Oh My Little Girl song by : Yutaka Ozaki

 その屋敷はとてつもなく広い。
 部屋が何部屋もあって。まだ入ったことのない部屋もあって。
 生まれた時から住んでる人でさえ知らない部屋もあって…。
 そして、その屋敷が建っている庭もまたとてつもなく広かった。
 外に出かけることの出来ない青子にとって…、この庭は唯一の外なのかも知れない。

 儀式…。

 快斗はそれを約1年のばしてきた。
 理由は簡単。
 青子を考えての事。
 もし、青子が、快斗といることより、元の世界に戻ることを考えたら、快斗はすぐさま青子を元の世界へと戻しただろう。
 でも、青子はそれを考えなかった。
 理由は…これも簡単。
 快斗のことを考えたから。
 もし、もう二度と逢えないと思ったら…それだけで哀しくなる。
 もう快斗と、離れる事なんて青子には出来なかったから。
 元の世界が嫌だから、戻りたくないから…なんて言うのは全然なくて。
 もし、快斗と出逢わなければ、青子は元の世界で満足していただろう。
 別の世界があるなんて思わないで、暮らしていただろう。
 でも…。
 快斗と出逢ってすべてが変わった。
 向こうの世界で生きるとか、快斗の存在なしで生きるというのが、全然と言うほど考えられなくなってしまったのだ。

