一面の氷が張った海を思い出させるフィヨルドブルー。
シベリアの海の様な冷たい瞳(実際、彼女はシベリア海に近くはないけれど)、そして雪のような白金の髪。
どこまでも向かえるスカイブルー。
その青い瞳は遮るものなど何もないかのような空、金色の髪は太陽の日差し。
あまりにも対照的な二人だと、思わずには居られなかった。
中国 北京
例の会議のためにあたしと菊ちゃんは中国へとやってきた。
観光、ちょっとしてみたかったけど(天安門広場とか紫禁城とか)そんな暇ないって分かってるから渋々諦めた。
会議の会場となるホテルに到着して菊ちゃんは忙しそうだ。
っていうかあたしがついてきて良かったのかなって思う。
「でも、一度体験しておけば会議の雰囲気とか分かるでしょう?」
うん、菊ちゃんの言うとおりだ。
日本でだって国際会議が開かれることはないわけじゃないんだから。
「では、まずはヨンスさんの所に行きましょう」
協議が始まる前、菊ちゃんは韓国の任勇洙さんとあわなきゃならないらしい。
韓国か……起源主張するあの韓国か。
『びょんほん化』が楽しみだけど、写真写るときだけだしなぁ。
「やぁ、菊。協力ありがとうなんだぜ」
「なんでいきなり『びょんほん化』してるんですか」
「初めまして。日本のお嬢さん」
えっとどう対応したらいいんだろう。
ちなみにあたしは『かんりゅうスター』に興味ないんだけどな。
って言うか、『びょんほん化』中かよ!!!
「……、紹介します。韓国……任勇洙さんです。ヨンスさんとでも呼んであげてください」
「はぁ……」
あ、アホ毛だ。
さ、さすがに、顔はないね。
顔があったらマジで面白かったんだけど。
「菊ちゃん、あのアホ毛引っ張ってみたい」
「や、止めてください」
「フェリロヴィの引っ張ってないんだよ〜引っ張りたいよ〜〜」
なんとか引っ張る方法を考えてみる。
「ヨンスさん、彼女が私の妹のです」
「妹………。起源は俺なんだぜ!!!!」
何の起源だ!!!!
って言うか、『びょんほん化』は?
「日本の起源は俺なんだぜ、だからの起源も俺なんだぜ!!!」
ヨンスさん、通常運転に変更されました。
『びょんほん化』って長い時間使えないのかもしれないね。
「ヨンスさん、しっかりしてください。今日の会議はあなたの発案で私が耀さんとかアルフレッドさんとか説得したんですから」
「分かってるんだぜっ。会議の起源は俺なんだぜ」
「だから、そう適当なことを言うのは止めてください」
……菊ちゃんもホント苦労してるよね……。
ハハハハハ、なんだかごめんなさい。
そんな気分になってしまいましたよ。
うん。
「あれ、菊君とヨンス君。会議はまだだったよね」
ひゅーっと現れた、高い声の人。
白金の髪にアメジストの瞳。
あるてみ……じゃなくって、この声はロシアさんだ〜〜。
「君がちゃんだよね。僕はイヴァン・ブランスギ。ロシアなんだ、仲良くして欲しいなぁ」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
この人結構背が高い。
見上げるの結構つらいかも。
「あのぉ、何か」
じっと見られてるんですが、何故でしょうか。
「君の所遊びに行ってもいいかな?確か僕のモスクワと姉妹都市だったよね」
「へ?は?」
姉妹都市?(東京とモスクワは姉妹都市)
隣の菊ちゃんを見れば顔を真っ青にしている。
「い、い、いつでもどうぞ」
でも怖くて断れない〜〜。
なんかすっごい威圧感があるよ。
奥底から響いてくる威圧感?
これが例の『コルコルコルコルコルコルコルコル』ってやつ?
それ、勘弁して欲しい。
「兄さんに色目を使うな」
ひーっっ。
なんか、出てきた〜〜〜〜。
「お、俺は盾じゃないんだぜ」
「盾の起源はあんたじゃないの?」
「盾の起源は俺じゃなくって菊か耀なんだぜ」
あまりの怖さにヨンスと菊ちゃんの後ろに隠れてしまった。
いやぁ、何、これ。
「ゴメンね。怖がらせるつもりはないんだけど……」
「な、ナターリヤさんもご一緒だったんですね」
菊ちゃん、声が震えてるよっ。
「そうなんだ……来なくても良いって言ったんだけど」
「何を言うんですか、兄さんが行くところならどこへでもご一緒します」
ナターリヤって誰?
