Gアイランドシティから湾上都市へと続く環状線は、それ程車の混み具合もなく、比較的車はスムーズに流れていた。
どちらかと言えば、Gアイランドシティに向かう方が渋滞している。
GアイランドシティにあるGパークに遊びに向かう人が多いのだろう。
「良かったんですか?」
静かに運転席の彼が聞く。
BGMはカーラジオから聞こえてくる、古いクリスマスソング。
「何が?」
「パーティーを抜けて来てしまったことです」
「…別に…いいけど。…何で、そんなこと聞くの?」
「ただ単に、あなたがあの場所にいたそうでしたから…」
「そう…見えた?」
「えぇ、見えましたけれど?」
自分が無理矢理連れてきたことを棚に上げて彼は、あたしに聞いてくる。
車を運転する彼は、普段の様子からは想像も着かない程穏やかに過ごしている。
そして、何かを含ませる事もせず、まっすぐに聞いてくる。
最も、あたしが目の前にいる時だけ、らしいけど。
環状線を走る車の窓からはGアイランドシティの夜景が見える。
Gアイランドシティのランドマークである宇宙開発公団ビル『Gタワー』は、クリスマスカラーにライトアップを施されている。
そして、その近くのGパークでは華やかなパレードが執り行われている頃だろうか…。
もしかすると、会場にいた数人はそのパレードを見に行っている頃かも知れない。
会場で、そんな話題もでていたから。
わいわいはしゃぎながら見ているのかも知れない。
今まで、地球を守っていた人たちなんて思えないぐらいに。
まるで子供のように(…一部には本当に子供もいるけど)
それを思うと、少し、居たかったかなとか、見てみたかったかな…なんて気になりもするけれど…。
でも、後悔する程じゃないのはきっと、隣にいる人のせいなのは…間違いないのかも知れない。
内輪だけのクリスマスパーティで…と言っても、GGGのビッグオーダールームでのパーティは、思っている以上に派手で、にぎやかなものになった。
抜け出す少し前に…今考えれば同じように…、会場を抜け出そうとしていた命と目が合った。
あたしと目が合ったことでひどく狼狽していたけれど…、ニッコリ笑って頷いたら、秘密ねと人差し指を口の前で立てて『シーっ』ってやって会場からコッソリと出ていった。
その後から凱も出ていって、その事にボルフォッグは気付いてたみたいだけど、気付かない振りをしたみたい。
他にも、何人か姿を見なかったから…もしかすると会場を抜け出したのかも知れない。
抜け出す直前、リューネの方を見たら、マサキとリュウセイとで何か勝負事をしてて、それに、ドモンが巻き込まれてて、ついでに五飛も巻き込まれてたっけ…その一角だけ、ものすごい騒ぎになってた。
リューネは少しだけ寂しそうにでもあきれ顔でマサキの方を見てた。
少しだけ、リューネの気持ちがわかって、なんだか気の毒になった。
今まで、本当にいろんな事があった。
ありとあらゆる事が起こって、こんな風にみんなで笑って、パーティーが出来るなんて思いもしなかった。
まだまだ問題は山積みだったりするけれど、多分大丈夫だろうな…なんて思ったりもする。
湾上都市のビル群にはちらほらと明かりがついている。
クリスマスだと言うのに仕事してるのね…なんて。
……って言うか、あたし、今の今まで、クリスマスなんて行事、知らなかったのよねぇ(当然、ラ=ギアスにはクリスマスなんてない)。
わかんないまでも、こうやって満喫しているのってやっぱり、地上の生活もまんざらじゃないわよねぇ。
思ってた以上に楽しいわ。
うん。
車は、湾上都市の一角にある、超高層マンションへとたどり着く。
DC及び、プリベンターのあるビルと隣接しているソコは、超高層の上、超高級がつくマンション。
この最上階。
1フロア全部が世界十大頭脳の一人に数えられる白河愁博士の部屋。
…初めて入った時、正直驚いた。
ココに住む!!って叫んで、地上に居る間はあたしだけじゃなく、マサキもリューネもココに居る。
寝室の窓からはGアイランドシティが一望でき、Gタワー、Gパークが見える。
パーティーの他に、いろいろあって疲れたあたしは、身を投げ出すように、ベッド上に横たわり、全面の窓から見えるGタワーを眺めていた。
