「目が覚めたのか?」
「……」
静かに彼女はうなずく。
コロニーから見える月をまぶしそうに見る。
「ここは…?」
「…オレの家。オレたちが住む部屋」
「そう…」
目が覚めたばかりで、どこか呆けている。
「大丈夫か?」
「一つ聞いて良い?」
「何が?」
「どうして、あたしと、あなたが一緒に住むの?」
…目、さめたのか。
彼女の物言いがいつもと同じなことに気が付く。
「お前、一人じゃ放っておけないから。それじゃ、理由にはならねぇか?」
「………大丈夫…だよ」
「バーカ、大丈夫じゃねぇよ。大丈夫だったら、今起きてみろよ」
オレの言葉に彼女は体を動かす。
「動けない……ね」
「当たり前だ。…お前、ぼろぼろなんだよ。ドクターに診て貰ったら、1ケ月は絶対安静だと」
「えー…」
「えー、じゃねーよ。お前、この1週間、眠りっぱなしだったんだぞ」
「…それ…ホント?」
彼女の言葉にオレはうなずく。
彼女が眠り続けた1週間、オレはずっと彼女の側を離れなかった。
食事は、近所のおばさんが用意してくれたから、何とかなった。
そうまでして彼女の側にいたのは、いつ、目覚めるか、分からなかったからだ。
彼女の眠りは疲れ以外に、精神的な物がある。
ドクターの言葉に、オレや、仲間は驚愕した。
終わった瞬間、気を失った彼女。
1日たっても目覚めなかった、彼女をドクターはそう診断した。
もう、二度と目覚めないかもしれない。
そんなことは予想もしていなかった。
守っているつもりで、オレは全然彼女を守れていなかった事に、今更ながらに気づかされた。
「…ごめん…。心配掛けたみたいで」
「あぁ、マジで心配したんだぞ。終わったって分かった瞬間、覚えてるか?」
「…うん、何となく」
「あの瞬間、お前、膝から崩れたんだよ」
「………ごめん…」
あきれた様に見せながら言った言葉に彼女はうつむき、愁傷に謝る。
「……無理…するなよ」
……そう言いながら、オレは彼女を静かに抱き寄せる。
「もう、見たくないんだ。お前のあんな姿」
「……ごめん……」
腕の中で、うなずくのが分かる。
それを感じながら、腕の力を強める。
離さないように。
オレは、怖かったのかもしれない。
彼女がいなくなるのが、彼女が、消えてしまうことが。
コロニーから見える月は、地球から見える月と違って、大きい。
コロニーは、月と地球のラグランジュポイントと言って、その重力が均衡する所にあるからだ。
地球より月に近い、コロニー。
月に近づいたコロニーのように、オレは彼女に近づけたのだろうか。
腕の中で、オレに話しかけている彼女の言葉に受け答えをしながら、そんなことを考えていた。