Wanna Be


「わあ、可愛い雑貨屋さん」
 アリオスとのデートの途中、アンジェリークは可愛らしい雑貨店を見つけ、アリオスの腕を引っ張った。
「ねえ、アリオス、見ていこうよ!」
「ったく、しょうがねえな」
 幼子のように強請る彼女には逆らえなくて、アリオスは苦笑しながら恋人と共に雑貨店に入っていく。
「最近寒くなってきたから、何か温かいものを見たいのよね〜」
 夢中になって、大きな眼差しを更に見開いて、アンジェリークはあちこち見回っている。
「マフラー…、手袋もいいわよね」
 夢中になってアンジェリークは雑貨に見入っていた。
 傍にいて、彼女の夢中になる横顔は可愛いと思いながらも、少し妬けてしまう。
 買い物には直ぐに夢中になるところは、ごくごく普通の17歳だ。
「ったく…」
 新宇宙の聖地を抜け出してきての甘いデート。
 にも拘らず、恋人はすっかり買い物に夢中だ。

 ったく。
 昔から、買い物になると夢中になるもんな…、おまえは。

「ねえ、アリオス!! このショールどう!」
 いきなりアンジェリークは彼に振り返ると、品の良い純白のきらめくショールを躰に当てて回って魅せる。
 ショールがふわりと舞うと、まるで純白の羽根のように見えた。

 …やっぱり、おまえは俺の”天使”だもんな…。

 その神聖なる美しさに、アリオスは魅入らずにはいられない。
「ねえ、アリオス?」
「あ?」
 声をかけられて、彼は魅入っていたことを隠すかのように、アリオスはさりげなくアンジェリークを見た。
「コレ、買おうと思ってるんだけど、似合うかな?」
 少し恥ずかしそうに上目遣いで見つめながら、アンジェリークはアリオスにショールをつけて魅せる。
 その表情は、本当に愛らしい。
 買い物に夢中になっている彼女が、少し恨めしくて、意地悪したくなってしまう。
「何だそりゃ? 似合わねぇー」
 その瞬間、煌いていたアンジェリークの表情が一気に変わった。
「どうせ、何着ても似合わないわよ!! アリオスのバカ!!!!」
 彼女の口を尖らせて、拗ねたような表情になる。
 その眼差しはアリオスをにらみ、本当に怒っているようだ。
 その表情が可愛くて、アリオスは微笑みすら浮かべた。
 それがアンジェリークには更に気に食わない。
 ショールを乱暴に置くと、アンジェリークは店から出て行ってしまった。
「ったく…。短気な女王様だ」
 彼は苦笑すると、そのショールを手に取ると、レジに向かった------

 店を出て、早歩きをし、直ぐに彼女に追いついた。
 その歩き方は、肩が怒っていて、どこかこっけいで可愛らしい。
「アンジェ」
 彼女は一瞬彼を見ただけで、口を尖らせたまま無言で歩き続けた。

