悪夢は変わらない。
苦しく、そしてつらい。
それが夢だとはとても思えないまま、その夢を見続ける。
現実と思いながら。
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「…大丈夫か?」
瞼がゆっくりと開き、焦点を定まらせながら、手を出してオレの顔に触れる。
「…どうしたんだよ」
「これは、…夢?」
寝起きの掠れた声は、そうオレに告げる。
「夢だとしたらどうする?」
寝ぼけている彼女の本音が聞きたくて、そんなことを聞いてみる。
「…うれしいかな?ここにいるから。夢なら、さめないで居て欲しい」
「そうやってずっと眠り続ける?コレが現実だって分かっても」
頬にふれられている手を捕まえてオレは挑戦的に彼女を見つめた。
「…………何、手つかんでんの?」
「逃げるだろ?捕まえとかなきゃ」
「…何言ってんのよ」
はっきりと目覚めた彼女はオレのつかんでいる手を離そうとする。
「どんな夢見てた?」
「うるさいーっ。関係ないーっ」
「関係なくないじゃん。俺たち一緒にいるのに」
「知らないー。それよりも先に手を離してよ」
「やだ」
そう言ってオレは彼女を抱きかかえる。
「…ちょっとっ」
「どんな夢見てた?」
「かんけい」
「なくない。うなされてたんだぜ、お前」
オレの言葉に黙り込む。
目覚める前の彼女は、何かにうなされていた。
「…何の夢?」
彼女が安心するように背中をゆっくりとさすりながら、オレは問いかける。
「戦争の時の夢?A.U?M.Uが出てきた?それとも出てきてない?」
「……戦争の時の夢かどうかは分からないけど。…居なくて、つらくて、怖くて、バラバラになりそうで。押しつぶされそうで。苦しくって……」
小声で言う声は掠れる。
いつ泣き出してもおかしくない、感情の慟哭。
それが、夢に出た。
「…悪夢は終わった」
「終わってない」
「終わった」
「なんで、そんなにはっきり言えるの?」
「…終わらせたから。オレが、お前の側にいて、お前を起こして。実際悪夢は終わったじゃねぇか?」
涙を出せないまま彼女はなく。
「怖いよ。苦しいよ。私は次はどうしたらいいの?あんな事があったらどうしていいか分からない」
混乱する彼女はそうつぶやく。
押し殺すように。
「夢はいつか終わる」
「……」
「あんな悪夢な事は長くは続かない」
「……」
「夢だったら、幸せな方がいいだろ?」
「…でも夢はいつか終わるって言ったじゃない」
「言ったな。でも、さめない夢もあること知っているか?」
オレの言葉に彼女は首を傾げる。
「夢を見続けたら、夢は覚めない。誰かが言った言葉だよ。悪夢は終わらせたいと思うだろ?でも良い夢は終わらせたくない」
「夢だよ?」
「良いじゃん、夢だって。見続けたら、いつか必ず現実になる」
「なる?」
すがりつくように見つめる彼女にオレはしっかりとうなずく。
「なったらいいな」
無邪気な笑顔でそう言う。
彼女の夢…願いはなんだろうか。
オレがその願いに含まれていたらいい。
そう、願わずにはいられない。