Falli'n Angel アンカー番外編

「快斗」
 青子がオレの名前を呼ぶ。
「私はキッドですよ」
「…違うよ、快斗だよ。キッドでもあるし快斗でもある…。快斗…青子が快斗を包んでいるすべてのものから助けてあげる」
「青子…」
 オレをみて青子は泣きそうになりながらも微笑む。
 青子が…天使に見えた。
 オレを救ってくれる天使…。
 でも…オレは天使にはなれない。
 一度…堕ちたものは二度とはい上がれないことをオレは知っている。
「青子、オレを助けても青子みたいに天使にはなれないよ」
「何バカなこと言ってるのよ。苦しんでないで、青子に言ってよ。青子は絶対に、快斗のこと助けるって決めてるんだから」
「堕天使でも?」
「当たり前でしょ。なんで快斗が堕天使なの?青子にとっては天使と同じだよ。快斗が側にいてくれれば青子は幸せになれるんだよ。大丈夫、青子にまかせて」
 そう言って青子はオレに向かって手をのばした。
「青子が守ってあげる。快斗のこと、すべての苦しみから、助けてあげる。快斗…大好きだよ」
 青子はオレを抱き締めそう呟く。
 その声がオレの薄れゆく意識の中で静かに響いていた。

 近頃、快斗は心を閉じている。
 青子に心を開いてくれない。
 青子のこと触れてくれないし、目を合わせてもくれない。
 理由が…わからない。
 訳は何?
 一瞬だけ見えるあのヴィジョンは何?
 白いマント、タキシード…。
 青子の勘違い?
 あれって…あれは…快斗。
 青子、知ってもいい?
 教えてくれる?
 青子、快斗のこと助けたいの。

 青子に触れることが出来ない。
 青子と目を合わせることが出来ない。
 そんなことしたら、今、自分が犯しているすべてのことが青子にばれてしまうから。
 青子はサイコメトラーでもあるしテレパシストでもある。
 青子に触れたら、自分が今、世間を騒がしている『怪盗キッド』であることがばれてしまうし、青子と目を合わせたら、今、自分が考えているすべての事が青子に読まれてしまう。
 そんなこと…出来るわけがない。
 たった一人、大切な、幼なじみの少女。
 彼女だけは守らなくちゃならない。
 すべてを捨ててさえも。

「快斗…」
「何?」
 青子の声に快斗は後ろを振り向いてくれない。
「ねぇ、聞いていい?」
「何を?」
 素っ気なく快斗は言う。
「……どうして青子と目を合わせてくれないの?」
「…別に。合わせる必要ある?」
 冷たく突き放すような快斗の声。
 壁が…あってそこから入れない。
 だから…快斗に触れることも出来ない。
「快斗ぉ…なんで…どうして?…理由教えてくれないの」
「……青子………。ごめん」
 そう言って快斗は行ってしまった。
 やっぱりあれは快斗なの?
 世間を騒がしている「怪盗キッド」。
 アンカーのメンバーが束になっても捕まえることが出来ない稀代の大怪盗。
 白いマント、白いタキシードにモノクルを掛け鮮やかに狙った獲物「宝石」を盗み出す。
 その怪盗キッドには特殊捜査を専門とする「ISSA:国際秘密工作隊」のメンバーでもあるアンカーにもとらえることが出来ない。
 そんな怪盗キッドに唯一肉薄したのが青子のお父さん。
 アンカーのメンバーでもある「中森銀三」…。
 もし、快斗が…「怪盗キッド」だったら?
 そしたら、お父さんが快斗のこと捕まえるの?
 違うよね、快斗…違うって言ってくれる?

 泣き出した青子。
 泣きやますことをしないままオレはその場を立ち去る。
 知られたくない。
 犯罪に手を染めたオレを知って青子を汚したくない。
 だから目を合わせないし触れもしない。
 気づくのも時間の問題。
 多分、青子にはオレが『怪盗キッド』であるヴィジョンが見えているのかもしれない。
 だから、あんなに泣きそうな顔をしているんだ。
 一瞬だけ合わせた目。
 …青子だけにしか反応しないオレのテレパシー。
 青子にしか通じない。
 昔からで、たいがい目を合わせればお互いが何を考えているのかわかった。
 だから、滅多にけんかをしない。
 言い合ったりするけど、何を考えているのかわかるから、すぐに終わる。
 オレと青子がテレパシーでやり合ってるのをみて、知ってるやつはうらやましがる。
 もう…それも出来やしない。
 ごめん…、青子。
 オレは…『怪盗キッド』をやり続けるしかない。
 親父が死んだ理由を探さなくちゃならない。
 …『怪盗キッド』は親父がアンカーをやっていた傍らで行っていたこと。
 ISSAに所属しているならばたいていのことはカタが付くのに危険を冒してまでもやった『怪盗キッド』。
 だからオレは『怪盗キッド』になるしかない…。

