かたちあるもの(song by 柴崎コウ)
『ちゃんと見守っているから。あなたはあたしの事なんか忘れて前を向いて。あたし達の子供大切にね』
かたちあるもの(song by 柴崎コウ)

 子供?
 どこに、そんなのがある。
 お前は、お前の心臓を持ったものは子供だと言う。
 お前の記憶を持っている人間が子供?
 その時はお前の言葉にうなずく事しか出来なかった。
 オレがお前に与えてやれるものなんてホンの少ししかない。 
 お前と同世代の人間が『幸せ』を見せびらかして歩いているのをお前はうらやましそうに見ている事をオレは知っている。
 だとしても、それを与えられない。
 それを望む事はお前も出来ないと分かっているから、余計にオレは何も言えなくなった。
 その時は……。
「パパ、先に行くね」
 そう言って部屋を出ていった彼女の言葉にうなずきオレはソファにもたれかかる。
 あれから1年、そして、あれから………2年の月日が経とうとしている。
 これが…望んだ現実か?
 それでも、お前は望むんだ。
 オレがここで生きていく事を。
「は〜い。撩」
 声がするほうに目を向ければ麗香の姿。
「いつの間に入ってきたんだ?」
 そんな事を呟く。
 麗香の気配は前から気が付いていた。
 でもどうしてもオレの目の前に現れない。
 彼女がいなくなってようやくオレがいるこの部屋にやって来ようと気になったのだろうか。
「…あなたがあたしの気配に気付かない訳ないって知ってるの分かっていながら聞くの?」
 と麗香はいたずらっ子のように微笑みながら言う。
「これ、頼まれてた奴よ」
「サンキュ」
 突き出された封筒を受け取り中身を確認してテーブルの上に置く。
「…やっぱり撩って過保護よね」
 ため息つきながら言う麗香にオレは苦笑する。
「別に、そんなんじゃないさ。単なる置き土産」
 そう言ったオレの言葉に麗香はぎょっとして目を見開く。
「ちょっと、いきなり何言うの?冗談はやめてよね」
「さっすが、麗香ちゃん、分かってるじゃん」
 ごまかした言葉に麗香はため息ついてドアに向かう。
「今日のパーティーあたし出ないからね」
 オレの方を見ないで出ていく麗香にオレは静かに手を上げた。

『あたしの事を思って迷わないでいて。あたしはいつでも迷わないよ。撩と居る事。こんなに幸せだったことはない』


「で、冴羽さん、出かけたい所があるってどういう事?」
「ちょっと用事が出来ちゃってね。パーティーの時間までは戻ってくるよ」
 美樹ちゃんの言葉に彼女を目の端にいれながら答える。
「時間までには戻ってくるんでしょうね」
 彼女、楽しみにしてるのよ。
 と美樹ちゃんは彼女に目を向けて言う。
 彼女はキャッツのもう一人のバイトと一緒に臨時休業している店内の飾り付けに精を出している。
「わかってるよ。その帰りに教授達連れてくるよ」
「どうしたの?冴羽さんらしくないわ。いつもそんな事言わないじゃない」
「そうかぁ?」
「逃げる手段でも考えてたのか?」
 海坊主の問い掛けにオレは考える。
「逃げる………ねぇ」
 逃げるって何処に?
 行く所なら簡単に思いつくんだけどさ。
「まぁ、ともかくよろしく頼むよ」
 そう言ってオレはキャッツをでた。

 車を走らせて目的地のビルへと向かう。
 そこで待ちかまえているのは女性。
 頼みごとを頼まれてくれた人物。
 きっと、オレはその女性に頭が上がらないだろう。
 この先、ずっと。
 謝り続けて、謝り続けて『彼女』を幸せに出来たらきっと許してくれるか?

