いつくしむもの Secret of my heart / song by : 倉木麻衣
唱門師:平安時代では陰陽師協会に組み込まれていた駆け出しの陰陽師(中には能力の高い者がいたりする。中央からはずされた陰陽師もその内に入る)。その後、千年鬼を追いかけるだけの一族となる。

 部屋の窓から外を眺めると星が瞬いていた。
 部屋にはアタシ一人。
 本来いるはずのもう一人の人間は
「今日は楽しいクリスマス〜サンタとトナカイ大忙しね〜♪(song by井上和彦&速水奨(笑)
 って歌いながら出かけてしまった。
 ……平次と過ごす初めてのクリスマス。
 平次は、関西では名の知れた唱門師として活躍している。
 アタシはその唱門師がつけねらう、千年鬼。
 もう…長い年月を生きている。
 初めて逢った時も…こんな季節やったっけ…。
 そう思い出しながら、平次が帰ってくるのを待っていた。
 せやけどホンマ、どこにいったんやろう。
 10分ぐらいで戻る言うてたのに。
「和葉ぁっ、今戻ったでっ」
 そう言ってどかどかと平次は靴を脱ぐのももどかしそうに部屋に入り込んでくる
「平次っあんたどこまで行ってたん?10分ぐらいで戻るって言うてたやんか」
「スマンスマン、ケーキがなかなか見つからんよって探し回ってたんや」
「ケーキって…」
「今日はクリスマスやろ?クリスマスにはケーキとシャンパンと、それからチキン。ターキーやないのがちぃと残念やけどな」
 そう言いながら平次は今出掛けて買ってきたものをテーブルの上に広げる。
「この頃めっちゃ忙しかったやろ。なかなかクリスマスの準備できひんかったからなぁ。参ったわ」
「わざわざアンタが出掛ける事なかったんやんか。アタシに言うてくれたら」
「アホ、お前はおとなしく家にいてかまへんって言うてるやろ?お前はなんもせんでえぇって」
「そんなんいややわ」
「そんな言うたかて、和葉、お前なんか出来るか?料理もまともに作ったことあらへんやろ?」
「そっそんなこと言うたかてしゃあないやんかっ。アタシ今まで何にもしたことなかったんやから。せやから、このままじゃ平次に悪い思うて…なんかしよう思うてんのに。なんでアンタはそう人の気持ちに水さすようなこと言うんよ」
 めっちゃひどいわっ。
 確かに…アタシは何にも出来ない。
 それは平次と一緒に暮らす前は周りの人間が全部やってくれたからだ。
 千年鬼の中でアタシは当主である『千年姫』の従姉妹で姫扱いされているから。
 何にもやらなくても良かったんやもん。
「和葉、オレはお前がなんも出来なくても悪いとは思うてへんで?その分オレがすればえぇんやし」
「ソレって…アタシがなんかやって失敗してその後始末するのがが嫌って言うの含まれてへん?」
「ハハハハハ、そんなわけあるか」
 アタシの方見ないで平次は言う。
 ウソやな。
「まぁ、ともかく。まだ、お前そう言う事苦手やろ?それになあんまそう言う事な…和葉にさせたないねん。お前…お姫さんやしな。おし、準備も出来たし、飯でも食おうか?」