『予告状 親愛なる中森銀三警部殿へ 本日江古田美術館閉館後の午後8:30に同美術館に現在展示してあるサンク王国の秘宝『天使の涙』をいただきにあがります。怪盗キッド』
 目の前にいるその刑事は予告状を握りつぶした。
「『天使の涙』かいな…。まぁ、『怪盗キッド』も趣味えぇな」
「バーロ、趣味いいなって言ってる場合じゃねぇんだよ」
「そうやっ。『天使の涙』と言えば、サンク王国が日本との友好関係の証として貸してくれたもんやろ?」
「確か初代国王のヒイロ1世が愛する妃クイーンリリーナへの誕生日プレゼントとして送ったもので彼女の誕生石でもある100カラットのダイアモンドはサンク王国の平和の象徴の意味合いもふくめて送られたんだよね」
 蘭の言葉にオレはうなずく。
 警視庁捜査2課、中森銀三警部室。
 彼は、世を騒がしている怪盗キッド専任の刑事のため、個室が与えられている。
 予告状が付いたその日の昼にオレと服部は警視庁に呼び出された。
 ISSAに推薦付きで入れる状況にある能力者であるオレと服部と付いてきた蘭と和葉ちゃん。
 4人でこの警視庁にやってきたのだ。
「中森警部、美術館の警備の方はどうなっていますか?閉館時間はたしか7:30でしたよね」
「うむ、工藤君、警備の方は万全だ。今回のキッドはいつもの様な暗号という手段はとらず、正攻法出来た。かなり自信があると言うことだ。従って、警備の数はいつもの倍をとっている。今回は私服での警備をも行い、怪盗キッドを油断させるつもりだ」
 中森警部の案にオレと服部はうなずき、そして捕まえる算段を整える。
 8年前に現れた怪盗キッドは…能力者だった。
 それもかなりの。
 テレポート、そして変装能力。
 特に、変装能力は声色、姿を完全に関係深い人物に変装し警察を欺く。
 変幻自在の『怪盗キッド』と呼ばれるのはそこからくる。
 マスコミの中にはそんな様子を昔の推理小説家「モーリス・ルブラン」が書く人物になぞらえて現代の「アルセーヌ・ルパン」と称したりもする。
 だが……今の怪盗キッドはテレポートが出来ない。
 …逃走手段は背に隠し持ったハングライダーやジェット噴射付きの超小型ロケット、だったりする。
 それでも変装の…名人は変わりない。
 ……以前の怪盗キッドと違う。
 それはわかる。
 じゃあなぜ「怪盗キッド」は「怪盗キッド」をやっているんだろう。
 ふと疑問にわいた。
「青子ちゃん…来ないのかな…」
 蘭が作戦会議の終わった会議場から出てくる時ぼそっとつぶやく。
「あぁ……キッドみたいって言ってたけどな」
 彼女の様子がこのところおかしかった…。
 それと同じように…快斗の様子もおかしかった。
 理由は想像が付いた。
 それは確信していないけれど…。
「新一…」
「ん?」
「……青子ちゃんと快斗君大丈夫だよね」
「……大丈夫だよ。そんな心配することない」
 オレの言葉に蘭は静かにうなずいた。