??ロシアであるイヴァンさんと一緒にいるって事はベラルーシか!!!
「ナターリヤ・アルロフスカヤさん。ベラルーシですよ」
菊ちゃんが教えてくれる。
「ちゃん、大丈夫だよ。ナターリヤはそう勝手に人を傷つける人じゃないから」
「兄さん、ありがとうございます。ほめていただくよりも出来れば結婚していただく方が」
「え?」
イヴァンさんは心底ナターリヤさんが苦手の様だ。
今にも泣き出しそうなイヴァンさんと彼に迫っているナターリヤさんをどうして良いか分からず見つめているあたし達。
そんな空気を破るヤツが。
「HAHAHAHAHA、君たち、そんなところで何をやっているんだい?会議はそろそろ始まるんだぞ!!耀が君たちが来ないって大騒ぎだよ!!ちなみに俺は逃げてきたんだぞ!うっとうしいからね」
さすが、AKY。
ちょっと彼のそれに感動してしまった。
「ん?ナタリー、君も来てたのかい?」
「ナタリーって呼ぶな!アリフレート!」
「君だって俺のことアリフレートって呼ぶじゃないか。俺の名前はアルフレッドだよ、ナタリー」
「呼ぶな!!!!」
えっとどういう状況なんだろう。
「アルフレッド君、会議なんだよね」
ナターリヤさんとアルフレッドの会話を遮るようにイヴァンさんが割り込む。
「もちろんさ、イヴァン!!菊もヨンスも。今から会議を始めるんだぞ!!boooo、全く俺が呼び出し係なんてあり得ないよ」
「そ、そうですね。は、そちらの方で待っててくださいね」
菊ちゃん達はそう言って会議の行われる部屋へと向かった。
取り残されたのはあたしと、ナターリヤさん。
ナターリヤさんが菊ちゃんが指し示した部屋へと向かったのであたしも向かう。
カフェになっているそこであたしはわざわざ彼女と離れるのも変なので、彼女が座った席へ相席させてもらうことにした。
勝手に。
「何?」
「え?えっと、です。」
一応、自己紹介。
「知ってる。本田菊の妹で、東京」
ホントの妹じゃないけど、東京でもないけど訂正するのも面倒なんで。
「私はナターリヤ・アルロフスカヤ。ベラルーシ」
何を聞いて良いか分からないし、何をしゃべってもいいか分かりません。
基本人見知りなんだけど、あたし。
助けて〜菊ちゃん。
「えっと、この前のウィーンの会議には」
「行ってる。本当は行きたくなかったんだけど、兄さんが行くから」
ホントにイヴァンさんが好きなんだなぁ。
ヤンデレらしいけど。
美人でヤンデレってかなり勿体ないよね。
うん、すっごい美人。
白金の髪は雪のように輝いてて、少しくすんだ青は冬の海を思い出せるよう。
「一つ、聞いて良い?」
長い沈黙の後、ナターリヤさんが聞いてくる。
「別にいいけど」
「あの男はどうしたら抹殺できる」
不穏、言葉が不穏!!!
「あ、あの男って。誰?」
「決まってる、あの脳天気男だ!!」
脳天気って?
今日来てた中で脳天気といえば……。
アル?
「アルフレッドの事?」
「そう。あいつだ!!あいつは、逢うたびに私のことをナタリーって呼ぶ」
えっとナターリヤの英語呼びがナタリーじゃないのかな?
「あいつがそう呼ぶのは嫌がらせに決まってる。だからお返しにわたしはあいつのことをアリフレートって呼ぶことにした。嫌がらせだ」
嫌がらせ……ですか。
そうなのかな?
「あいつはいつもそうだ。私は兄さんの事だけ考えていたいのに」
…………あれ?
ナターリヤって今までの展開だと、アルのこと嫌ってるはずだよねぇ。
最後のこれってどういう事?