 泊まっている宿についても、彼が暖炉の火を起こしている間、何も彼女は言わない。

 だってアリオスが悪いんだもん…。
 あのショール可愛くて気に入ってたのに・・・。
 似合わないのはわかってたけど、彼に言われると…。

 結局、アンジェリークはアリオスを許すタイミングが掴めなくて悶々としていた。
 椅子に座ったまま、頬を膨らますだけ。
「よぉ、どうした? むっつり黙り込んで…。ひょっとして、さっき俺が言ったことでまだむくれてんのか?」
 恋人の表情を覗き込むと、むくれた姿もとても愛らしくて、アリオスは微笑んでしまう。
「クッ…、そんなに頬を膨らませてると、ホントにそんな顔になっちまうぞ」
 そう言って、アリオスはアンジェリークの膨れた頬を軽く抓る。
「いひゃい!!
 もう、アリオスが悪いんでしょう!! せっかく、私、気に入ったショール買おうと思ってて、アリオスに見てもらおうって思ってたのに、あんなこと言うから…」
 ようやく聞かれた彼女の声は、いかにも拗ねた愛らしい声だった。
「…。大体おまえが悪いんだぜ? いきなりあんなピラピラしたショールを躰にあてるからよ。だから、俺は素直な感想を言ったんだ。『なんだそりゃ、似あわねぇー』って。そしたら、おまえ急に怒ってよ…。
 おい、聞いてるのか」
 アンジェリークの表情はますます拗ねたものになり、その大きな瞳には、涙が浮かんでいた。
「…素直にって、ひどい…。アリオス」
 彼女は本当に泣きそうになっており、アリオスはその傍に寄っていく。
 素直な彼女をからかうのは、可愛くて好きだが、その瞳に涙が浮かべば話は別だ。
「ったく、そうやってすぐ俺の言うこと本気にするんじゃねぇよ。あれは冗談だ、冗談。似合わねえっつったのは、本心じゃねえ」
 アンジェリークが初めて泣きそうだった顔をアリオスに向けた。
 その表情に、アリオスは更に愛しくて堪らなくなってしまう。
 彼は更にアンジェリークに近づいていく。
「買い物となると、夢中になるからな、お前は。
 だから…、ちょっとからかってみただけだ」
 彼はそう言うと、持っていた包みを彼女にさりげなく差し出した。
「ほら、欲しかったんだろ? このショール。買っておいてやったぜ?外は寒いからな…。
 出かけるときはそのショールを着ていけよ」
「アリオス…」
 怒った後のプレゼントは、最高のものだった。
 アンジェリークの心の中の怒りは静まり、それどころか、今度は嬉しすぎて泣けてくる。
「空けていい?」
「ああ」
 包みを開けると、そこには、アンジェリークがとっても欲しかった白いショール。
 店で見たときよりも、更に輝いて見えた。
 アンジェリークはぎゅっとそれを抱きしめると、頬を染めて胸いっぱいの幸せな表情になる。
「有難う・・・絶対、大事にするね!! 私、今度のデートにコレ着ていくね!!」
 先程まで起こっていて愛らしいフグみたいだった顔が、今度は、本当に天使のような表情になる。
 甘くて、可愛くて、輝いている。
 天使の百面相はアリオスはどれも愛しいが、とくに、この華のように可憐で輝く笑顔には弱かった。

 参ったな…

 彼は胸の奥がひどく苦しくなるのを感じる。
 余りにも無防備な笑顔を独占したくなる。
「…おい、なんて顔をしてんだよ? お前がそうやって無防備だから…、お前を放っておけなくなるんだぜ?」
「あっ…」
 次の瞬間、背後から抱きしめられていた。
 大好きな男性からの甘い抱擁に、アンジェリークは息を乱す。
 その甘さに、彼女は喘いだ。
「…アリオス」
「…お前を放したくない、独り占めしたいって思っちまうんだ。…俺は本気だぜ? さぁ…どうする?」
 低い声で耳元で囁かれれば、もう答えなんか決まっている。
 全身に電流が走るような声で囁かれれば、何もいらない。
「-----答えなんか、知ってるくせに…。
 私もあなたを独り占めしたいって思っているもの…」
 アンジェリークはアリオスの手をぎゅっと握り締める」
「アンジェ…」
 アリオスはアンジェリークを椅子から抱き上げると、そのままベッドに運ぶ。
 ショールがふわりとゆれて椅子の上に落ちた。
 ベッドに寝かされると、しっかりと抱きしめられる。
「愛してる、アンジェ…」
「アリオス…、私も愛してるわ…」
 熱くも甘い唇が重なる。
 お互いの思いをキスに込めて、激しく求め合う。
 二人がお互いに独占できる時間が、今、始まる------

コメント

アリオスのCDネタです。
ほぼ、その会話に肉付けをしたものになります。
あんな声で囁かれてしまった日には、もうたまりません(笑)
アンジェもいちころでしょう。
ホントにCdのアリオスさんは程よく柄悪くといったところでしょうか?
なりたさん熱演です!!



モドル