 江古田美術館の閉館時間は午後7:30。
 閉館時間からおよそ10分後に完全に見に来た人は退館する。
 閉館時間からさかのぼって10分前には警備の配置は完了した。
「…なんだよ…寺井ちゃん」
「…もう、私めは止めもいたしません。ですが、後悔はなさらないのですな」
 寺井ちゃんの声が静かにビル屋上に響き渡る。
「もう、すでに、青子さんはこの江古田美術館に近づいております。それでも、いいとおっしゃるのですね」
「……『天使の涙』はオヤジが探していたものかもしれねぇ…。日本で見られるのは国交樹立の記念で送られた…今しかない…。明日の最終日じゃもう、間に合わない。門外不出の代物だからな。………後悔はしねぇよ。オヤジが探していたものと違うって寺井ちゃんは祈ってたらいいさ」
「快斗さま…」
「……行くぜ…っ」
 寺井ちゃんの声を振り切ってオレは夜の闇へと飛び出す。
 青子…。
 お前は今どこにいるんだよ…。

「青子ちゃん?」
「…し…新一君」
 誰にも見つからないように『怪盗キッド』が予告した江古田美術館に忍び込もうとした時、新一君に運悪く見つかった。
 …テレポート使えば良かったかな。
 でも、1mもない青子の能力じゃ壁抜けるぐらいしか出来ないよね。
 平次君だったら外壁から中まで進入するの簡単だろうけど。
「……どうしたの?今日はもう来ないと思ってたけど」
「…うん、やっぱりちょっと気になったんだ…」
 青子の言葉に新一君はじっと青子を見つめる。
「何?」
「少し…やせた?」
 快斗と…同じ声の新一君の言葉に思わず涙が出た。
「あ…青子ちゃん…。原因は快斗か…」
 言葉に出せずに青子はそのままうなずく。
「快斗は…快斗が…」
 何が言いたいのかわからなくって混乱してくる。
「……『怪盗キッド』に逢うポイントは…」
 新一君?
 なんでいきなり『怪盗キッド』の事が出てくるの?
「ごめんね。回線あいてたから入らせてもらったよ」
「……教えてくれなくても大丈夫だよ。なんとかテレポートでがんばってみる。それから『怪盗キッド』の思念さえ捕まえちゃえば青子のもんだもん」
 そう言った青子の言葉に新一君は静かに微笑む。
「気をつけて、警官はそこかしこに張り込んでいるから」
 新一君の言葉に青子はうなずいてその場から移動した。
 サンク王国から貸し出された『天使の涙』は13展示会場にある。
 警官に見つかる前に手近な部屋にテレポートして入り込む。
『怪盗キッド』…どこにいるの?
『怪盗キッド』やっぱり…あなたは……なの?
 それを青子が知ってもいい?
 それでも、あなたは隠したいの?
 青子にはもうヴィジョンが見えているのに?
『……ドの予告時間まで残りわずかだぁ!!総員、気を引き締めてかかれ!!!』
 お父さんの声だ…。
 お父さんは『怪盗キッド』専任の刑事。
 どこまで近づいてるの…『怪盗キッド』は…
『…ココにあらわれるんでしょうか…』
『……に天使の涙をうばわれる……いかない』
『あれは、我々…の物だ!』
 へ…なに?
 今の思念。
『天使の涙』を守る警官の中に不穏な思念を持った人がいる。
 どういう事?
『親子共々、邪魔をしてくれる』
 ……親子…共々……。
 親子…って何?
『忌々しい、黒羽盗一と黒羽快斗』
 ……そう言う……事…なの?
 快斗はキッドで…8年前になくなった盗一おじさんも…キッド。
 盗一おじさんは今のイヤな思念を持った人たちに殺されて…それを知るために快斗は『怪盗キッド』をやっているの?
 …快斗が危ない…。
 危ないよね。
 快斗…どこにいるの?
 返事してっ。

