まだ、月がなくても『綺麗ですね』なんて、恥ずかしくて言えないけど…。
それでも一緒にいたいというのは、と言うか離れたくないのは本当なのです。
ドイツのギルやルートさんの家に着いたのは、夕暮れも近い時間だった。
パリからは鉄道を使うって言う手もあるにはあるけれど、10時間近くかかるって聞かされたら………ヤッパリ飛行機一択だよね。
飛行機なら2時間かからないでつくわけだし。
所要時間入れても4時間かからないしね。
のんびり電車も良いけどさ。
ちょっとあこがれないわけでもないけどさ。
距離と、何よりも時間的な問題で今回は却下となった。
まぁ、元々そんな選択してなかったけど。
で、いろいろ手続きとかしてたら、こんな時間。
どこかにちょっと遊びに行くには、ちょっと考えちゃう時間。
まぁ、何処かに行くって言うのもあまり考えてなくて。
ドイツに行くって言ったのも、まぁ……そのなんだ。
ギルに逢いたいなって………って感じで。
その……ドコに行きたいとか、正直考えてなかった……って言うのが本音です。
すいません。
だから、今、正直困ってる。
荷物を置きに一ヶ月ここに滞在させてもらった部屋に来てからギルが待っているであろうリビングに向かうのが。
無駄に緊張している。
菊ちゃん達、早く帰ってこないかなぁ………と思いつつ、でもまだ帰ってきて欲しくないような?
そんな感じ?
ともかく、意を決して向かう。
あまり遅いと逆に心配しそうだし。
結構…どころじゃないか、心配性なんだよね。
あぁ、見えて。
ルートさんの話だと『気に入った奴に限る』が入るらしいけど。
階段を下りて、いるはずのリビングルームに入ると、いつもの指定席にギルはいた。
いつもの、と言ってもあたしがドイツにいる間、ギルは大体そこに座っていたと言うだけなんだけど。
窓際の、電話がすぐにとれる位置。
……何か、一瞬、寂しい人想像しちゃった。
一応、す、す、好きな人なんだぞ!!!
「何やってんだ?」
入り口で百面相していたあたしにギルが呼ぶ。
「べ、別に何でもないよ」
「そーか、そーか、世界一カッコいい俺様に見ほれてたわけか、そーかそーか」
あーもー、この人ってどうして、こーあれな感じなんだろう?
好きだって事全否定したくなる瞬間はこんなときだ。
まぁ………。
「世界一かどーかは分かんないけど」
「あぁ、俺様は世界一、いや宇宙一っ」
「か、どーかはないとおもうけど、カッコいいとは、思ってはいるよ」
ギルの言葉を遮って、言いたいことすぱっと言って、ギルの隣に座る。
そっと隣見ると、あたしが言った言葉に何処か照れてる。
この人、時々スゴく照れるんだよねぇ。
肯定されてることになれてないのかなぁ?
……あぁ……周りは全否定してるかも。
あと強気で押す。
そうすれば結構何とかなる。
押せるか不安だけど。
「何笑ってんだよ」
「別に、気にしないで」
「まぁ、いいけどな」
静かな部屋に二人きり。
なんか、緊張してきたかも?
「………あー…っ」
「な、何?」
うわぁーなんか緊張してどもった。
ギルを見れば気にしてないのか、何処か平然とあたしを見ている。
「えっと、何?」
「ほら、この前、今度ドイツ来たら、好きなところ案内してやるって言ったろ?」
「………」
そーだっけ?
「あんだよ、ぼうっとした顔して。約束しただろう?行きたい所連れてってやるって」
ベルギーからの帰りにそんな約束みたいなことした。
「あんな、口約束っていうか帰り際に言っただけどこと良く覚えてるなぁと……思って」
「ま、まぁな」
結構前の話だよ?
一年以上も前の話だよ?
「俺様は記憶力がいいんだよ!」
「覚えててくれてありがとう」
「おーもっと感謝」
「感謝って言うより、感心?」
「かんしん?」
「うん、すごーいっていう。良い子、良い子って言う感じの」
俺様発動の未然阻止を心がけつつ。
ちょっと、ヒドすぎるか?
好きな人に対する態度じゃないと、言われればそーかもしれないなぁとおもいつつ」
「よりによって子供扱いかよ」
声が拗ねてますね。
えっと、別に子供扱いしているわけじゃなくて。
「そーいうーつもりで言ったんじゃないよ」
ギルの方に顔を向けたら何処かホッとした顔をした。
「ギル?」
あんま違う方見てないで、俺様の方を見ろよ」
「は……………?ハハハハハハハハハ」
あっけにとられた後なんか笑ってしまった。
「ごめん、多分。今、あたし、緊張してる」
「見れば分かる、緊張してる時って、お前はすぐにキョロキョロするからな」
そーかな?