 自分でもホントにビックリするぐらい。

 それ程、快斗=キッドという存在は青子に衝撃を与え、且つ大きかった。

「こんにちは」
 天界と魔界は表裏一体の関係にある。
 それ故に、近くにあるのに近くにない。
 ただ、青子と快斗が住んでいる屋敷は天使が降りてきたりすることの出来る場所らしい。
 良く分かんないんだけどね。
 で、突然、青子の目の前に舞い降りてきたのは一人の天使。
 小学生ぐらいの黒縁のめがねかけてる男の子。
 背中に12枚の羽がある。
「君…誰?」
「僕?僕は江戸川コナン。一応、天界の天使長(元)なんだ。僕に会うのは初めてだよね、青子ねーちゃん」
 そう言って男の子…コナンくんは青子に向かってニッコリと微笑む。
 誰かに…似てない?
 …って…。
「なっ何で君、青子の事知ってるのぉ?」
「だって、快斗兄ちゃんの大切にしてる人でしょ。だったら、僕知ってるもん」
 と、得意そうに笑う。
「そ、そうなんだ…、で、でも君、天使でしょ?快斗は悪魔…だよ?いいの?仲良くしても」
「別に問題ないよ」
 そう言って微笑んだコナンくんの顔は妙に大人びていて、ちょっとだけどきっとした。
「ネェ、コナンくん、せっかく来たんだからお茶でも一緒に飲まない?青子、快斗が帰ってくるまで閑だし」
「いいよ。青子ねーちゃん。快斗兄ちゃんが帰ってくるまで、僕、ココにいるね」
 いつも部屋に常備してある紅茶セットを広げる。
 紅茶が好きな青子に快斗はわざわざ青子がいた世界にまで紅茶を取りに行ってくる。
 なんかスゴく嬉しいと同時に、スゴく申し訳ない気がして仕方ない。
「探しましたよ、コナンくん」
 窓の外から、落ち着いた声がしたかと思うと、コナンくんはビクッと体を震え上がらせ、窓の方に顔を向ける。
 …とそこにいたのはコナンくんをにらみつけている快斗。
「快斗、お帰りっ」
「ただいま、青子。それより、青子、知らないやつを家に上げるなっていわなかったっけ?」
「う……忘れてた訳じゃないの。…あのね、青子の事知ってるし、快斗のことも知ってるって……だから」
 青子の言葉に快斗はふぅと息を吐き、コナンくんの前を素通りして青子の前にやってくる。
「青子ちゃん、少し危機感って奴、覚えようね」
 そう、ニッコリ笑った快斗の顔が怖い。
「で、いつまでその格好でいるつもりですか?天使長江戸川コナンいや、新一」
 快斗は不機嫌そうにコナンくんに顔を向ける。
「えっ新一くんなの?」
 快斗の言葉に青子は驚く。
 ホントに…新一くん?
 コナンくんは、息を一つ吐くと新一くんへの姿へとまるで成長するかのように変化する。
「で、何でおまえココにいるんだ?」
 快斗の言葉に新一くんは目をそらす。
「家に帰りたくないのよね。工藤くん」
 そう涼やかな声で現れたのはシェリーさん。
「何しに来たんだよ、シェリーっ」
 楽しそうに笑うシェリーさんに快斗は首を傾げる。
「そろそろ人間界はお祭りよね」
 と。
 お祭り?
 何かあったっけ…。
 ………!!!
 クリスマスっ。
 あれ?でも何でクリスマスが関係するの?
「レディ(青子の事)、魔界の一部の地域の人は、クリスマスを嫌うのよ。クリスマスって魔界と反対の天界の祝い事でしょ。完全に反対の立場にいる魔界の一部は嫌うと言うより、苦手なのよ。ね、工藤くん、キッド」
 シェリーさんの言葉に新一くんと快斗は難しい顔をする。
 でも、何で蘭ちゃんは平気なの?
「彼女は彼等とは関係ない一族なのよ。だから、クリスマスとか平気なの」
 そう言えばっ蘭ちゃんは狐の妖怪って聞いた事ある。
 そっかぁそうだよね、新一くんは堕天使で、快斗は悪魔さんだもんね。
「大変何だぁ」
「青子、そんなに気楽に言うなよ」
 青子の言葉に快斗は脱力する。
 でも快斗達が大変なんだって分かったけど、それと新一くんがおうちに帰りたくないのと……。
「…蘭ちゃんクリスマスパーティするの?青子、初めて聞いたよ」
「内緒にしてたんだよ。当日になったら驚かそうって。オレは、青子ちゃんを呼びに来る係。オレはクリスマスなんてやなんだけどさ…」
「大変だねぇ、新一くん」
 新一くんの言葉に快斗は気楽に言う。
「快斗…、おまえも招待するって蘭が言ってたぜ」
「げっマジ?」
 新一くんの言葉に快斗は焦り始める。
「あら?噂をすれば、よ」
「え?」
 快斗と新一くんがシェリーさんの言葉に驚いた瞬間、声がする。
「青子ちゃぁんおる?」
 え?和葉ちゃん?
「和葉、快ちゃんもおるか?工藤も来とるはずやで」
 平次君の声も聞こえるっ。
「そう言えば、あの二人も、関係ないのよね」
 シェリーさんがそうつぶやいた時、和葉ちゃん達はやってきた。
「あ、おった。青子ちゃん、迎えに来たでっ」
「和葉ちゃん、クリスマスパーティーやるんだよね」
「工藤くんから聞いたん?」
「うん、って言うかシェリーから何だけど…」
「そうなんや…。そう言えば、快斗くんと、来とるはずの工藤くんはどないしたん?」
 和葉ちゃんの言葉で気付く。
 そう言えば、快斗と新一くんの姿が見えない。
 どこに消えちゃったんだろう。
「平次っ工藤くんと快斗くんおらんよ」
「ほんまか?」
 和葉ちゃんの声に平次君もやってくる。
「あいつ等逃げたんとちゃうか」
「そんなはずないと思うよ。ね、シェリーさん、今までココにいたよね」
「そうね。でも、あの二人なら隠れてるんじゃないかしら?」
 ニッコリと微笑んだシェリーさんを見て、平次君はにやりと笑う。
「隠れとんのか…。せやったら、和葉、あれやるで」
「えぇの?」
 あれって何だろう。
 和葉ちゃんは分かってるらしく、不安そうに平次君に聞く。
「別に平気やろ。死神のねーちゃんは問題ないし、それに青子ねーちゃんかて問題あらへんやろ?」
「そうやね」
 と、平次君と和葉ちゃんの間で話がまとまる。
「何するの?」
「歌を歌うんや」
 歌を歌う?
 歌ってどうするんだろう…。
「あいつ等はな、歌、それもめっちゃ特別な歌。誰もが知っててこの時期になるとどこかでながれとる。あの歌に弱いンや。」
 この時期…って言ったらクリスマス。
 クリスマスと言えば、歌だから『クリスマスソング』。
 でも、何でクリスマスソング。
「わからへんか?」
 首を傾げた青子に、平次君は嬉しそうに言う。
「そりゃ、歌言うたら、この時期の『聖歌』って言う奴が弱いんや」
「って言うときよしこの夜とか?」
「あたりや。そんでな、歌ったら出てくるやろ?歌うの止めろって。すると隠れとる意味もない言う訳や」
 平次君は、またも嬉しそうに笑う。
 でも、ホントにでて来るのかなぁ。
 案外逃げちゃったりして。
「快斗君が青子ちゃん放ってどこかにいなくなるわけ無いやん」
 青子の心の中を見透かしたように和葉ちゃんは言う。
「和葉の言うとおりやで。さぁ、歌うでっっ。せえのっ」
「ちょーっとまったぁ!!!!」
 今まさに、歌おうとした瞬間、快斗と新一君が空間より現れる。
「おまえ等、オレらを殺す気か」
「あ、おったで、和葉」
「ほんまやね」
 平次君と和葉ちゃんは快斗や新一君のあわてぶりを軽く流す。
「そんなに軽く流すんじゃねぇよッ」
「せやけど、こうでもせんと出てこんやろ。それに蘭ねーちゃん待っとるで、『新一早く帰ってこんかなぁ』って」
「蘭は関西弁で話さない!」
「新一、早く帰ってきて」
 突然、快斗が蘭ちゃんの声まねをする。
「っ!か〜い〜と〜!てめー!浄化するぞ!」
「出来るものならやってみろ!これ以上ないって言うぐらい堕としてやる!」
 知らない間に快斗と新一くんの喧嘩が始まってた。
「不毛な争いはやめなさい。結局、どっちも同じなんだから。ねぇ。」
「うん、シェリーさんの言う通りだよね。」
 え?!
「快斗?」
「オレじゃねぇよ」
 って事はっっ。
「蘭ちゃんっ」
 ドアの所には蘭ちゃんが立っていた。
「新一、ずっと待ってたのに、帰ってこないんだもん。迎えに来ちゃったじゃない」
「ご、ごめん、蘭」
 と新一君は後ずさりをしながら蘭ちゃんに謝る。
「…、新一どうしてさがるの?」
「…蘭、オメェの首に掛かってるそれは…なんだ…」
「ロ・ザ・リ・オv」
「ハートマークつけて言ってんじゃねぇよぉ」
「いいじゃない。かわいいでしょう」
 蘭ちゃんの言葉に新一君はがっくりとする。
「で、青子ちゃん、クリスマスパーティしましょ」
「うん、お言葉に甘えさせてもらうね」
 そう、蘭ちゃんの言葉に返事した時だった。
「ちょっと待った。青子は用事があるからだめ」
 快斗?
「どういう意味だよ」
 快斗に青子を含め皆の視線が集まる。
「快斗…?どうしたの?」
「儀式」
 青子の言葉に、快斗はまっすぐに青子を見ながら簡潔にでも、はっきりと言う。
「さよか、ほんならオレらは行くで」
 平次君の言葉で皆が出ていき、残されたのは青子と快斗。
「快斗?…どうするの?」
「儀式、するよ。平気?」
 快斗は青子を気遣うように言う。
「うん、平気」
 青子の言葉に快斗は言葉を選びながら青子に言う。
「青子、……。儀式をしたら、青子は苦しむかも知れない…。いや、いつか必ず苦しむ。…から、ホントは…青子を悲しませたくないんだ」
 とても、つらそうに。
「オレは、そう言うのを何回も見てきた。青子に同じ思いをさせたくない。それでも、平気って言える?」
 快斗は確かめるように青子に言う。
 青子は…。
 青子は…。
「それでも、青子は、快斗といる事を選ぶよ」
「青子…」
 快斗に、青子が考えてる事を伝える。
「青子ね、快斗が思ってる事も分かるんだ。きっとそうだよね、苦しむ時来るよね、向こうに戻りたいって思う時、必ず来るよね。どんなに快斗の側にいたくても、どうしてもいたくても、それでも…。それでも、向こうに戻りたいって思う時来る。その時が、遠い未来の話じゃなくって、ほんとに何年後かの話なんだよね。……でもね、でもね、それでもね、このまま快斗と離れたら、それこそ後悔するような気がするの」
 絶対に、ココにいたら後悔する。
 それはもう、分かってる。
 永遠と言えるほどの長い命。
 それがどれだけ、強大かとても分かる。
 けれども、戻ったら戻ったで、直ぐに後悔する。
 それももう分かってる事。
 だったら、一番大好きな人である快斗がいる側がいい。
 快斗の気持ちが思いが分かったから。
「だから、青子は快斗と居る事を選ぶよ。だって快斗はちゃんと青子の事を考えてくれてるってわかったから」
「青子っ」
 突然、引き寄せられ抱きしめられる。
「青子、そんな事言ったら、もう永遠にはなさねぇぞ」
「離さなくてもいい。青子は快斗を選ぶって決めたんだからっっ」
 まだどこかこだわる快斗にだめ押しをする。
「ずっと、青子の側にいて。青子の事離さないでいて」
「あぁ、分かった。青子、おまえは永遠にオレの物だからな。離れたいって言っても何があっても、絶対に離さねぇから覚悟しろよ」
 腕の力を強めながら言う快斗に青子はうなずいた。