 通気口に向かわせた遠隔操作の小型ロボットから見る映像にオレはげんなりしそうだった。
 …なんだよ、この警官の数。
 どうしたもんかね……。
 やっぱ騒ぎ起こしてお嬢さん(天使の涙のこと。リリーナ王妃を国王の親友等がお嬢さんと親しげに呼んでいたことから天使の涙を隠語としてそう呼ぶことがある)をかっさらうしかないよな。
 小型ロボットで通気口を無理矢理こじ開け、その後煙幕を落とす。
 混乱の中オレは微妙に警官を誘導しながら『天使の涙』を手に入れ、出入り口へと向かう。
「ごきげんよう、中森警部。今回もまた私が勝ちそうです。では、お元気で」
 もちろん、中森警部への言葉も忘れない。
 そのまま、屋上へと向かう。
 ……そういや…いつも来ているあいつらの姿が見えねぇな…。
 どこにいるんだ?
 …まさか…この『天使の涙』に何か付けてるんじゃないだろうな…。
 家まで持って帰ったら一瞬で来られるぞ。
 平のテレポートって際限なしで、青子のサイコメトリーや和葉ちゃんのダイブ使ったら一気に…テレポートテーション使われる。
 …どうする?
 確認してる時間はねぇぞ…。
『…返事してっ』
 ん……。
 …青子の思念…。
 やばい…近くにいる。
 いくら、目を合わせないでいても、いくら、触れられないでいても、とっさの時はどうしようもない。
 そんな瞬間に青子に『怪盗キッド』のヴィジョン見られてるんだから。
『快斗っ。そこにいるの?お願い…返事して。快斗のこと狙っている人がいるの…』
 青子の悲痛な思念が頭に響いてくる。
 オレのことを狙っている人。
 やつらか…。
 ともかく、オレはそこを離れる。
 これ以上、青子を巻き込むわけには行かない。
「ごめん…青子」
 そうつぶやいてオレは屋上へと向かう。
 屋上の月が見える場所でオレは『天使の涙』を月に掲げる。
 オヤジの死んだ手がかり、ビッグジュエル。
 それを月に掲げると何かが起こるという。
 …これもはずれか……。
「ご苦労だったな、『怪盗キッド』いや…黒羽快斗」
 いつの間にか黒い服を着た連中が屋上にやってきた。
「…何のようだよ…てめぇら」
「お前には関係のないことだ。さぁ、早く、それをこちらに渡してもらおう」
 そう言ってリーダーと思われる男はオレに拳銃を向けながら手を出す。
「断る」
「死にたいのかね?黒羽快斗くん」
「死にたくはないが…、『天使の涙』をあんた達に渡すわけにはいかないんだな。それに、これはあんた達が探している『ビッグジュエル』とは違うよ。残念だけどな」
 オレの言葉に黒服の男は視線を強める。
 …邪視?
 イヤ、こいつらの中に能力者は存在しない(特殊な場合をのぞき能力者は他の能力者を関知することが出来る。関知までで、その内容は不明)。
 邪視のない奴ににらまれたってどうってことない。
「たとえ、それが我らが探している『ビッグジュエル』じゃないとしても、我々は、それを手に入れなければならない」
 そう言って男は静かに撃鉄をあげる。
 殺してでも、手に入れるか…。
 イヤ、手に入れた後殺すか。
 どっちかだよな、あいつらの考えている事って。
 どうすっかなぁ…やっぱ。
「渡すわけにはいかねぇよ。せっかくサンク王国から日本への国交樹立と、友好の記念に貸し出されたものだ。これは、サンク王国の国王に返さなくちゃならないよな」
「なら、どうなるか…分かってるだろうな」
 次の瞬間、腹部に強烈な熱さを感じ、体の支えが効かなくなるのを感じた。
 熱さの後に感じた痛みに朦朧としながらオレは『天使の涙』を屋上より、下に投げる。
 下に、新一や、平の気配を感じたから。
「下だ!!いくぞ」
「余計なことをっっ」
 悪態つかれながら蹴り入れられた。

「…グスン…快斗ぉ」
 気が付くと、青子が泣いていた。
 涙をぬぐおうと手を差し出すと血だらけの手と白いタキシードが目に入る。
 キッドの格好のままだと気づき、どうやら気を失ってからそう時間はたってないことに気づいた。
 どうやら、青子の気配を感じて目を覚ましたらしい。
 そう思って思わず苦笑する。
「何笑ってんのよっ。、血、いっぱい出てるんだよっ。快斗のバカッ」
「……私は…キッドですよ、お嬢さん」
 こんな時でも頭の中は冷静に動いて、青子に正体を隠す。
「何バカなこと言ってるのよっ。青子が、快斗の正体分からないとでも思ってるの?快斗は、快斗なんだよ。キッドは快斗なんだよ。…今更、正体なんて隠さないでよ。……快斗…青子、快斗のこと助けてあげたいの、快斗を包んでいるすべての快斗の苦しみから快斗のこと助けてあげたいのっっ」
 そう言って泣いて、…ゆっくりと微笑む。
 きれいだな……。
 青子って…天使のようで……女神だよ。
 オレを救ってくれる、女神。
 でも、オレは青子を助けられない。
 青子を守ることが出来ない。
 天使は、神を守る存在だという。
 一度…堕ちたものは二度とはい上がれないことをオレは知っている。
 墜ちたオレは青子を守る者にはなれない。
「青子、オレを助けても青子みたいに天使にはなれないよ」
「何バカなこと言ってるのよ。苦しんでないで、全部、青子に言ってよ。青子は絶対快斗のこと助けるって決めてるんだから」
「堕天使でも?」
「当たり前でしょ。なんで快斗が堕天使なの?青子にとっては天使と同じだよ。快斗が側にいてくれれば青子は幸せになれるんだよ。快斗、大丈夫だからね」
 そう言って青子はオレを抱き寄せる。
「青子が快斗のこと、すべての苦しみから、助けてあげる…守ってあげるから……。快斗…大好きだよ」
 青子はオレを抱き締めそう呟く。
 その声がオレの薄れゆく意識の中で静かに響いていた。

