「早く来いよ」
差し出した手に、彼女は恥ずかしがりながら、少しだけふれた。
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コロニーに上がってから、彼女とオレは、一緒に生活をしていた。
何をするにも、ほとんど一緒だった。
理由は簡単で、彼女が、今のところ一人では何も出来ないからだ。
もちろん、元から出来なかったわけではない。
今は、出来ないと言うよりも、危なくて見ていられないと言う方が本当の所だった。
崩れそうな彼女。
あの時の最中もそうだった。
笑っていた。
ただ、笑顔を浮かべて、平気だよと言う。
それが、ひどく、痛々しかった。
あの時から、時間を経て、今いる彼女は、笑顔以外も見せるけれども、逆に壊れそうになった。
存在そのものが、消えそうな様子を見せて、何をするにも、いきなり、ガクンと落ちそうで、怖かった。
「…大丈夫か?」
共に買い物に行った帰り、消えそうな彼女をオレは声を掛ける。
「何が?」
「何がって……」
問い返された言葉にオレは言葉に詰まる。
「今の生活とか、不自由してねぇか?」
ホントはそんなことを聞きたいんじゃないのに、あたりさわりのない事を言葉に浮かべる自分に思わず心の中で苦笑する。
「…別に、大丈夫だよ。…ありがとう、心配、してくれてるんだね」
「…大丈夫なら、いいんだ。あんまり、無理すんなよ。言わなきゃ、わかんない事あんだから、ちゃんと言えよ」
言いたいことも含めて、彼女の言葉に応える。
「……ありがとう……」
何をオレが言いたいのか、彼女は分かったのだろうか、ゆっくりとうなずく。
「……?どうしたんだよ」
不意に立ち止まり俯いた彼女にオレは聞く。
「……ごめんね、あたし…迷惑掛けてるよね」
つぶやいた言葉は……いつか言うだろうなと思っていた言葉だった。
彼女と暮らし初めて、どのくらい立ったのだろうか。
戦後、すぐに彼女と暮らし始めたのだから…、一ヶ月ぐらいはたっているのだろう。
「気にすんじゃねぇよ。言ったろ?オレはお前を一人で苦しませたくないって」
「聞いてないけど……」
…言わなかったっけ???
「……ともかく、オレは、お前が一人で苦しんでるのを放っておけねぇんだよ、一人で苦しませたくないんだ…。…迷惑だなんて思ってない。…忘れたのかよ、ここに連れてきたのは、オレだぜ?」
「…………」
オレの顔を彼女は驚いたように見る。
「知らなかったのかよ」
「隊長が手配したんじゃないの?」
「隊長が手配してくれたのは、コロニー行きの切符だけ。あの家は、オレの持ち物」
「知らなかった……」
呆然とする彼女にオレは今まで気づかないでいたのかと思わず笑ってしまう。
「何よぉ」
「早く、帰ろうぜ」
「…う…うん」
オレの後を、ゆっくりと彼女は歩く。
「ったく、何してんだよ。ほら、早く来いよ」
何も考えず差し出した手に彼女は照れながら手に触れる。
ほんの、指先だけ、開いた手に絡ませて。
細い指。
コレで、AU(アーマーユニット)を動かしていたのかと驚く。
体温が低いのか、指は少しだけひんやりしている。
この体温が消えないように、なくならないように。
離さず守りたかった。