「これは?」
 突然、快斗は青子の目の前にペンダントを差し出す。
 白金のクサリに、青い石のペンダントトップ。
 サファイア?に見えるんだけど。
「青子を守ってくれる石だよ」
「……サファイアだよ…ね、これ。どうしたの?」
「取ってきたんだ。最上品だぜ。コーンフラワーブルーって言うの」
 青子の疑問に快斗は嬉しそうに答える。
「…取ってきたってどこから?」
「特別な場所。まぁ、盗んできたって言う訳じゃないから。探すの大変だったんだぜ。お前に合う石って事で、時間かかっちまった」
「わざわざ、青子のために?」
「わざわざって…まぁ、青子の側にいつもいられる訳じゃないからさ。青子が危険な目に遭わないようにっていうお守り」
 快斗はペンダントを青子につけながら言う。
「ありがとう、快斗」
「いえ、いえどういたしまして」
 なんか嬉しいな、快斗からもらったペンダント。
 スゴく幸せな気分。
 あっそうだいい事思いついたっ。
「快斗、蘭ちゃん達の所に行こ?」
「は?」
「は?じゃないの。蘭ちゃん達とクリスマスパーティーしよ?」
「お前、本気で言ってる?」
 快斗の言葉にうなずく。
 本気じゃなきゃ言わない。
 せっかくのクリスマスだし。
 蘭ちゃん達とわーっと騒ぎたいし。
 いいよね。
 それに、せっかくもらったプレゼント。
 蘭ちゃん達にも見せたいし。
「快斗、行こ?パーティー。クリスマスパーティーって言ったって。大丈夫、ね」
 青子の言葉に快斗はがっくりと肩を落とし、ゆっくりとうなずいたのだった。