「快斗っ快斗っしっかりしてっっ」
 凶悪な思念が強まったかと思うと快斗の意識が消えて、…意識が逢った所に向かったら黒服な人たちとすれ違って…その人達が凶悪な思念持ってたって事気づいたけど、それどころじゃないって……屋上に入ったら、強烈に見せつけられた。
 真っ白なタキシードが赤く染まっていた。
 袖口が、前身頃が…。
 青いシャツが…血の色で赤紫に変わっている。
 血がたまってきているのが見えてとっさに駆け寄った。
 血の止め方知らないから新一君達を呼んで、止めてもらって(それでも一時的。テレキネシス使って止めてる。最初、テレキネシスを使える平次がやってその後青子が押さえる)、それで快斗にサイパワー少し与えて気を取り戻させた。
 意識失ったら、そのまま戻らなくなる可能性も高いから。
 怖かった。
 ココで、快斗がいなくなったらどうしようってそればっかりが頭に回ってた。
 ……もう少し早く快斗の心に気づいてれば良かったって後悔ばかりしてる。
 そうすれば、快斗がこんな目に遭う前に助けられたはずだもん。
「青子ねーちゃん、ちょっとえぇか?」
 屋上に戻ってきた平次君が青子に声をかける。
「何?」
「…このままやと、快はやばい。救急車じゃ遅いかもしれん」
「うん…テレポートするんだよね」
「そうや…それからな、このままじゃヤバイ言うのわかるな」
 平次君の言葉にゆっくりうなずく。
 快斗の格好は怪盗キッドの格好している。
 病院に言ったら警察に通報されるかもしれない。
「どうするの?」
「知り合いの医者に見てもらう。その人は医師免許持ってるけど開業しないで、発明ばっかり明け暮れてるじいさんだけどな」
 青子の言葉に新一君が答える。
「…そこに、テレポートするしかない。蘭達は先にそこに行って準備している。服部はココに残っていろいろ説明しなくちゃ何ねぇ」
「だから…新一君とシンクロ?」
「快みたいには行かへんやろうけどな。工藤やったら問題ないやろ」
 新一君と平次君が心配そうに青子を見つめる。
 大丈夫、快斗助けるためだもん。
 何とでもなるよ。
「分かった。青子やる、大丈夫」
 青子の決意に新一君はうなずいた。

 何もない白い空間。
 光も、闇も影も存在しない、白い空間。
 ココにいていい?
 問いかけると、静かに空間が振動する。
 心地よい音色が聞こえて、振動が気持ちいい。
 スゴく知っている音色と振動。
 それが…大切な幼なじみである事に気づくまで時間はいらなかった。
「……」
 名前を呼ぶときれいな音と気持ちいい振動が伝わってくる。
 顔を見たいな…。