『眠りたくないなぁ……こんなに幸せなのに……』


「撩」
「冴子か」
「何車に乗せてるの?」
 呼び出された公園で先についてたオレの車の中身をみたらしい。
「悪いけど、お前には教えられねぇよ」
 なんて意地悪く笑ってオレはタバコをふかす。
「…あれから2年なんて早いわね」
 子供の笑い声が消え始めた夕暮れの公園で冴子はふと呟く。
「…良かったの?パーティーなんて」
「……やりたいって言ったんだ。別に反対する理由も見当たらない」
「…けど」
「寂しいのより、楽しいほうが良いと思わねぇ?」
「…そうかも…知れないけれど……」
 歯切れ悪く冴子は言う。
「お前も来ないって言う口か?」
「……仕事が片づかないの。顔を出せたら出すわ…」
「早めに終わる予定だぜ?」
 オレの言葉に冴子は首をかしげる。
「ミックと教授と飲みに行く予定〜朝までコース!!!」
「呆れた」
 張り切って言うオレに冴子はため息ついて好きなようにしろと呟いた。

 あぁ、オレの好きなようにさせてもらうさ。


『ごめんね、あなたが寂しい時に側にいられなくて。でも大丈夫、あなたならきっと。いろんな事大切に出来る。だってあたしの事こんなにも大事にしてくれた』

 それは…オレの台詞だ。
 こんなオレを、お前は愛してくれた。
 お前の存在があったから今のオレが居る。

『泣きたい時や苦しい時は私を思い出してくれれたらいいな。あたしが…慰めてあげるからさ。なんてなんか、あれだね』

 いつでも、何処でもお前の存在がオレの中にある。
 楽しい時も、嬉しい時も思い出したらいけないのか?
 なぁ………。


「で、お前は何を考えてるんだ?」
「あ〜何がだよ」
 泥酔状態のミックに同じく泥酔に近いオレは答える。
 教授はすでにどこかに行った。
 泥酔状態にしたミックを見たらかずえちゃんが怒るだろうなぁなんて思いながらミックの話を聞く。
「今日のお前、どこか変だぜ?正確には彼女がパーティーしたいって言った日からだ!!」
 酔った目でミックは言う。
「べーつーにー!!オレは、いつもと変わんないぜ?」
「そうかぁ?まぁ、お前がそう言うんだったら、オレは何も言わないけど」
 そう言ってグラスを傾ける。
「リョウ、お前が何を考えているのか、オレは何も言わないさ。お前が決めた事だろ?オレは受け止めるよ」
 気付いた?…………か。
「ファルコンも、お前の様子が変だって言ってたな」
 付け加えたように言う。
 …あぁ、嫌だね。
 裏の世界の男って奴は。
 ホント参っちまう。
「余計なお世話だっつーの」
 そう言ってオレはグラスの中身を飲み干した。