「ワルツの時によーく分かった」
ハハハ、そうですね。
はぁ。
「、俺様を見ろ」
いや、もー、そう言われると余計に緊張するものですよ?
チラッと視線を向けると、タイミングが良いのか、悪いのか…。
夕方の太陽の光が部屋に入ってきてて。
サーッとはしる光がギルの髪を照らす。
少しだけ雲の出てきた間からの光のせいか余計に明るく感じるせいなのか光に照らされるギルの髪は銀色に輝いている。
何処か猫毛にも見える柔らかそうな髪に思わず手を伸ばす。
銀色だから冷たいのかななんてそんなバカなこと考えながらそれ以外、何も考えないで触れた髪は……まぁ、冷たくはないし、そこまで柔らかくないけど。
なんか、サラサラで良い感じ。
「お……ま………」
ギルがみるみると顔を赤くしていく。
それを見て思わず我に返る。
あたしってば何やってんだー!!!!!
顔があつーい。
「な、なんかあついねぇ」
もう恥ずかしい!!!
「そ、そうだな」
言葉が続かないー。
っていうか色気とかそう言うの何もないこの雰囲気なに?
って言うか主にあたしが壊してる感、満載……。
「は……無意識に…。そーいう事やってんだよな……」
ギルがぼそっと言う。
無意識って?
何がだろう。
「アルトゥロや、フェリちゃん、ロヴィーノお兄さまや、その他諸々に」
「何を」
ギルが言ってることが見えないんですけど。
で、あたしは何をやっていると言うのだろうか。
「まぁ、いいや……。フェリちゃんやロヴィーノお兄様には悪いけどな」
アーサーはいいのかと、こっそり思った事は置いといて。
「やるなって事?」
何をだか分からないけど。
「自覚、ないんだろ?」
「うん……まぁ……。正直、何を言われてるのか良く分かんない」
「じゃあ、は気にしなくてもいい」
そう言いながら、ギルはあたしを軽く抱き寄せて顔に唇を寄せて頬にキスをそして、そのまま額にもキスをする。
「ギル?」
何となく意味がはかれなくて。
……近づいてきたからてっきり……。
まぁ、コレも『キスされてる』にはかわりないけれど。
頭上とそれから右耳と右のまぶたにも。
「ギル…くすぐったいよ」
そんな言葉を無視するような感じでギルは左のまぶたと左耳にキスをする。
何となく……じらされてる気がしてやだなぁって言うのもあるけれど。
それでも、軽くでも降ってくる口づけが甘いから。
丁寧にそこだけ外されてはいても、酔いそうになる。
「ギル……」
自分の声の甘さに驚いた瞬間。
『ガチャ』
やけに響いた音とそれに続くざわざわとした音が聞こえてきた。
音の方を向きたくないのに、向かざるを得ない。
目を開けてみればギルと目が合う。
『ガチャ』と音がしてからココまで1秒。
意を決して音がした方に顔を向けると。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォ!
と言う効果音付の陰気を纏った我らが祖国様日本こと菊ちゃんがいた。
手には何か得物をお持ちの模様。
その隣には菊ちゃんの殺気と見まごうばかりの陰気に気づいたルートさんが菊ちゃんを取り押さえている。
フェリシアーノとロヴィーノもいて、ビックリと泣きそうなのと。
ローデリヒさんは頭を抱えて。
エリザはフライパンを振り上げていた(ココまで5秒)。
そして、次の瞬間に阿鼻叫喚は始まった。
ルートさんを振り切った菊ちゃんが刀を振り上げてやってくる。
「何しているんですか、ギルベルトくん!!私の可愛い娘に!!!なんと言うことを」
「ギルベルト、殺す!!!」
フライパンはいつもの通りの音を鳴ってギルに命中する。
「ギル!!!って言うか、菊ちゃん落ち着いて。それにあたしは娘じゃなくって」
「、我が日本国民は全て私の子供たちです」
菊ちゃん……。
思わず感動。
何か、菊ちゃんの言葉にときめいたっ。
じゃなくって、それとコレとは別問題なんだ!!!
「そう言う問題じゃなくって」
「グェ」
菊ちゃんに反論しようとした瞬間ルートさんのくぐもった声が聞こえる。
「うわーん、ちゃーん」
どんと言う衝撃&圧迫感!!
「ちゃん、オレ、ちゃんの事大好きだよ、大好きなのに何でギルベルトなの?ダメだよ、うわーん」
「そうだ、何で芋兄なんだ!!、、あいつなんかよりオレの方が!!」
「兄ちゃんずるい、オレが先にちゃんに目をつけたんだよ〜!!」
「うるせー、兄貴が先だ!!」
「オレだよー」
「オレだー」
って、どーでもいー!!!