 気が付くと、白いカーテンと白いパイプベッドに白い天井。
 夢の続きかと首を回すと、涙をいっぱい目にためた青子がいた。
「…あおこ…」
 のどがかすれて名前をちゃんと呼べなかった。
「飲む?」
 コップ一杯の水を青子は渡してくれる。
 起きあがって、おなかに痛みが走って、水を飲んで…気が付いた。
 オレっっ生きてんじゃんっっ。
「オレ。生きてる?」
「……もう、目、さめないと思ったんだよっ」
 そう言って青子は涙を流す。
 聞いて驚いた。
 あの日から1週間…たっていたらしい。
 血液が足らなくって…やばかったらしい。
 …何とか極秘ルートで手に入れ、弾を無事摘出、医学知識が完璧にある新一が助手を務めたらしい。
 ……生きてて良かった。
 逆に、殺されそうだよな…新一に。
「青子」
「何?」
「………本当に、オレを許してくれる?本当に、オレ青子のそばにいていい?」
 不安になって聞く。
 あのときのは夢なのか、実際にあったことなのかが不安になって。
「…快斗のこと許すって青子決めてるの。それに快斗がそばにいてくれなくちゃ、青子やだよ」
 ホントだったんだ。
 そう思いながらオレは青子のことを抱き寄せる。
「快斗?」
「心配かけて…ごめん青子。ずっと、黙っててごめん…。それから…黙ってたこと、騙してたこと許してくれてありがとう」
「そんなこと、気にしなくてもいいのに……」
「せっかく素直に礼言ってんだから。あっそれから……」
 青子に先言われて、言うの今まで忘れてた事がっ。
「何?」
「好きだよ、青子」
「…かっ快斗っ。いきなり言わないでよぉ」
 そう言って青子は顔をうつむかせる。
「あのなぁ、いきなりって普通は今から告白しますって予告しねぇだろうが」
「だってぇ……、今言われるとは思わなかったんだもん」
「オレだって、撃たれて苦しんでる時に言われるとは思わなかったんだぜ?それよりはましだとおもわね?」
 青子をからかったら、青子は顔を真っ赤にして怒る。
「快斗のバカッそう、言わなくたっていいじゃない。青子、あの時は必死だったんだからね」
「…うん…マジでありがとう…」
 オレはそう言って青子を抱きしめる。
 ちっちゃかったんだよな…青子って…、
 改めてそう感じた。
 守りたいんだ…誰よりも。
 だから…オレで君を守らせて。
「そうだ、快斗にお願いがあるの」
「何?いきなり」
 突然の青子の言いだし。
 オレにお願いって何だろう。
「あのね、また、怪盗キッドになった時青子も連れて行って?」
「ハァ????」
 いきなり何をっ。
 危険だって言うのわかってるんだろう?
 オレの疑問に青子は軽く答える。
「青子、快斗のお手伝い出来ると思うの。テレポートだって出来るし、テレパシスだって使えるよ。ね、便利だと思わない?」
「…壁抜け程度の…テレポートが?」
「快斗ぉ」
 やっべ…起こらせた……。
「もう、せっかく、青子が手伝ってあげるって言うのに、快斗なんて知らないっ」
「まっ、待って。青子さん、手伝ってください」
「うん、最初からそう言えば良かったんだよ。しょうがないから、青子、怪盗キッド手伝ってあげるね」
 そう言って青子はにっこり笑った。
 …あれ?
 なんか違うんじゃないのかぁ。
 ……精進しろって事か?
 結局、オレと青子は二人で『怪盗キッド』をやることになった。
 完璧、オレが守らないとならないよな。
 これって。

*あとがき*

ハハハハハハハハ!!!!
誕生日プレゼントだって!!!
しかも誕生石だよ!!
やるね、ヒイロっ。
この時代…どうやら、アフターコロニーの後らしいです(笑)。
違うって。
そして、クイーンリリーナをお嬢さんと呼んでいたのはもちろんデュオ・マクスウェル……(笑)。って言うかヒイロが……いつの間にかサンクキングダムの王様になってた…。
皆、顔面蒼白だろうな。でも、ちょっとおもしろいかも。
……って関係ないよ、今はコナン。
まじ快アンカー。
これをきっかけに快斗と青子は『怪盗キッド』と言うコンビを組む。
冒頭のシーンは以前いただいたイラストにくっつけたショートストーリー。
せつな系でおわしてしまったので、この際どうなったかもすべて書こうと思って書いてみました。
思ったより長くなってしまったわねぇ。
煙幕…キッドを書く時には必須アイテム。
他の手段ないかね。何か。
補足、快斗の手術をしたのはもちろん阿笠博士、その助手に灰原女史…というのにしようと思ったんだけど出ていることを思い出し(しかもこの時点非面識)結局、助手をしたのは工藤新一となりました。
……新一率高し!!
ちょっとびっくり(*_*)。
そんなもんかな?



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