「冴羽さん、最低だわ」
 風の音が響き渡るその場所でオレは不意にさっき言われた言葉を思い出した。
 キャッツから出てオレは絵梨子さんの元へと向かった。
 オレの考えを絵梨子さんに話し、協力してもらう為だ。
 絵梨子さん以外に良い協力者が見当たらなかった。
 裏の世界とかかわり合いがなく、そしてオレとあいつの事をよく知っている人間。
 それを考えると絵梨子さんだけだった。
「……本気なのね」
「まぁ、かなり」
「……あの娘は幸せだったと思うわ。あなたと一緒にいられて。喧嘩ばっかりしてたけど、さんざん愚痴とのろけ聞かされたけど、あの娘が本当に幸せだったのはあなたと一緒に居た時だった」
 光沢のある布に指を滑らせながら言う。
「高校の時のあの娘にあった事あるんですってね。後から聞かされてホントに驚いたわ。思えば、あの娘の口調がますます男っぽくなったのはあなたのせいだったのよね」
 言ったのか。
 思わず苦笑する。
 あいつと初めてあった時、確かにあいつは女の子って言うよりも男の子に近かった。
 しかも声変りする前の。
 基本的に声が高いんだ、どんなにごまかしたって、男には見えない。
 それをあいつは妙な所で分かってないんだ。
 って言うか、あいつが男っぽくなったのはオレのせいでもないだろう?
「あら、あなたの影響でしょう?あなた女性好きな癖して、分からないのね。あの娘はあなたのまねをしてあなたに近づきたいって思ったんじゃない。女の子って結構そんなものなの」
 楽しそうに笑いながら絵梨子さんは言う。
 ったく……変なとこ、真似るなよ。
「…今度は、あの娘を離さないで」
 静かに絵梨子さんは言う。
「あなたの側に居たから、あの娘は不幸になった。そう言う人なんてごまんと居るけれど、私はそうは思わないわ。あの娘はあなたの側に居たからあんなに幸せだったって胸を張って言える。だから、だから、わたしはあなたからの頼みごとを受けたのよ」
「分かってる」
「だから、今度こそ、あの娘を捕まえていて、離さないで居てあげて」
 絵梨子さんは浮かんだ涙を布に落とさないようにハンカチで目を押さえる。
 その言葉にオレは深くうなずいた。
「それでも、これだけはやっぱり言わせて。最低だわ、あなたって。約束したわよね。あの娘を不幸にさせないって。でも、あなたはそれを破った。たとえ、不可抗力だとしても。だから、あたしはあなたを最低だって思う事にするわ」
「それで、充分さ」
 オレに対する言葉にしては。
「だから、幸せにね」
 はなむけの言葉にふさわしい言葉を絵梨子さんは涙を浮かべながら言った。
 言葉の理由は分かりきってる。
 だから、オレは笑みを浮かべただけでその場をさった。
 絵梨子さんから受け取った荷物と共に。
 そして、今オレはここにいる。
 夜更け、あと1時間もすれば夜が白み始めるだろう。
 そうして新しい1日が始まる。
 新しい何かに心躍らせる日はあの日に終わった。
 だけど、今は妙に心が躍る。
 怒られるだろうか。
 兄妹に揃って怒鳴られるんだろうか。
 兄にはねちねちと嫌みを言われて妹には思いっきり殴られるのだろうか。
 ハンマーで潰されかねないなぁ。
 苦笑か、それとも嬉しいのか判断がつかない笑みが浮かぶ。

 あぁ、槇ちゃん、マジでごめん。
 守るって言ったのに、約束やぶっちまった。
 しかも、オレはこの様だ。
 って言うか、いろいろ、マジでごめん。
 手、出した事も、謝るからさ。
 あの冷静すぎるほど冷静な顔で怒るのだけは、マジでやめてくれよ。
 それから、それから………。
 香。
 ごめん。
 きっと怒るだろうなって言うか、怒って待ちかまえてるよな。
 どんなに怒ってもいいさ。
 怒った顔も可愛いなんて言ったら、お前、絶対顔赤くしてやっぱりハンマーか。
 タハハハ…。
 ………。
 いくらでも受けてやるよ、ハンマーぐらい。
 それから、お前がいやがるような事もしない。
 他の女見てもっこりもしない。
 ナンパも…………まぁ、しない…。
 それからツケも作らない。
 それから、それから、あと何がある?
 黙って一人で仕事に首突っ込まない。
 これは、お前にも言えるな?
 ……ともかくだ。
 言いたい事とか全部聞くから。
 文句だって黙って聞くから。
 言い訳だってしないから。
 だから……。
 だから、今。















 逢いに行く。

















あとがき

旧突発ノートに書いた物です。
そこの後書きにも書いたけれど、シティーハンター仕様のエンジェルハートのラストを書いてみようと。
『かたちあるもの』を聞いていて思ったんだけどね。
最後はやっぱり生きていて欲しくないなぁと………。
一年は茫然自失で、一年は義務で…。って感じで彼は生きて欲しいと……思ったのですよ。
私の理想の二人の最期って…一緒になんだよね。
なんかねぇ、バラバラでって言うの想像つかないんだ。
いつまでも一緒に居て欲しい。
ホントに、撩と香のこの二人に関しては思う。

気付いているのはミック。まさかなって思ってるのが海坊主。
何となくが麗香と冴子と美樹。
絵梨子は唯一の協力者。 では、どういう状況だったのかの説明。ここからどうぞ。
ついでに彼女は香瑩、『彼女』は香。
そうそう、ぶった切ってみました。最後の描写ないほうが衝撃的かなぁ……って。

初出:2006/1/5 (旧突発ノート)
HTML化:2006/2/1
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