 平次の言葉にアタシは素直にうなずいた。
 楽しく過ぎていく夕食。
 人里離れた屋敷にいる時は明るく楽しい食事をした記憶がない。
 いつも、策略を巡らせている人たちと一緒だった。
 まぁ、姫とその側にいる人と食べる時はそうでもなかったけれど。
 時が止まったような屋敷にいる時はあまり楽しさを感じる事はなかった。
 けれど、今は違う。
 アタシの話に楽しそうに受け答えする平次との食事はすごく楽しい。
 夕食も終わる頃だった。
「和葉、飯食い終わったら出かけるで」
 いきなり平次が言う。
「平次、いきなりなんで?」
「えぇから、お前にな、見せたい物があんねん」
 そう言って食事の終わった平次は洋服ダンスに向かう。
「何しとんの?」
「お前の着替え出さなあかんやろ。お前、そのままでバイク乗るつもりか?」
 アタシの着替え?
 確かに。
 アタシの普段着は小袖に打ちかけ。
 今の時代…、しかもこの季節に出かけるとなると…ちょっと寒い。
 …ってちょっとどころやないわ。
 めっちゃさむいわ。
「これとこれとこれとこれと…あぁ、そうやこれも着んとあかんな」
 ぽんぽんと洋服ダンスから平次は洋服を出していく。
 そして洋服達は山となっていく。
 ちょっと…これは出し過ぎなんじゃないの?
「平次っ」
「何やねん」
「あんた、服出し過ぎと違うの?アタシいくら何でもこんなには着られへんよ」
「アホ、バイクで行くねんで、風邪引いたらどないすんねん」
 そう言いながらも服を出してアタシに投げる。
「平次」
「何や?」
「あんた…、アタシが言うのも何やけど…過保護すぎっ」
「ほっとけっ。ソレよりも、早よ着替えろや。オレは先に外出てバイク暖めとくから」
 平次はそう言いながら防寒着を羽織る。
「あぁ、それからな、戸締まりせぇよ。後な、ストーブ消すの忘れんなや。こたつと電気もやで」
 そう言い残して平次は外に出ていく。
 あ"ーそう言われなくても分ってるのにっ。
 ホンマ平次って過保護やねんから…。
 大切にしてくれるのは嬉しいんやけどね。
 今の…アタシを姉姫が見たらなんて言うかな。
 姉姫は従姉妹の『千年姫』に取って代わって当主になろうと思ってる人で、いつもお供を一人連れている。
 人間を好きになるなんて事絶対に考えない人で、アタシや千年姫の事を快く思っていない(千年姫も今アタシと同じように人間とおるんよ。しかもその人平次と同じ唱門師)。

 着替えの済んだアタシは平次に言われたとおり(って言うか帰ってきてから文句言われないため)に戸締まりと火元の確認をする。
 玄関の鍵を閉めるため外に出ると平次のバイクの排気音が聞こえる。
 ちょうどいい感じにエンジンも暖まってるようだ。
「平次、お待たせ」
 アパートの階段を下りると階下で平次がアタシが降りてくるのを今か今かと待ち受けていた。
「ほな、早よ行こか」
「うん」
 平次からヘルメットを受け取りバイクの後ろに乗る。
「なぁ、平次」
「なんや?」
「どこ行くん?」
「取りあえずは秘密や。ちょっと飛ばすからな」
 平次に掴まり流れていく景色を横目で見やる。
 ものの5分もしないうちに目的地に着く。
 場所は…東都タワー。
「東都タワーに何の用があるん?」
「えぇから着いてこい」
 平次の後を付き東都タワーを上る。
 クリスマスというだけあって夜景を楽しもうとするカップルでいっぱいのこの東都タワーだけれども時間が時間だけに減りつつある。
 でも、アタシはココ初めてで。
「……綺麗やね」
 眼下に広がる東京の夜景をアタシはその一言だけでじっと見つめていた。
「そやろ」
「アタシ…こんなん見るの初めてや」
「オマエ、東都タワーから見たい言うてたやろ?なんかあんまそう言う機会作られへんかったしえぇ機会やと思ってな。ありきたりって言っちゃーありきたりやけどな。他に思いうかばへんかったし。ココやったら別にえぇかと思ったしな」
「ありがと平次」
「気にすんなや。クリスマスやし、えぇやろ。礼言うもんとちゃうで。そや、オマエにプレゼントやらな」
 そう言って平次はポケットから包み紙をだしアタシに渡す。
「これ…持ってて欲しいんや」
 平次の様子を見ながら包み紙を開けると。オレンジ色の石が着いたチェーンネックレス。
「何…これ…。えぇの?」
「お守り代わり…って言うのもなんやけど、えぇやろ?他に…なんか見つからへんかったしな」
 頭をかきながら平次は言う。
 そんな平次の顔がほのかに赤く照れているのがすごく分る。
「平次…ありがと。めっちゃ嬉しいわ」
 …からかわないで、素直に礼を言う。
 なんか、ほんまに嬉しいわ。
 あっ。
 アタシ、何も用意してへん。
 どないしよ…。
「和葉、どないしたんや?」
「…アタシ…平次に何もあげるの持ってへんよ…」
「えぇて、そんなん気にせんでも」
「なんで?」
「なんや…そのな…えーっと…。何かこういうのめっちゃ恥ずかしいねんけど…。オマエがおってくれればソレでえぇから」
「平次…」
 アタシの疑問に平次は窓の外に広がる夜景を見ながら言う。
「ほんまに…ソレでえぇの?」
「何がや。オマエオレとおって嫌なんか?」
「違う…」
 平次の言葉にアタシはいたたまれなくなる。
「平次こそ、アタシが平次の側におってもえぇの?平次、唱門師やろ?アタシ、千年鬼やで。千年鬼と唱門師は一緒におったらあかんのと違うの。平次、仲間の唱門師から何かされんのと違う?アタシそんなん嫌やで」
 …ソレがすごく心配になる。
「オレは…平気や。オレは、オマエがおらん様になる方がよっぽどつらいわ」

