泣くなって言われたって涙腺弱い場合だってあるし。
また泣くって言われたって、好きで泣いてる訳じゃないし。
ただ、泣けばすっきりするし。ただ、理由はない。
泣けないことだってある。
泣くことを忘れたことだってある。
だから、泣いてるときは泣きたいからだと思ってくれるのが一番良い。
****
目に浮かぶ涙を、指で掬う。
地球で、宇宙で、月で、君は涙を流す。
泣かなくなったのはいつだろう。
いつの間にか泣かなくなった彼女の涙を、俺は久しぶりに見た。
「何?」
「泣いてる顔見たの、久しぶりだなって思って」
「…そうだっけ?」
「もしかして、操縦席では泣いてた?」
おどけて言った言葉に彼女は首を振る。
「泣いた記憶ないかな。だって、泣いたら、前見えなくなるじゃない」
ひどく現実的なことを彼女は言う。
「…泣きたくなかったのかもしれない。泣いたら、止まらなくなるから」
そう言って、次々とこぼれる涙を彼女はぬぐおうとしない。
「ホントは…泣いたって、良かったんだ。感情がいっぱい表に出てたお前を見るのは楽しかったから」
「…なによ、それ」
ようやく、涙をぬぐい、彼女は俺をにらみつける。
それでも、涙は次々とあふれてくる。
「…だから、すっきりするまで泣いちゃいな。泣くとすっきりするだろ?泣いたら、どっか出かけようぜ」
「………ありがと…」
あげていた顔を俺の胸に預け、小さくつぶやく。
「もう、お前が泣けなくなるようなことは起きないから。安心してろよ」
俺に寄りかかる彼女の体に腕を回す。
「…ありがと…わたしが泣けるようになったのは君のおかげだね、きっと」
「気にするなって。俺はお前が苦しむのは見たくないから」
だから、ここに連れてきた。
「うん、だから、ありがと」
そう言う彼女の声はゆっくりと小さくなる。
久しぶりに泣いた反動だろうか。
彼女は静かに眠りに入る。
彼女の涙はありとあらゆる感情を映し出す。
うれしいとき、楽しい時、悲しいとき、悔しいとき。
全ての感情をそのしずくに映す。
彼女が泣けなくなるなんて事がないように、俺は、彼女を守りたかった。