虫が鳴く音しか聞こえない。
近所の声も聞こえてこない。
時間が時間だからだろうか。
聞こえるのはお互いの声だけで。
目に映るのは闇と星の光だけ。
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「…停電だ」
「あぁ」
突然起こった停電。
コロニーでは時々こう言うことが起こる。
電力が安定しないときがあるのだ。
コロニーの電力は一般的コロニー(開放型コロニー)に必ず付いているミラーを使い太陽光から得ている。
だが、時として、太陽からの磁気嵐の影響を制御コンピューターが受けることがあり、そのため停電となるときがあるのだ(電池自体は影響は受けないのだが)。
どうやら、今がその時らしい。
「磁気嵐の影響か…」
「太陽が磁気嵐を起こすときはいつも影響受けるよね」
「一日二日で直るけどな。磁力補助すりゃいいんだけど…」
つぶやいて、ため息を付く。
停電はいつも起きるからなれているけれど、地上の安定した電力から考えると、コロニーは不安定な入れ物だと言うことを改めて気づかされた気がした。
「……どこ行くの?」
ふと立ち上がったオレに彼女から声がかかる。
「のど、乾いたから、水飲んでくるだけだぜ?。そうだお前も飲むか?」
「…飲みたいけど…あたしも行く」
そう言って、一緒に来ようとする。
「…飲みたいんだったら、オレが持ってくるよ」
「…行く…」
待ってるように言っても、聞かない。
「…どうしたんだよ。いつものお前らしくないじゃん」
「………」
俺の言葉に彼女は黙り込む。
「黙ってちゃ、わかんねぇけど?どうしたんだよ」
「……で…」
消え入りそうな声で彼女はつぶやいた。
はっきりとは聞こえなかったけれど、間違いなく彼女は言った。
『おいていかないで』
と…。
「…いきなり、何言ってんだよ」
「……ごめん。なんか、急に怖くなってきた。君はあたしの側にいてくれる。それってどうして?」
「前にも言ったじゃねぇか?オレは、お前が心配だからって」
「じゃあ、心配じゃなくなったら?安心できるようになったら?どうするわけ?」
彼女はオレの顔を見る。
暗がりでも何とか分かる彼女の表情はどこか、怒っているようにも見える。
「お前、覚えてるようで、忘れてんだな?オレが言った言葉。オレは、『お前を一人で苦しませたくない』って言ったはずだぜ?忘れたのかよ」
「……覚えてる……」
「だったら、その意味も分かるな?」
「……はっきり言ってよ」
弱い口調で彼女はオレに問いかける。
それが、後押しになった。
「オレは、ずっと思ってた。お前に再会してから…ずっと、思ってた。お前の側にいたいって」
今まで言えなかったこと、今まで、隠していた訳じゃないけれど、思っていたこと。
「…それ、ホント?」
「嘘言ってどーすんだよ。じゃなきゃ、自分の家に、連れてくるわけねぇじゃん。お前の側にいたいから、お前を守りたいと思ったから、オレはお前を家に連れてきた」
言えなかったこと。
戦争中も、終わってからも言えなかった。
側にいたい。
側にいて欲しい。
それだけが真実なのに。
彼女の具合が心配だからとか放っておけないからと言う言葉で修飾されてそれだけが誇張されていた。
ただ、好きだって言うことだけ、どこか置き去りにして。
「オレの…側にいてくれ…。守りたいって言うのも、心配だって言うのもホントだけど。それ以上に、お前のことが好きだから…」
すぐ側にいるのに抱きしめることがどこか出来ない。
ふと、鈍い電気の音がして、部屋に明かりがつく。
「停電、収まったんだな」
部屋の電灯を見上げ、そして彼女に目線を映す。
「お前…何、泣いてんだよ」
彼女の目から一筋の涙がこぼれていた。