Trip Before Wedding


 秋の良い季節に、アリオスの休みが取れ、アンジェリークは彼と一緒に、古都に小旅行に出かけた。
 アンジェリークがかねてから行きたがっていた寺と、山奥深くの温泉の1泊2日の旅。
 アリオスに選んでもらったワンピースを身につけて、最高のお洒落をして、うきうきしながら旅を楽しんでいる。
 早速、支線に乗って寺の最寄り駅に降りる。
 もう、紅葉していて、目にも美しく、楽しい。
「いい感じに紅葉してるわ!」
「そうだな」
 ふたりはしっかりと手を繋いで、寺までの道程を歩き始めた。
 紅葉を見ながら歩くというのも、いい感じである。
「ねえねえ! 本当にもみじって赤ちゃんの手みたいねえ!!」
 アリオスと二人だけの旅行のせいか、嬉しいあまりにアンジェリークは妙に饒舌になっている。
「だな。おまえも近い未来に、もみじの手の世話にかかりっきりになるぜ?」
「え!?」
 アリオスを見ると、いたずらっぽい微笑が浮かんでいる。
 意味深なことを言われて、真っ赤になるアンジェリークだった。

 秋の風に吹かれて、ゆっくりと歩いた後、アンジェリーク待望の寺に到着する。
 少し茶屋に心惹かれるとこはあったものの、そのまま石段を上がって境内にむかった
 寺に着くと、拝観料を払って、社務所の中に通される。
 お菓子とお茶も出してくれたので、アンジェリークはご満悦だった。
「至れり尽せりよね?」
「この菓子甘そうだな…。おまえにやる」
「うん、有難う!!」
 周りを見ると、アリオスとアンジェリークのようなカップルがたくさん目に付く。

 やっぱり皆、考えること同じなのね?

 時間になったので、寺の和尚がやってきて、この寺について色々話し始めた。
「このお守りがあれば、必ず一つだけなら、お地蔵様が願いを叶えてくださいます。欲張っていくつも願いをかけてはいけませんよ」
 お守りの話になるなり、アンジェリークの瞳が輝きだす。

 これだったんだな?

 アリオスは妙に納得すると、真剣に話を聞くアンジェリークの横顔を見つめていた。
「入り口のお地蔵様は、わらじをはいたお地蔵様です。このお地蔵様があなたのところに行って、お願いを叶えてくださいます。
 入り口のお地蔵様のところに行って、お守りを持って、住所氏名、叶えて欲しい願い事を一つだけ心の中で唱えてください」
 アンジェリークはしっかりと頷いているのが、妙に愛らしかった。

 ご利益のありそうな話が終わった後、ふたりはお守りを買い求めた。
 アンジェリークは、レイチェルとエルンストの夫婦の為にも買い求める。
「さあ、いきましょう! お地蔵様のところ」
「ああ」
 ふたりは手を繋いで仲良くお地蔵さまのある入り口まで行く。
「大きいわね」
「ああ」
 顔を見合わせると、ふたりは頷きあい、お守りを持ってしっかりと祈る。
 アンジェリークの祈ることは唯一つ--------

 アリオスといつまでも一緒にいられますように…。

 ただそれだけ。
 心を込めてしっかりと祈った後、目をあけると、アリオスも丁度祈り終わったところだった。
「行くか?」
「うん!!」
 再び手を繋ぎあって、ふたりは石段を降りていく。
「ねえ、何をお願いしたの?」
「和尚も、願い事は誰にも言うなといっただろ?だからひみつ」
「ケチ!」
 わざとアンジェリークは口を尖らせて、顔を反らして見せた。
「じゃあ、おまえは何をお願いしたんだよ?」
「和尚様も、願い事は誰にも言わないようにって言ったでしょ? だからひみつ」
「ケチ」
 同じ言葉を言い合った後、二人は仲良く笑った。
 お互いに本当は判っている。
 願うことはただ一つ-----

 一緒にいたい…

 ただそれだけだから-------


 街中に出て少し遊んだあと、二人は、山里の温泉地に向かう。
 電車とタクシーを使えば直ぐのところがいい。
 宿に着いた後、アリオスが全部手続きをしてくれた。
 彼が「夫婦」と宿帳に書いたのが、少しだけくすぐったい。
 先ずは大浴場にふたりともつかって、夕食に備える。
 部屋の露天風呂はその後のお楽しみだ。
「わ〜い!! やっぱり湯豆腐よね〜」
 美味しい食事に舌鼓を打ち、アンジェリークのご機嫌は頂点に達した。
 食事も待ったりと済み、少しだけ休憩。
 やはり秋の山里はとても静かだ。
「------アンジェ、こっちへ来いよ?」
「うん…」
 アリオスが立っている窓辺に向かうと、ぎゅっと腕の中に閉じ込められた。
「アリオス…」
 不意に彼が左手を手に取り、薬指にダイヤの指輪を填めてきた。
 最初は何が起こっているのかが判らなかった。
 だが自分の薬指を見るなり、実感が湧いてくる。
 嬉しすぎて、涙が瞳に滲んでしまった。
「アリオス…っ!!!!」
 抱きついてきた愛しくて堪らない小さな温もりを、アリオスはぎゅっと抱き締めて離さない。
「アンジェ、絶対に、未来永劫離さねえからな。覚悟してろよ?」
「うん、うん!! 私も絶対にアリオスから離れないから!!!!」
「ああ」
 彼は穏やかに微笑むと、アンジェリークの華奢な躰を抱き上げる。
「愛してる…。おまえを一生大切にする。
 一緒になってくれ…」
「・・・はい・・・」
 アンジェリークは心を込めて、たった一つの真実の言葉だけを囁いた------

 お地蔵様…。
 私の願いはかないそうです・・・。


コメント

何か温泉に行きたくなって、二人を行かせて見ました。
 実は今回のお話の舞台はちゃんとモデルがあるのです♪
ふたりにぴったりかな〜と思って、書いてみました〜
 この後はもうあれしかないか(笑)



モドル