Oh My Little Girl
こんなにも騒がしい 街並みにたたずむ君は
とても小さく とっても寒がりで
泣き虫な女の子さ

街角のラブソング 口ずさんで
ちょっぴり僕に 微笑みながら
甘えた声で 無邪気に笑う
君の腕に包まれた日には

Oh My little Girl 暖めてあげよう
Oh My little Girl こんなにも愛してる
Oh My little Girl 二人黄昏に 肩寄せ歩きながら
いつまでも いつまでも 離れないと誓うんだ

written by Yutaka Ozaki

*あとがき*
悪魔快斗と青子ちゃんのお話。なんだかオールキャスト。
白馬君を出そうと思って失敗したのがちょっとだけ見えたり。
蘭ちゃんもう少ししゃべらしたかったなぁと思ってみたり。
いろいろですが、とりあえず、メリクリ用小説。
どこら辺が?って感じですが。
快斗君は悪魔さんなんで、メリクリには弱いンです。

『Oh My little Girl』は書いてあるとおり尾崎豊の歌。
ただし、うろ覚え
あんまり好きなドラマじゃなかったんだけど。
これが主題歌だった『この世の果て』(思い出さなくって調べた!!!)。
鈴木保奈美と三上博史の共演。
結構、破滅してた。
どんどん壊れてく三上博史。
いつも「マリア…僕は〜」みたいな感じで、三上博史のモノローグから始まる。
確か、なんか捨て猫みたいだった鈴木保奈美を三上博史が拾う所から始まった気がする。
???あんまり覚えてない。(調べたら逆。捨て猫みたいな三上博史を鈴木保奈美が拾ってた)
で、数年後。
広末涼子と三上博史が出てた『リップスティック』。
これも破滅してたね。
何故、これの出だしは、『この世の果て』と同じで三上博史のモノローグで始まるんだよ!!!
ビックリしました。
まぁ、同じ局だからいいけど。
調べて分かったんだけど、『この世の果て』も『リップスティック』も両方とも野島伸司が脚本だった。
『この世の果て』月9だったんだねぇ。木10だとばっかり思ってた。



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