平凡な一日と引き替え 切ない10のお題・10:秘密

 ミラーがゆっくりと角度を変え始めようとするそんな時間。
 地球では、太陽の光がゆっくりとのぞこうと言う時間だろうか。
 まだ夜が明けないそんな時間。

「…眠くないのか?」
「それはあたしの台詞」

 いつもはまだ静かに眠っている時間のはずなのに、二人揃って目を覚ましている。
 地域コロニーの片隅で、誰も知らない家の中で、二人でこっそりと会話している。

「オレは目が覚めちまったからな。お前は?」
「あたしも、目が覚めた……かな?」
「まだ眠いんじゃねぇの?」
「わかんない」

 くぐもった声で彼女は答える。
 まだ眠っているあたりを遮らないような小さな声で。

「まだ眠ってろって」
「寝ないの?」
「…目が覚めたって言ったろ?だから、オレは良いの」
「なんかずるい」
「ずるいって……」

 他愛もない会話がつづいていく。

「寝ないんだったら、あたしも寝ないどこう」
「どういう理屈だよ」
「つまんなくない?一人で起きてるのって」
「……、まぁ……そうだけど…」
「だから、あたしも起きといてあげる」

 そう言って猫がよくやるように頭をする寄せてる。

「ったく…どうせすぐ眠くなんじゃねぇの?」
「…かもね」

 …小さく彼女はそう答える。
 まるで誰かに聞かれないように。

 自分と彼女が地域コロニーの片隅にいることは…トリックのメンバーぐらいしか知らない。

 他の連中や昔からの知り合いは知らない。
 でも、別に知らせようなんておもっちゃ居なかった。

 お互いだけが必要で、お互い以外必要じゃない今、他の物は煩わしくってしかたがない。

 …他人は秘密にされたと思っても、オレ達は秘密だなんて思ってない。

 教える必要のないこと。
 ただそれだけの事だし。
 わざわざ、知らせる必要もない。

 いつか壊されるから。

 そんなことを、思うんだったら、教える事はない。

 …それを秘密というのかもしれないけれど。

 それを引き替えに大切な物を失うくらいなら、秘密の一つや二つは他人には必要なのかもしれない。

 いつの間にか眠った彼女の寝息を聞きながら眠りに落ちていく。

 夜が明けたら、また新しい一日が始まる。
 そんなことだけを思っていたい。

*あとがき*
切ない10のお題:10・秘密。
何も知らない友人達に秘密にする事を引き替えに、平凡な一日を得る。

改めてこのコロニーのバックグラウンドを説明しますと、戦後です。
レン軍・トリックともう一軍、何となくZガンダムちっくな戦争を繰り広げた後の話。
彼女と彼はトリックのパイロット。
ハウロス研究所が秘密裏にトリックのために制作していた、ミリオン・アルトとサウザン・テナーを駆って最終的には戦場を駆け抜けていきます。
そして、戦いはトリックの勝利で幕を閉じます??(ここらは微妙)
そのAU(モビルスーツみたいな奴)からおりた瞬間、彼女は気を失ってしまいます。
気を失った彼女を見て彼は決心します。
自分が生まれ育ち、トリックが誕生したコロニーに彼女を連れて行くことを。

…という話。
です。
コレを頭にたたき込んだ所で、もう一度10の秘密を読んでいただければ、何となく意味合いが分かるかなぁと思います。


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