イタリア兄弟は菊ちゃんを押しのけ、あたしに突撃してきたのだ。
「!!」
「ちゃん!!!」
満面の笑みを浮かべてイタリア兄弟が言った次の言葉に戦慄が走る。
「今から攫ってあげるね?」
満面の笑みを浮かべて言う台詞じゃない!!
怖いってばぁ。
「いや、ちょっと待って、それおかしい!!」
「えぇ、冗談じゃありません!!!フェリシアーノ君、ロヴィーノ君、そこに直りなさい!!!!」
突撃の衝撃から立ち直った菊ちゃんはイタリア兄弟に抜き身の刀を向ける。
抜き身?
ギャー、菊ちゃん、銃刀法!!!
我らが菊ちゃんはとうとうブチ切れたらしく抜刀していた。
得物は菊一文字。
今にも斬りかからんばかりの菊ちゃん。
「菊ちゃん、落ち着いて」
「落ち着いて?私はいつでも落ち着いていますよ」
「き、菊何で刀抜いてるの?」
「こ、こえーんだよ、落ち着けよ」
「を連れ去れるという不逞の輩を成敗しようとしているだけですよ。大人しく刀のさびになりますか?出来れば私にコレを使わせないで頂きたいですよ。非常に不快です。秘奥義だしますよ?」
「秘奥義?」
「えぇ、遺憾の意です!!!」
秘奥義でも何でもないと思うが……。
「フェリシアーノ!!ロヴィーノ!!お前達、何をしているんだぁ〜〜〜!!!!」
救世主がごとくルートさんがこちらへとやってきました。
そして、イタリア兄弟をさくっと捕縛。
「、無事か?何かされてないか?フェリシアーノ達に、それから…………兄さんにも……」
ルートさんはエリザの足下で捕縛されて転がっているギルにちらりと視線を向けてもう一度こちらを見る。
「大丈夫だよ」
イタリア兄弟には抱きしめられただけ。
あなたのお兄さん……に関しては、別に良いのです。
そんな事何かのうちになんて全く入らないです。
って言うか………まさかの邪魔が入るとは……いやいや。
心配してるのは良く分かるのよ。
でもね。
とは言えない。
もし、言ったら、ギルが死んじゃう。
冗談ではなく、エリザと菊ちゃんに一撃でさくっとやられそうなので怖いのです。
ギルはぎっちぎちに捕縛されててどうにかしてあげたいんだけど………。
させてくれそうにない(主に菊ちゃんとエリザが)
「」
顔を上げるとギルの監視を菊ちゃんに任せたのかエリザがやってきていた。
「エリザ」
「ヤッパリ、納得いかないわ。何でよりによってあいつな訳?」
まぁ……。
「にはもっと素敵な人がいると思った。もっと素敵な人じゃないとダメって思った」
綺麗な細長い指でエリザはあたしの髪に触れる。
「綺麗な髪に肌、可愛いはにかんだ笑顔。本当の日本人形ってみたいな子を言うのかしら?」
ジッとエリザはあたしを見る。
蜂蜜色の髪に優しそうなマラカイトグリーンの瞳。
『美人が多い国、ハンガリー』の名を欲しいままにしているエリザ。
エリザの方がよっぽど美人だと思うけどなぁ。
「私より、の事よ。私ね、の事が大好きなの」
「ありがとう、エリザ。あたしもエリザの事好きだよ」
「そうじゃないの。そういうことじゃないの」
そう言う事じゃないってどういう事だろう?
「菊さんが許してくれるならハンガリーにを連れて帰りたいの!!」
まさかの展開!!
「でも、それじゃが困るし菊さんも困るだろうから、私より強い人ならって思ったの」
なんと言っていいのか分からない。
「アルトは却下。フランシスは変態。イヴァンは面倒。ルート君は弟。ローデリヒさんは私のもの。カーロイ(ガリ男)は情けない。フェリちゃんたちも同意。じゃあ、誰が良いって私以外にいないっていう結論になったの」
結論までが早いような気がするよ……。
なんか、疲れてきた……。
この先もこんなんなのかなぁ?
ギルのこと好きって言っただけで、皆に猛反対されるなんて思っても見なかった訳じゃないけど。
でもさぁ、でもさぁ、せっかく両思いだって分かったのに、ラブラブだってこれからだったはずなのに。
ここで邪魔されるのってなくない?
