もうこの手を離さないから。 再び一緒になれたのだから…。 アリオスとアンジェリークはしっかりと手を握り合って、約束の地を歩く。 絡み合った手は、もう二度と離さないがごとく、ぴたりと絡み合っている。 まるで、その場所が互いの探していた場所かのように。 「アリオス?」 「何だ?」 名前を呼べば、一緒に旅をしたときのように答えてくれる彼に、彼女は奇跡がそこにあると、感じずにはいられない。 潤んだ大きな瞳で、彼を見つめる。 新たな光が見えているような気がして、嬉しさがこみ上げてくる。 「一度この手を取ったら、覚悟してね?」 泣き笑いの表情を浮かべながら、彼女は彼を挑戦的に見つめる。 久しぶりの笑顔。 彼が記憶を失っている間は、ついぞ見られなかった笑顔。 一瞬、アリオスは瞳を閉じ、フッと穏やかな笑みを浮かべる。 満たされた感情がそこにある。 記憶を取り戻し、昨夜は、少女との別れを決意した。 だが…。 少女は、側にいて欲しいといってくれた。 自分を失いたくないといってくれた。 それが何よりも、彼の心を溶かしたのだ。 「----覚悟してるぜ?」 瞳を開けて、彼は、今までにない笑顔を彼女に向ける。 それは彼女の心に入り込んで、心にあった雲が全て消え去る思いがした。 一緒に旅をしていても、彼の微笑みはいつもうつろだった。 それが、今、温かさに満ち溢れた穏やかさに包まれている。 その眼差しを見るだけで、泣けてきて…。 「バカ、泣くな? おまえはいつまでたっても泣き虫だな?」 手を繋いでいないほうの手で、彼は彼女の栗色の髪を撫でる。 その髪の長さが、二人を隔てていた時間の長さを表しているようで、少し、苦しくなる。 「だって嬉しいの!」 こぼれる涙を流れないように澄み渡った青空に顔を向ければ、景色が滲んで見える。 「あなたがいなくなって、私の空は土砂降りだった…。 だけど、再会して曇り空になって、今は晴れ渡ってるもん。この空みたいに…」 「アンジェ…」 その純粋な言葉が嬉しい。 彼女の存在が嬉しい。 彼女がいるだけで、生きる価値を見出すことが出来るような気すらする。 おまえがいるから・・・。 俺はここにいられる。 おまえを守ってやりたい…。 おまえを支えるために、俺はあるから…。 「アリオス、いっぱい、いっぱい、一緒にいようね?」 「ああ。だから、アルカディアのいろんなところに連れて行ってやるって、言ったんだぜ? 行こうな?」 「うん」 二人は、再会したな所をぐるぐると回る。 まだ離れたくなくて。 時間が許す限り一緒にいたくて…。 木の下に来ると、二人はその樹に凭れて、座り込んだ。 アンジェリークは自然に手を伸ばすと、彼の身体を腕の中に包み込む。 鍛えられた精悍な男性の肉体を持つ彼を包み込むには、小さすぎる腕だけれども、そうせずにはいられないから。 アリオスを包み込みたかったから。 「アンジェ?」 彼女のまるで聖母のような眼差しに、彼は心を預けたくなる。 「アリオス…。あなたの場所はここよ?」 「ああ。判ってる。おまえの居場所もな」 そう言って、アリオスは彼女の手をそっと自分の身体から外し、今度は自分の胸に彼女を閉じ込める。 「おまえの居場所も…、ここだぜ?」 久しぶりの温かさ。 何よりも欲しかったぬくもり。 今までの思いが溢れてきて、もう取り返しもつかないほど心が渦に巻き込まれて。 鼻孔をくすぐる甘い男らしい香りも以前のままで…。 嬉しくて、身体も心も震えて。 「アリオス!!!」 「こらバカ。泣くなって? ったくおまえは学習能力が足りねえよ」 「だって・・・」 優しく背中をさすってくれる腕が、温かくて。 とても気分が良くて。 「もうひとつ思い出してもらわねえとな?」 「何?」 顎を持ち上げられて、彼にじっとその眼差しを覗き込まれた。 やはりアリオスの金と翡翠の眼差しは綺麗で、宝石みたいに吸い込まれそうだと、彼女は思う。 頬を赤らめたまま、潤んだ瞳で彼を見つめる。 彼の吐息を感じる。 その吐息で自分の全てが溶け出しそうになる。 そして、心が目覚めてゆくのを感じる。 親指でそっと唇を触れられたときに、全身に甘い痺れを覚えた。 唇が近づく。 深く、重ねられたときに、、心がはっきりと目覚めるのを、アンジェリークは感じた。 聞こえるのは、最早、彼の心臓の音だけ。 貪り、絡み合って、何度も深い口付けをしあった。 「アリオス・・・」 「思い出したか?」 ようやく唇を離されて、彼ににやりと笑われて、恥ずかしくなる。 だが、これは実感できる。 彼がそばにいると。 消えないのだと。 「うん。 何よりも、あなたと再び一緒になれたことを、感じられたわ…」 「アンジェ…」 二人はくすりと微笑み会う。 これからまだ試練は待ち受けている。 だが、二人ならば乗り切れるような気が、彼らにはしていた----- |