Trick or Treat


「ママ、もうちょっとくりんとして? アリオスの方がよっぽど上手よ?」
 鏡を見つめながら、アンジェリークは愛らしくも小首を傾げた。
「はい、はい。アリオス君はプロだもの。何だったらアリオス君にやってもらえばいいのに」
 アンジェリークの母は、溜息を吐く。娘の巻髪をするのにもう疲れてしまったようだ。
「ダーメ! 私の綺麗なところをアリオスに見せたいんだもん!」
 娘のこういったところは相変わらずで、アンジェリークの母は苦笑した。
「アナタは、本当に、寝ても覚めても”アリオスくん”よね。小さな時から」
「だって、アリオスが一番だもの…」
 はにかんだ表情でアンジェリークは照れくさそうに言うと、少しだけ俯く。
「はい、これでいいかしら? ちゃんと立派に天使になってるわよ?」
「うん…」
 真っ白な天使のオーガンジー使いの衣装を身に纏い、その背中には羽をあしらっている。
 手には、後ほど、星の形をした杖を持つ予定だ。

 アリオス・・・。
 ちゃんと可愛いって思ってくれるかな?

「さてといってらっしゃい? これから色々おうちを回るんでしょう? 夜になっちゃうからね?」
「うん!」
 アンジェリークはしっかりと頷くと、今まで座っていた椅子から飛び降りた。
「子供として参加できるのも、これで終わりだものね・・・」
「うん、今回で実質終わりだもんね」
 アンジェリークももう12歳。
 来年は中学生でもう参加が出来なくなる。
 中学生になれば、今度は家々に尋ねるといった儀式は無くなってしまう。
 ハロウィンを楽しめる最後の歳なのだ。
「今夜はかぼちゃ大魔王が降りて来なければ良いな…」
「そら、バカなこと言ってないで、行ってらっしゃい」
「は〜い!」
 アンジェリークは、母親に持たせてもらったオーガンジーで作った白い袋を持って、早速アリオスの家に向かう。
 今日は、彼が休みで、家にいるから都合がいい。

 ちょっとだけ緊張するな・・・。
 アリオス、ちゃんと褒めてくれるかなあ・・・。

「trick or treat!!」
 アンジェリークは大きな声で言いながら、アリオスの家のドアを大きく叩いた。
「はい〜!」
 アリオスの母親がお菓子を片手に出てくるなり、目を丸くする。
「まあ、アンジェちゃん!! 可愛くおめかししてもらったわね! お人形みたい!」
「trick or treat!!」
 アンジェが笑いながら言うと、アリオスの母親は楽しげにお菓子をくれた。
「あ〜、いっぱい!」
「アンジェちゃんはうちの子供も同様だからね? 特別よ?」
「有難う!!!」
 アンジェリークは天使に良く釣り合う笑顔で答えると、少しだけきょろきょろと周りを見つめた。
 少しそわそわしているので、誰を捜しているかが、直ぐに判ってしまう。
「アリオス?」
 その名を呼ぶだけで、彼女の顔は真っ赤になる。
「あなたが来たら直ぐに来るわよ?」
 そう言うと、アリオスは母親は、彼をいそいそと呼びに行ってくれた。

 アリオス…。
 早く逢いたいな。

 背伸びをして何度も左右に揺れながら、アンジェリークはアリオスを待った。
「よお? 馬子にも衣装だな?」
 期待していた言葉とは少しずれてはいたが、アンジェリークはまあ少しは嬉しいと思う。
「待ってろ? 菓子を用意してるから」
「うん〜vvvvv」
 今度はアリオスを待っていると、彼の母親が一足先にやってくる。
「アンジェちゃん、折角可愛いから、アリオスと一緒に写真をとりましょうよ!」
「ホントに!!」
 正直言って、心から嬉しかった。
 アリオスと記念撮影が出来るとは夢みたいだから。
「ほら、アンジェ」
 アリオスが奥から、とても可愛いキノコの形の瓶に入ったチョコレートを持ってきてくれた。
 あまりにも可愛くて、アンジェリークは歓声を上げてしまう。
「うわ〜!! 有難う!!!!vvvvvvv」
 アンジェリークはさも嬉しそうにアリオスからお菓子を受け取る。
 先ほどよりも更に輝かしい笑顔で、アンジェリークはアリオスから甘いプレゼントを受け取っている。
 その表情に、アリオスの母は目を細めた。

 アンジェちゃん・・・。
 あなたはあと少ししたら、アリオスの心を完全に捉えてしまうかもしれないわね?
 今度は、アノ子が追いかける番になるかもしれないわ・・・

「アリオス、本当にありがと〜」
「他のガキにはやらねえからな?」
「うん!! 判ってる!!」
 楽しげに笑う二人は本当に恋人同士に見えてしまう。
「ねえ、アンジェちゃん、アリオス、ふたりで写真を取るわよ!」
「ちっ、面倒癖え」
「ねえ、アリオス!!」
 アンジェリークは強引にアリオスをカメラの前にたたせると記念撮影をした。
「いくわよ、ふたりとも! はいっ!」

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「何見てんだよ?」
「あ、6年前のハロウィンの写真」
 懐かしそうに微笑んでいるアンジェリークを、アリオスは背後から抱き締める。
「そうか。今日はハロウィンだったな」
「うん。アリオスに貰ったキノコの瓶、まだ大事じにしてるわ」」
 アリオスは嬉しいことを感情にあらわす前に、ぎゅっとアンジェリークを抱き締める腕に力を込めた。
「-------なあ、オクサン。
 trick or treat」
「ねえ、お菓子でも欲しいの?」
 アンジェリークはくすくすと笑いながら、アリオスの腕をぎゅっと握り締めた。
「おまえ。俺の”ごちそう”はおまえだからな?」
「もう…」
 真っ赤になりながら、アリオスにリビングのフローリングに押し倒される。
「ねえ、じゃあ、trickは?」
「おまえを奪うこと」
「だったら同じじゃない!!!」
 アンジェリークが怒ったふりをしても、アリオスは止めない。
 ハロウィンの甘酸っぱい想い出を心に秘めて、アンジェリークは愛するアリオスの奏でる甘い旋律に、溺れていく-------

コメント

 アリオスさんのご馳走は決まってますもんね(笑)
 アンジェの…(笑)
 後は裏だな(笑)



モドル