ミラーがゆっくりと角度を変え始めようとするそんな時間。
地球では、太陽の光がゆっくりとのぞこうと言う時間だろうか。
まだ夜が明けないそんな時間。
「…眠くないのか?」
「それはあたしの台詞」
いつもはまだ静かに眠っている時間のはずなのに、二人揃って目を覚ましている。
地域コロニーの片隅で、誰も知らない家の中で、二人でこっそりと会話している。
「オレは目が覚めちまったからな。お前は?」
「あたしも、目が覚めた……かな?」
「まだ眠いんじゃねぇの?」
「わかんない」
くぐもった声で彼女は答える。
まだ眠っているあたりを遮らないような小さな声で。
「まだ眠ってろって」
「寝ないの?」
「…目が覚めたって言ったろ?だから、オレは良いの」
「なんかずるい」
「ずるいって……」
他愛もない会話がつづいていく。
「寝ないんだったら、あたしも寝ないどこう」
「どういう理屈だよ」
「つまんなくない?一人で起きてるのって」
「……、まぁ……そうだけど…」
「だから、あたしも起きといてあげる」
そう言って猫がよくやるように頭をする寄せてる。
「ったく…どうせすぐ眠くなんじゃねぇの?」
「…かもね」
…小さく彼女はそう答える。
まるで誰かに聞かれないように。
自分と彼女が地域コロニーの片隅にいることは…トリックのメンバーぐらいしか知らない。
他の連中や昔からの知り合いは知らない。
でも、別に知らせようなんておもっちゃ居なかった。
お互いだけが必要で、お互い以外必要じゃない今、他の物は煩わしくってしかたがない。
…他人は秘密にされたと思っても、オレ達は秘密だなんて思ってない。
教える必要のないこと。
ただそれだけの事だし。
わざわざ、知らせる必要もない。
いつか壊されるから。
そんなことを、思うんだったら、教える事はない。
…それを秘密というのかもしれないけれど。
それを引き替えに大切な物を失うくらいなら、秘密の一つや二つは他人には必要なのかもしれない。
いつの間にか眠った彼女の寝息を聞きながら眠りに落ちていく。
夜が明けたら、また新しい一日が始まる。
そんなことだけを思っていたい。