「アルのことガン無視出来ないの?」
「しつこく話しかけてくる」
えっと、しつこく話しかけてきても無視っていうのは出来ると思うけどなぁ。
「目の前にやってくるんだ。顔が近いんだ!!どうしたらいいか分からなくなる」
そう言ってナターリヤは泣いてしまう。
「な、ナターリヤ……泣かなくても……」
「あたしにとっては大問題なの。兄さんと結婚したいのに、あの男が邪魔をするのよ!」
邪魔ですか〜〜。
ナターリヤってアルのこと好きなのかなって思ったけど違うのかな?
アルはどうなんだろう。
ナターリヤの事ナタリーって呼ぶぐらいだからそれなりに気にしてるのかな?
どうなんだろう。
「ん〜エリザがギルベルトをフライパンで撃退するように、なんかで撃退するって言うのは」
あれすっごい痛そうだよね。
痛そうって言うレベルじゃないけど。
「……効かない」
あ、効きそうにないか。
「その前に手を取られる」
やったことあるのか〜〜〜。
「はアルフレッドを知らないからそんなこと言えるんだ!!」
あんまり知りたくないですよ、あたし的には。
「ともかく、何かされた事あるの?アルに」
「…………話しかけてくる」
「それ以外に」
ないと首を横に振る。
「だったらいいんじゃない?何かあったらその時にまた考えるとか」
「何かあったらじゃ遅い。これ以上あいつのこと考えたくない!!」
結局堂々巡りで、あたしはナターリヤがアルのことどう考えてるのかよく分からなかった。
「、ココにいたんですね」
数時間後、会議が終わったのか菊ちゃんとアルがあたし達が居るカフェにやってきた。
「会議、終わったの?」
「一応。今はまだヨンスさんとイヴァンさんが話し合ってます」
「耀が立ち会ってるよ」
そっか。
「というわけで、ナタリー、まだイヴァンは来ないから君は俺に付き合うんだ」
「ナターリヤだ。なんで、お前に付き合わなくちゃならないんだ!!」
「今から俺はコーヒーを飲むからね。君はココに座っててくれなきゃ困るじゃないか。一人で飲んでいるのは寂しいんだぞ!!」
「お前が寂しいだろうが、寂しくないだろうが関係ない」
「ナタリー、たまには笑って欲しいんだけど」
「だから、ナターリヤだ。アリフレート」
「アルフレッドだよ。俺の話聞いてた?」
目の前で繰り広げられる会話にどうして良いか分からずに立ち尽くしていると肩をとんとんとたたかれる。
叩いた主、菊ちゃんを見れば別の所を指していた。
頷いてあたしは菊ちゃんと一緒に別の席に移る。
「改めて、お疲れ様」
「済みません、遅くなって」
「遅くなるのは分かってたよ。簡単には決まらない会議でしょ?だから大丈夫」
「ナターリヤさんとはいかがでしたか?」
二人きりって言うことが分かってたらしく、菊ちゃんはそれについて聞いてくる。
「相談された……あれについて」
二人の方を見ればまだ言い合ってる。
「いつもあんな感じですよ。アルフレッドさんが一生懸命ナターリヤさんに話しかけるんです。気を引きたいのかそうでないのか……分かりませんが」
だとしたら子供みたい、アル。
「二人とも子供の様ですよ。それに納得はしないでしょうけどね…彼は」
遠くの部屋の方が騒がしい。
居残りの会議が終わったようだった。
「そう言えば、はワルツ踊れるのかい?」
帰り際、アルが突然聞いてくる。
は?
突然何を。
「何をって……だって、」
「踊れないよ、踊れるほどお嬢様な家じゃないし、社交ダンスも興味ないし」
「え?じゃあ、ど」
「あぁ、アルフレッドさん、来月の会議の件は後でメールしておきますね」
菊ちゃんがアルの言葉を遮った気がした。
「あぁ、OK。待ってるよ、菊」
なんだ?
「菊ちゃん、あたしがワルツ踊れないの問題?」
「踊れることに越したことはないですよ。でも心配しなくてもいいですよ」
「そ?」
踊れた方が良いのかなって思ったけど、平気みたい。
とんぼ返りの飛行機の中であたしはホッと一息をついた。