「あのね、エリザ。エリザの気持ちもフェリシアーノやロヴィーノの気持ちも嬉しい。でも、あたしが……ギルのこと……好きだって言うことは分かって欲しいのよ」
応援しろなんて言わない。
反対してるんだもん。
でも、分かって欲しいんだよ。
「でも、あんな奴頼りにならないわ!!」
そーでもないよ。
「俺様でうっとうしいよ?」
それも知ってる。
「でも、大丈夫。心配しなくても平気」
うん、平気。
皆分かってくれるよ。
菊ちゃんは何か言いたそう。
あぁ、ルートさんもだ。
ローデリヒさんはどうなんだろう。
「そこまでです」
今までずっと事態を見守っていたローデリヒさんが声を出す。
「ローデリヒさん!!」
「言ってること、やっていることがお下品です。もう少しお上品になさい」
えぇ、そこー?
「それから、ルートヴィヒ、ギルベルトを話してやりなさい」
「しかし」
「構いません、はそれを望んでいるのでしょう?」
ローデリヒさんの問いにあたしは頷く。
いつまでもそのままにしておくのは可哀想って言うか不憫ていうか(一応好きな人です!!)
「私たちがなんと言おうと、選んだのはです。納得は出来ませんが、彼女の望みを我々が邪魔をすることは許されません」
ローデリヒさん!!
「でもいーの?ローデリヒさん」
「はなはだ不満ですが。他の誰でも不満をあなた方は抱くでしょう?アルトゥロなんて不満対象の筆頭です。それよりはよっぽどましです。あんなのでも一応は身内のようなものです」
「テメーの身内になったつもりなんてねぇよ」
解放されたギルが言う。
「ローデリヒさんだってないわよ」
「エルジェ、ギルベルトに突っかかるのはおやめなさい」
「あいつから言ってきたんです」
「だから、身内のようなものと言ったんです。私もこんなのを身内だとは思いたくないです。まったく話が進みません」
ローデリヒさんとエリザの会話を聞きながらうつむいていたルートさんが顔を上げる。
「確かに、こんなのを身内には欲しくない。だがオレの兄だ」
「こんなのってヒドいぜルッツ」
ギルの言葉を無視してルートさんは聞いてくる。
「、こんな兄でも構わないのか?」
「ちょっとうっとうしい俺様モードは躱し方分かったし、それ以外は全然問題ないし、いい人だし、優しいよ?」
だからね、全然問題ないんだよ。
心配なんてしなくても平気なんだよ。
「なら仕方ないのですね。、私はには幸せになって欲しい。私のささやかな願いなのですよ。それを忘れないでください」
「大丈夫だよ、嫁に行くってわけじゃないんだから。菊ちゃんと一緒に日本に帰るんだからさ」
「そうですね。問題は特にないですね」
そうそう。
「俺様聞いてねぇぞ?」
今、言ってます。
夜。
皆が寝静まった夜。
別にそんなつもりはないんだけど。
あたしは、自室を抜けだして目的の場所へと向かう。
少しだけ明かりが部屋から漏れだしていて起きているのが分かる。
控えめにノックして返事がしたから勝手に入ってしまう。
「、何かあったのか?」
深刻な顔をしていたのだろうか?
あたしの顔を見るなりギルが聞いてくる。
「何もないけど」
ないけど、ここに来た目的はあります。
「あのね、ギル……一緒に寝ていい?」
「お……ま……」
「何もしないから」
別にそんなつもりじゃないし。
って言うか、出来る環境にないし。
皆……いるし。
でもね、何もそう言う事じゃなくてね。
ただ、せっかく近くにいるのに
「一緒にいられないのは嫌だなって」
思ったわけです。
皆が急に(急にって言う訳じゃないんだけど)帰ってきて、そこから半分引き離されて(って言う方おかしいけど、間違ってはいない)ほぼエリザやフェリシアーノ達に独占されててこうやって寝るまでって言うか自室に入るまでギルと話せなかったんだ。
「ダメ?」
「………まぁいいぜ」
布団を開けてギルが先に入って半分開けてあたしの場所を作ってくれる。
本のしおりを挟んで棚に置いて、リモコンで電気を消す。
「何の本?」
「ミステリー。今期ドイツ国内1位って奴」
ふーん。
推理物は結構読むから気になるけど、今はいいや。
「後で教えて。日本で出たら読む」
もしかすると翻訳されるかもしれないし。
「ドイツ語覚えろよなぁ」
「冠詞で悩む」
「まぁ、いっか。俺様がいるしな」
「そーそー、覚えなくてもギルがいるから平気。通訳よろしく」
なんか、ギルの言葉に照れる。
ごまかすことも何か恥ずかしい。
「えっと、ギル、オヤスミ」
「あぁ、Gute Nacht 」