 アタシの方を引き寄せ、静かに抱きしめる。
「平次…ありがと…」
 そうアタシは平次に言った。

 初めて逢った時のことは今でも覚えている。
 ふらりと立ち寄った森の中で、季節はずれの新緑に染め上げられた木の根本に眠っていた。

 千年鬼。

 そう分っても立ち去る事なんか出来ずに、ただじっと彼女が目覚めるのを立ちつくすように見つめていた。
 この後どうしよう。
 連れてきたのは良いけれど、何も考えてない。
 このままバイクで走り回るのも悪くないし事情を知っている奴の所に遊びに行くのも良いかもしれない。

**あとがき@長いです*

平和編。
NEWTRAL-CHAOSなんだろうな…真めがてんだと。って言うか日本神魔…(^_^;)
過保護な平次。めちゃくちゃ過保護。
書いていて何度砂吐きそうになった事か…。
本当は、この話は裏でパラレルするはずだった。しかも主役は快青っっ。
で実は平和はおまけでどっちが千年鬼でどっちが唱門師かって言うのは秘密にするはずだったんだけど…。
いいやって事でココで出す。
千年鬼において、唯一、文字通り平和なカップル。しかも、平和はおまけなんです。メインは新蘭と快青。
まぁ、もう一人の唱門師(男)も姫を攫っちゃうんですが、その姫より和葉の方が格下なので、結構安全に解決。

では、ここで恒例(?)のキャスティング紹介。
快青が主役なので、快青から。
中森青子:唱門師宗家、中森家当主の中森銀三の一人娘。『千年鬼』ある一人をを父の敵と言ってつけ狙う。ちなみに当主銀三は存命中(元気に)。
黒羽快斗:『千年鬼』のある一人。趣味で怪盗キッドと名乗り夜中そこらを徘徊している。何をとるわけでもなし。ただ、銀三に追いかけられ青子を見つけその後青子に追いかけられる。後に、青子がいる帝丹学園に入ってくる。
工藤新一:青子と同じ唱門師。中森家の分家である工藤家の長男。『千年鬼』の姫である蘭に一目ぼれをし、家出する。ちなみに蘭に惚れたことを知っているのは青子と快斗のみ。もっとちなみに、青子と新一は幼なじみ。
毛利蘭:『千年鬼』でもっとも尊い血を引く姫『千年姫』。快斗は婚約者。快斗もそうだが、蘭は快斗が婚約者であることをよろこんでいない。新一に一目ぼれする。
遠山和葉:蘭や快斗と同じ『千年鬼』。蘭と同じく唱門師を好きになる。でその唱門師と同棲する。
服部平次:青子や新一と同じ唱門師。新一と同じく『千年鬼』を好きになる。でその千年鬼と同棲する。
中森銀三:唱門師中森宗家当主。怪盗キッドを追う刑事でもある。

ね、平和はおまけでしょ。
早々、姉姫って言うのは紅子の事です。でその紅子に常にくっついているのが白馬。

内容的には

「許せないから…捕まえるって決めてるの」
「愛してるから…全てを捧げるのも悪くない」
「堕とすのならとことんまで堕としたい甘美な夢は心を捕らえて離さない」
「だったら一緒に堕ちるのも悪くない。とことんまで堕ちて誰にもじゃまさせないぐらい息が出来ないぐらい深くそして甘く夢を見せてあげるよ二度と戻れない甘い甘い夢を」

とかね。
あとは…長いからどうしよう。よし、いれちゃえっ。

 千年鬼は…精気を吸わないよ。
 その言葉が頭をめぐっている。
「たった一人、一生涯側にいたい人だけの精気をもらうんだ。とは言っても千年鬼は人を好きになるのはまれだけどね」
「分かんないよ……」
「分かるよそのうち」