「…セニア」
「…何?…」
少し、眠いのかも知れない。
シュウの言葉に応えるのが少し面倒だ…。
「そのままでは、服がしわだらけになりますよ。礼儀作法を習った王女には見えませんね」
少しだけため息着いて、呆れ声でシュウはあたしに言う。
全く、余計なお世話なのよ。
「着替えなさい。そのまま眠って、後で後悔するのは、あなたですよ」
「…説教くさいよ」
「私は、当然の事を言っているまでです」
「…わかったわよ」
相変わらず、説教くさいシュウの脇をすり抜け部屋のドアを開けながら返事をする。
確かに、シュウの言うとおりなのよね。
服にしわがたくさん付いて、次の日大騒ぎするのはあたし。
シュウは、冷ややかな目でそれを見てるの。
そんなのムカつくもの。
寝間着専用の部屋着に着替えて、元の部屋に戻ってくる。
と、シュウは部屋にあるリクライニングソファに座り外を眺めていた。
もちろん、すでに着替えている。
時間も遅いために、Gパークのイルミネーションは消えていて、少しだけ寂しい。
Gタワー変わらず、クリスマスカラーのライトアップで彩られている。
ベッドに寝ころんだあたしを見たシュウが、静かに近付いてきた。
「どうしたの?」
「別に」
静かに笑みを湛えて、ベッドの縁に座る。
「本当は、『こう言う事』に振り回されるのは、私の主義に反するんですが…。セニア、あなたに差し上げますよ」
そう言ってシュウはあたしの目の前に小箱を差し出す。
……へ???
何、コレっっ。
「俗に言うクリスマスプレゼントですよ」
シレッとした顔でシュウはそのクリスマスプレゼントを起きあがった私に見せる。
「……あたしに?」
「そう、言ってるでしょう?」
現状を把握していない、あたしにシュウはため息混じりに呟く。
「開けていい?」
「…どうぞ」
極めて冷静にシュウはあたしの言葉に応える。
対するあたしはと言うと、ものすごーく、動揺してるんだけどっっ。
くれるなんて、思いもしなかった…。
「クリスマスプレゼントは大切な人にあげるものよ」
って教えてくれたのは誰だったっけ…。
……シュウは、あたしの事大切に思ってるって事だよね…。
小箱を開けると綺麗なピアスとペンダントトップがソコに入っていた。
雪の結晶をあしらったそれは、きらきらと輝いていた。
「……綺麗…」
「気に入りましたか?」
「…うん。…シュウ、本当にあたしにくれるの?」
「何度、言わせるつもりなんですか?」
シュウは苦笑いを浮かべる。
「…ありがとう。スゴく、嬉しい。…ねぇ、シュウ、あたし、あなたにあげるものないんだけど…。あなたからもらえるなんて思ってなかったのよ。だから…」
「別に、いいですよ」
「でもぉ。それじゃ、あたしの気が済まないわっ」
もらいっぱなしって納得いかないもの。
「じゃあ、ひとつだけ」
「うん、何?」
「あなたが、どこにも行かず、私の側にいればそれでいいですよ」
それって、…ずっと前、あたしがシュウに言った言葉のような気がする。
「…それ、あたしが前に言った事じゃない?」
「そうでしたっけ?まあ、ともかく、私はそれだけでいいですよ」
そう言って、静かにシュウは微笑む。
「それでいいの?」
そう聞くと、笑みを浮かべたまま、シュウは頷く。
それで、いいなら、いいわ。
あたしも、嫌じゃないものね。
本音は、一緒にいたいから。
その後、二次会っていいながら、部屋でシャンパン開けて、飲んでいた。
窓の外に広がる夜景を見ながら。
「…クリストフ、メリークリスマス」
「……セニア、わざとですか?」
「…、ごめん、シュウ。シュウ、メリークリスマス」
「メリークリスマス、セニア」
シュウセニ!!!!
シュウ様とセニア様のクリスマス。
一応、時間軸は『星達が伝えたい事』の後の話です。
もう、当分終わらないから、開き直って、その後の話を書いてしまえ!!とモノカキさんに30のお題をやってる間に開き直りました。
その為、その後の話です。
その後の話は、セニアはシュウと一緒に地上にいます。
他は秘密。
それから、設定として出そうと思っていた事を、先にココで出しました。
白河愁、世界十大頭脳の一人。
メタ・ネクシャリストだし。いいと、思うんだけど。どうかな?