回り続けるモノ。繰り返されていること。
変わらない事は、良いことであり、悪いことでもある。
それを断ち切るだけの勇気はなかなかもてない。
でも、断ち切れば、先に進める…かもしれない。
「早かったね…ワール・ワーズ」
深い海の濃い青のグランブルーの髪と、それよりも、浅いマリンブルーの瞳を持つ青年は、背後の気配が誰か気づいていたかの様に声をかけた。
「早かったね…って、呼び出したのは、ラテス、あんたでしょ?」
ワール・ワーズの一人マレイグは、海を見ている青年…海の神ラテスに対してため息をつく。
「用って何ですか?」
マレイグのため息を苦笑しながら聞いたチェスターは静かに、目の前の人物に問いかける。
「見てごらん、ラプテフに、列島結界がかかる」
剣を海の向こう側に微かに見える大地に向けてそう言う。
大地の方には淡く、何かがかかっているように見える。
「…あれが列島結界」
クロンメルが誰に言うでもなくつぶやく。
「そう、ラプテフの大地を守るための結界。ガイアとフラウと俺が作り出す結界」
「…正確にはガイアとフラウ様とニスクじゃないのか?」
マレイグの言葉にラテスは苦笑して剣を降ろす。
「どっちでも構わないよ。俺でも、出来るし、ニスクでも出来る」
ラテスの言葉は静かに流れる。
「で、本題は?」
「ミディアビュートを渡す。それで、フラウの『聖宝』を取ってきて欲しい」
ラテスの言葉に3人は顔を見合わせる。
「ミディアだったら、カーラに言えばいいんじゃ…」
「カーラには他にやって貰うことがあるでしょう?お前達が一番良いの。ミラノちゃんが目覚めたら、俺も動かなきゃならない」
「暇人じゃないんだけど」
「リグリアの音楽スタジオから逃亡したのはどこの誰だ?大騒ぎだって言うこと知ってるだろう?」
ラテスの言葉に3人は返す言葉がない。
「ほら、行く前に、マレイグ、シェラに逢っておいで。クロンも逢いたい人いるでしょ?」
「そうやって、今からこき使うからって言うのを遠回しに言わないでくれる?」
「いいから」
マレイグとクロンメルはため息をつきながら神殿の方へと向かう。
「……で、二人に聞かせたくない話ですか?」
二人の姿が見えなくなったのを確認してチェスターはつぶやく。
「……チェスター、歯車が壊れることのない、運命を変えることは可能だろうか…」
「……それを、ボクに聞くんですか?…」
「お前しかいないよ。時を変えたいとは思わないのか?」
「…ボクは日々自問してますよ」
チェスターは遠くに見える大地を見ながら、ラテスは、その先の何かを見つめながら、話を続ける。
「人は、その運命にあらがいたいと願いながら、その階段を上り続けている。変わることのない、終わることのない、いわば螺旋の階段を」
「それでも、生きるしかない。ボクはそう思ってますけど?」
「…それでも、進むしかないと?」
「言い換えればそうですね」
ラテスの問いに、チェスターはゆっくりとうなずく。
「……俺がやろうとしていることはあまりにも無謀なことなのかもしれない」
「無謀って、いつもあなたは無謀なことをしてると思いますよ?ボク達にスタジオを提供してくださったこと、デビュー前の人間に最高の環境を提供するのは無謀と言えるんじゃないんですか?」
デビュー前の時を思い出し、チェスターはクスリと微笑む。
「確かに、そうかもしれない。成功するか分からない人間に投資したんだから」
「…成功するか分からないって…。ボク達は成功すると思ってましたけどね?」
「その自信、どこから来るかわからないよ」
シレッと言ったチェスターにラテスはため息をつく。
「俺がやろうとすることは、不可能な事なのかもしれない。止まることのない歯車をあえて止めようとしているのだから」
ラテスはうつむきながら言う。
「それをやろうとしているのは、ラテス、あんただけじゃないだろう?」
はじかれたように顔を上げ、振り向くと、そこには神殿に行っているはずのマレイグとクロンメルがいた。
「いつの間に戻って…」
「いつの間にって、結構時間たってるけど?ラテス、あなたらしくないんじゃないんですか?
クロンメルの言葉にそれなりの時間がたっていることに気づく。
「僕たちは、まがりなりにもあんたの命令で動いている。それは忘れたつもりはない。それに、もし無謀だとしても、ラテス、あんたはそれをやめるのか?僕が見る限り、あんたはやめない」
マレイグの強い視線にラテスはいつもの彼を取り戻し、軽く、笑みを浮かべる。
「そうだね…。それでも、俺はやめることが出来ない。いや、やめることをしないと言った方が正しいな。ここでやめたら、全てが水の泡だ。まぁ、お前達が手伝ってくれるって言ってるんだから、安心したよ」
そう言って、ラテスはいつもの笑みを浮かべながら、ワール・ワーズを眺めた。
*****
海の向こうを強い視線で決然と眺めている少女。
かの少女はこれから先を想像しているのだろうか。
「絶対に戻るから」
そう言った彼女は、自分の無謀な賭けを黙ってみていてくれるのだろうか。
「助ける」
なんて平気で言いそうだ。
全てを断ち切るための時間はまだ来ない。
その時のために、自分は今やることをするだけだ。
ラテスは、海の向こうを未だ見つめているミラノに声をかけようと立ち上がった。
*あとがき*
ファルダーガーで、螺旋。
…どこが螺旋?
永遠の方が良かったんじゃ…。
なんて思ってみた。
ワール・ワーズ久々。
ラテスの描写を最初に入れたので、ワール・ワーズの描写も入れようと思ったんだけど、後ででいいやと言うことになって、この場では却下。
時間的には、ショルド脱出!!の所。
ミラノが目覚める前の話。
シェラって言うのはラテスの神官、クォートエルフ(クォーターなエルフ)。
父がハーフエルフ。
通常のエルフが人の4倍、ハーフが二倍、クォートがだいたい同じぐらい。
人が80歳ぐらいだとしたら100歳が平均寿命。120歳までは生きれる人と150ぐらいは生きれるクォート。
それほど、時間に影響がない
でも人の4倍は生きるエルフと、人との間の時間は埋まらない。
その分では恵まれているマレイグと、恵まれていないチェス。
実は、チェスの密かな悩み。
完成:2004/7/18