St.Valentine's
 屋敷中に広がる甘たるい臭い。
 今日が何の日なのかはわかってるつもり。
 だから…。
 出かけに天敵の天使とあっても鼻であしらっただけで我慢した。
 鉄壁のポーカーフェイスでやつと対峙した。
 相変わらず、何考えてんのかわかんねぇやつだけど。
 この屋敷に近づけさせるわけにはいかねぇ。
 近づいたら堕とすか滅ぼすかどっちかしてやる。
「相変わらず、物騒なこと考えてるのね?」
 突然オレの目の前に現れた赤毛の死神。
「これはこれは死神のお嬢さん。私の考えていることあなたにばれてしまいましたか?」
「当然でしょう?私はこれでも死の臭いに敏感なのよ」
 ふと死神は目を隣の部屋に向ける。
「いつまでこうしているつもり?彼女はあなたと違うことわかってるわよね。契約とそれの実行。あなたはそれをしなくちゃならないのよ。ただ、ここにつれてきて一緒に暮らして幸せです。って言うわけにはいかないことわかってるわよね」
 オレは死神の言葉に笑みを浮かべたまま聞いている。
 心の動揺を見せないためのポーカーフェイス。
「時間ないわよ。天の御使いにばれるのも時間の問題。だいたいあなたの屋敷自体、天界と魔界の境目に近い所にあるんだから。わかってるでしょうね」
「ご忠告ありがとうございます。でもそんな心配無用です。この中には入れませんから」
「そう?だといいけど。私も彼女のこと気に入ってるの。大切にしなさい」
 そう言って死神は消えていく。
 この後は魔王の息子のところに行ってからかうんだろうな。
 とぼーっと考える。
 死神の言っていることはわかってる。
 魔界に人間が入ることは禁忌以外のなにものでもない。
 けれど…オレは彼女がほしかった。
「か〜いと、今平気?」
 扉が開き青子が顔をのぞかせる。
「平気だよ」
 オレの言葉に青子はいたずらっ子のようにほほえみながら部屋に入ってくる。
 後ろに手を隠して。
「はい、これ。バレンタインのチョコレートだよ」
 そう言って手渡される。
 きれいにラッピングされているもの。
 昨日の夜から格闘していた一品。
「もしかして…迷惑?それともやっぱり苦手?」
「迷惑なわけねぇだろ?それに苦手でもありません。甘いもの大好きだからな」
「違うよっ。バレンタイン…っていう行事。だって今日は聖人になったバレンティヌス司教のお祭りでしょ。快斗って悪魔なんだよね…。だから苦手かなぁって」
 そう言いながら青子はうつむく。
 心配事はそっちか。
 はっきり言うと、オレにそう言うのはまるっきり関係ない。
 昔(それこそ制定当時とか)だとしたらちょっと問題あるかもしれないけれど、名ばかりの行事になってしまったそれはもう上位魔族にとったら全く関係ないことだ。
 ただし、きちんとしている教会の礼拝とか賛美歌とか聖水とかに弱いやつもいるけれど、天の御使いに近づいて堕とす事のできるオレにとったらほとんど意味のないものになる。
 さすがに天界に入るって言うのは自殺行為になるけれど。
 それにバレンタインとかクリスマスごときで苦しんでたりしてたら、人間界には降りれないし、魔王の息子なんてとっくに滅んでるだろうし。
 あそこってイベントごと好きだからなぁ。
 彼女がたしか…仙狐(狐の妖怪で仙人型)だったから全然関係ないし。
 西国の王子とその幼なじみって猫まただっけ?(本当は犬の妖怪と仙狸[猫の仙人])。
 そう言う関係のイベントがお祭りになっている日本に昔から住んでいる奴らだから(魔王の息子はともかく)全く抵抗がないし。
「快斗?」
「あぁ、ごめん。でも、材料とかどうしたんだ?」
 ふと気になる。
 チョコレートを作る材料は屋敷内にはない。
 だとしたらどうやって青子は手に入れた?
 まだ青子のことを外に出していない。
 青子はまだ…人間でそれをするための儀式はまだで…(材料が手に入ってないんだよ)。
 だから危なすぎて外に出せなくって。
 って言うか誰にも見せたくないって言うのがあって…。
 それでも一応数人の友人にはあわせた。
 こいつらだったら信用するに値するから。
「うん、どうしようかなって考えてたんだけど、蘭ちゃんと和葉ちゃんも作るって言ってたからそれに青子も乗っかったの。ダメ…だった?」。
 その青子の言葉にほっとする。
「問題ないよ。あいつらなら信用できるからさ」
 包みを開けて中をみる。
 すると家中に充満していたチョコレートのにおいがふんわりと薫る。
 入っていたのは生チョコレート。
 オレ、これ好きなんだよな。
「じゃあ、いただきまーす」
 一個、口に入れるとかすかに香ばしい味がしてそして柔らかさを感じる。
「どう?」
「おいしい。上出来だな」
「嬉しい」
 そう言いながら青子はオレの隣に座りオレにもたれかかる。
「…青子」
「何?」
 静かな時間。
 誰にもじゃまさせたくない。
 やっと見つけることができたんだ。
「…おれときて後悔しない?」
 ふと不安になって聞く。
 無理矢理、魔界につれてきた訳じゃないけれど、やっぱり、本当はどう考えているのか怖かったから…。
「青子は、後悔なんて全然ないよ。それよりも、快斗と一緒に入れることができてすごく嬉しいんだ。そっちの方が強いんだよ。でも、それって無理矢理ココに連れてきた人の言うせりふ?」
 青子の言葉にオレは笑ってごまかす。
 そして言葉を紡ぐ代わりに青子を腕の中にしまう。
「サンキュ。…青子は何も心配しなくたって平気だからさ…。変な気もむんじゃねぇぞ」
「うん」
 オレの言葉に青子は静かにうなずいた。

*あとがき*

パラレルバレンタイン。
眠くって一日遅れ…。
なぜか登場赤毛の死神さん。
名前がでてくるのは多分この後に現れるプレゼントでお目見えすると思うんですが…。
かけるかしら。という不安でいっぱい。
そのときは快斗君が嫌っている天敵の天使さんも登場予定。

そんなにラブラブしてないねぇ。まぁ、いっか。



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