 警察、今回も怪盗キッドに宝石を盗まれる。
 キッド一度の敗北もなし。
 紙面に踊るその文章にお父さんは苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「銀三君、やはり、怪盗キッドは例の…」
「間違いないな。やはり怪盗キッドは千年鬼だろう。優作君はどう思ってるかね。やはり君の意見を聞きたいのだが」
「唱門師宗家中森家宗主の君が言うのだから間違いないだろう」
 朝から食卓上で交わされる宗主とナンバー2の会話。
 議題は昨日の夜の捕り物。
 そう、怪盗キッド。

「お父さん、青子が捕まえる。青子がお父さんの代わりに怪盗キッドを捕まえる。千年鬼は唱門師の敵。千年鬼は存在してはいけない。闇の住人なんだよね」
 青子の言葉にお父さんはうなずいた。

「…他の唱門師になんて捕まえさせないよ。青子があなたをとらえるって決めてるんだからっっ」
 と彼女はブルーグレーのひとみを潤ませながらオレに向かってそう言い放った。
「初めて見たときから君にとらわれているんだけど…」
 そう言ったらどんな顔をするんだろう。
 それを想像してしまい思わず肩を震わせて笑ってしまう。
 それが、いけなかったらしい。
「な、何がおかしいのよっ。青子のこと馬鹿にしてるんでしょうっっ」
 と顔を怒りに赤くして怒りたてる。
 それが…また…なんともかわいい。
 人間を、唱門師を好きになるなんてオレもヤキが回った…。
 そう思わずには居られなかった。

新一×蘭出会い
 月が紅い夜。
 その日の夜、オレは唱門師としての役目を済ませ、帰宅する途中だった。
 季節ハズレの桜が咲くという噂もある公園を通りかかったときにその異変に気づいた。
 季節外れだとはいっても限度がある。
 東京で桜が咲くのは3月下旬から四月の始めにかけての約2週間正確には10日前後だろう。
 狂い咲きの桜。
 と何度もいわれている桜。
 けれど、5月の半ば、下手すれば日中に真夏日になることも昨今の気候ではあり得るこの時期にその公園の桜は咲いていた。
 艶やかにそれでいて、その美しさは恐ろしささえ感じる。
 その桜の木の下に誰かが倒れていることに気づいた。
 遠目から見れば着崩れた着物姿の女性が倒れているように見えるだろう。
 その様子にぎょっとして近寄らないのもいるだろう。
 だがオレは好奇心と共に近寄っていった。
 満開に咲いている桜の木の下でその女性の様子は着崩れたものではなく、小袖に打ち掛けというおおよそ時代錯誤な格好で眠っていた。
 そう、気を失ったのではなく規則正しい寝息で眠っていたと言うほうが正しい。
「う…うーん」
 そう言って寝返りをうった彼女に見惚れる。
 肌は透き通るほど白く頬は少しだけ上気しているのかほのかに紅い。
 ふと気づく。
 微かな妖気。
 この妖気は千年鬼。
「…誰?」
 彼女がオレの気配に気づき目を開ける。
 金色に輝く潤んだ瞳。
 千年鬼の中では上位の鬼なんだろう。
「あなた…誰?」
「…工藤…新一……。君は」
 オレに何の疑問を抱かず彼女はオレの名を問い…そしてオレは戸惑いもせず、素直に答えた。
「わたし?私は蘭…毛利蘭って言うの。あなた……唱門師?だよね…。見つかっちゃった…、千年鬼って唱門師に逢うと消されちゃうんだよね…」
「……消さない…」
「へ?今のホント?」
「……蘭は消されたい?」
「消されたくないよ」
「だったら…オレが守る」
 なぜ…そう言ったのかはわからない。
 けれど、彼女の瞳を見て唱門師とか千年鬼とかどうでも良くなったのは確かだった。
 狂い咲きの魔性の櫻が見せた幻影だとしても。

こんな感じ。
裏予定だったのでねぇ。
平和はおまけだからさ、番外編としていい感じ。

そうそう、冒頭で平次が歌ってる歌は井上和彦さんと速水奨さんが某CDで歌っている歌です。



novel top