、好きだよ。知ってると思ってたんだけど」
「しらねーよ。今初めて知ったよ」
「わたしもはじめって知った。君が昔から私のこと好きだって事」
「それつっこむなよ」
「いいじゃん」

　涙は、まだ止まらない。
　今まで流していなかった分、それだけ流していると思う。

　君が居るから、おもいだした感情。
　忘れる事のがなくなればいい。