手を伸ばせば届く距離。
それがひどくもどかしい。
意識をしたら、お終いだと頭のどこかで考えていたはずなのに。
手が伸ばせなくなった。
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「あのさぁ」
「…何?」
「…いや、別に…」
呼んで振り向いてくれても何を言えばいいのか分からない。
「言いたいことがあるなら、言いなさいよっ」
「…何でも…ないっていうか…説明しずれぇんだよ」
弁解しながら、彼女の様子をうかがう。
触れてもいい?
一緒に暮らしてはいても一定のラインは引いている。
暮らしている理由は、昔からの知り合いで、彼女を放っておけなくて、他に行くところもないんだったら…誘ってみた。
なんて理由が後から後から付けられていく。
ホントは、ホントの所は、言えないでいるのに。
ホントの所に、気づいてしまったのに。
「どうしたの?」
不意に彼女が顔を近づける。
その近さは、眉毛の一本一本がはっきりと認識出来る近い位置。
「熱…あるの?」
心配そうに見つめる彼女は俺をどう思っているのだろうか。
昔からの知り合い。
あの戦いの最中に再会した。
昔からの知り合いと言う理由から、いつも一緒にいた、相手。
聞きたいのに聞けない彼女の心の奥。
「大丈夫?」
おでこに触れようとする彼女の手をつかむ。
「な、何?」
「大丈夫だよ。オレは、平気。お前は、お前の方は平気なのかよ」
怖がらせないように笑みを浮かべて聞く。
「平気だけど…」
息がかかるぐらいの距離は、あまりにもぎりぎりのラインで動いているオレ達に似ている。
「あ、あのさぁ」
とまどった表情を見せた彼女を見て、オレは一つ息を吐く。
「…何?」
自分の気持ちに気づかない振りはやめよう。
そろそろ、素直になってもいいと思う。
それでも、彼女の気持ちが落ち着くまでをカウントダウンしながら。