月と地球の距離 切ない10のお題1・月

「目が覚めたのか?」
「……」

 静かに彼女はうなずく。
 コロニーから見える月をまぶしそうに見る。

「ここは…?」
「…オレの家。オレたちが住む部屋」
「そう…」

 目が覚めたばかりで、どこか呆けている。

「大丈夫か?」
「一つ聞いて良い?」
「何が?」
「どうして、あたしと、あなたが一緒に住むの?」

 …目、さめたのか。
 彼女の物言いがいつもと同じなことに気が付く。

「お前、一人じゃ放っておけないから。それじゃ、理由にはならねぇか?」
「………大丈夫…だよ」
「バーカ、大丈夫じゃねぇよ。大丈夫だったら、今起きてみろよ」

 オレの言葉に彼女は体を動かす。

「動けない……ね」
「当たり前だ。…お前、ぼろぼろなんだよ。ドクターに診て貰ったら、1ケ月は絶対安静だと」
「えー…」
「えー、じゃねーよ。お前、この1週間、眠りっぱなしだったんだぞ」
「…それ…ホント?」

 彼女の言葉にオレはうなずく。

 彼女が眠り続けた1週間、オレはずっと彼女の側を離れなかった。
 食事は、近所のおばさんが用意してくれたから、何とかなった。
 そうまでして彼女の側にいたのは、いつ、目覚めるか、分からなかったからだ。
 
 彼女の眠りは疲れ以外に、精神的な物がある。
 ドクターの言葉に、オレや、仲間は驚愕した。
 終わった瞬間、気を失った彼女。
 1日たっても目覚めなかった、彼女をドクターはそう診断した。

 もう、二度と目覚めないかもしれない。
 
 そんなことは予想もしていなかった。
 守っているつもりで、オレは全然彼女を守れていなかった事に、今更ながらに気づかされた。
 
「…ごめん…。心配掛けたみたいで」
「あぁ、マジで心配したんだぞ。終わったって分かった瞬間、覚えてるか?」
「…うん、何となく」
「あの瞬間、お前、膝から崩れたんだよ」
「………ごめん…」

 あきれた様に見せながら言った言葉に彼女はうつむき、愁傷に謝る。

「……無理…するなよ」

 ……そう言いながら、オレは彼女を静かに抱き寄せる。

「もう、見たくないんだ。お前のあんな姿」
「……ごめん……」

 腕の中で、うなずくのが分かる。
 それを感じながら、腕の力を強める。

 離さないように。

 オレは、怖かったのかもしれない。
 彼女がいなくなるのが、彼女が、消えてしまうことが。

 コロニーから見える月は、地球から見える月と違って、大きい。
 コロニーは、月と地球のラグランジュポイントと言って、その重力が均衡する所にあるからだ。

 地球より月に近い、コロニー。
 月に近づいたコロニーのように、オレは彼女に近づけたのだろうか。

 腕の中で、オレに話しかけている彼女の言葉に受け答えをしながら、そんなことを考えていた。

*あとがき*
コロニーカップル戦後話。
彼女と彼が戦後くっつくまでの話し+αをお題で挑戦。


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