SWEET SWEET HOME


 いつものように朝早く起きる。
 一昨日までと違うところは、眠っていたベッドの横には、夫となった愛する彼がいること。
 まだ眠っている彼に、満足げな微笑みを浮かべると、アンジェリークは乱れたネグリジェを脱いで、手早く身支度をした。

 いつものように、キッチンに立ち、朝食とお昼のお弁当の支度。
 先週まで、彼はお弁当を持って行かなかったが、今日からは、出来る限り新妻の愛妻弁当を持って行くことになった。
 鼻歌を歌いながら、アンジェリークは、アリオスと自分の二人分のお弁当を作った後、朝食の準備を始めた
「美味そうなにおいがするな?」
 いつものように、既にスーツ姿になったアリオスが、ご機嫌そうにキッチンに入ってくる。
「あっ、アリオス叔父さん・・・」
 頬をうっすら紅に染め上げながら、アンジェリークは振り返って、彼を見つめる。
「こら、”叔父さん”じゃねえだろ? ちゃんと名前で呼んでくれ? 結婚したんだからな」
 人差し指を唇に宛てられて、アンジェリークははにかんで頷いた。
「・・・アリオス・・・」
 消え入るような声で呼ぶ彼女が、とても愛らしく、彼は愛しげに目を細める。
「アンジェ、”おはようのキス”は?」
「あっ・・・」
 耳まで真っ赤にしてアリオスを見ると、掠めるように、ほんの一瞬口づける。
 次の瞬間には、腕で強く身体を引き寄せられていて、深く唇を逆に奪われてしまう。
「んっ・・・!」
 初々しくも少し身体をぐらりとさせる彼女が可愛くて、アリオスはさらに強く貪った。
 唇を放したときには、彼女の薔薇のような唇は、ほんのりと赤みがさして、ふっくらと艶やかになっていた。
「アリオス・・・」
 うっとりと潤んだ瞳で見つめてくる彼女に、アリオスは苦笑する。
「アンジェ、またベッドに連れ込みたくなっただろ?」
 耳元で甘く囁かれて、アンジェリークは俯いてしまう。
「朝ごはん、冷めちゃう・・・」
「ああ、一緒に食おう」
 頬にキスをして名残惜しげにアンジェリークを放す。
 二人は仲良く、食卓に朝食を並べた。
「アンジェ、今日は午後からスモルニィの理事長に会ってくるからな。おまえが、結婚しても、ちゃんと普通に学院に行けるように」
「有り難う」
 ふたりは一昨日結婚したばかりで、今日、アリオスが理事長から許可を貰いに行ってくれるのだ。
 アリオスが日頃理事長の法的なアドバイザーになっていることもあり、恐らく許可が下りるだろう。
「今日は早く帰ってくるからな」
「うん。ごはんの支度を頑張ってしておくね」
「これからは、残業以外は真っ直ぐに家に帰って来るからな?」
 嬉しい一言にアンジェリークは、一生懸命頷いた。
「凄く嬉しい・・・。あなたの為に心を込めて色々するのが、凄く楽しくて嬉しいの・・・」
「期待してるからな?」
 アリオスは、アンジェリークの手をしっかりと握ると、そのまま小さな手にキスを送る。
「うん・・・」
 はにかんだ彼女が、彼には酷く愛しかった。

「アリオス、お弁当食べてね?」
「ああ。昼飯を楽しみにしてる」
 アンジェリークとアリオスは、仲良く登校と出勤をする。
 ただアリオスは車での通勤なので、二人は玄関で別れる。
「アリオス、いってらっしゃい! いってくるわね」
 行こうとしたアンジェリークを、アリオスは腕を掴んで引き止めた。
「”いってらっしゃいのキス”は?」
 アリオスに意地悪く甘く囁かれると、アンジェリークは俯いた。
「もう・・・」
 怒っているのにも関わらず、彼女は甘い声で言うと、唇を彼の唇にほんの一瞬だけ触れさせた。
「・・・いってらっしゃい・・・」
「いってくる。サンキュ」
 アリオスはアンジェリークの頬にキスして、車に乗り込む。
 それを見届けた後、彼女も元気に笑顔で、結婚後初めて登校した。


 授業がはねると、アンジェリークは教室から飛び出し、一気に駆け抜ける。
「アンジェ!」
 凄い勢いに、レイチェルですらたじろいでしまう。
「ごめんね! ごはんの支度と、家具屋さんがうちにくるから!」
 猛スピードの彼女に、レイチェルは苦笑した。

 やっぱり新妻はイロイロあるからね〜!

  買い物を手早く済ませた後、アンジェリークはすぐに着替えて準備にとりかかる。

 家具屋さんからベッドが来るから、ある程度はしておかないとね〜!

 昨日は、昼過ぎからベッドを見に行き、二人でダブルベッドを選んだのだ。
 思い出すだけで恥ずかしくて堪らない。

「ゆったりしてるけど、イチャイチャ出来るベッドがいいよな?」
「うん・・・」
 恥ずかしくて堪らなくて、アンジェリークは俯いたまま、アリオスと手を繋いで、一つずつ見て回った。
 たくさん見て回った中で、二人の気持ちがぴったりと一致したのが、今回買うベッドなのだ。
 広さ、スプリングも申し分ないものだった。
「これぐらいだったら、おまえとするのに心地いいな」
「もう・・・」
 アンジェリークの選ぶポイントは”寝心地”だったが、アリオスは”えっちのし易さ”だった。
 アリオスが使っていたベッドは業者に処分してもらわずに、客間に使用する。
 それは”想い出のベッド”だからだ。

 インターフォンが鳴り、はっとして確認をすると家具屋だったので、アンジェリークは慌てて出た。

 ベッドが運ばれ、全ての作業は30分ほどで済み、アンジェリークは、ふたりで選んだベッドを眺めて見る。
 嬉しいような恥ずかしいような、そんな感情が沸き上がってしまう。

 アリオスと私、ここで・・・っ!

 それを想像するだけで、アンジェリークはどうしようもなく真っ赤になるのであった。
「あっ、こんなこと考えてないで、ごはん作らなくっちゃ!!」
 ぱたぱたと走って、キッチンへと戻る。アリオスの為に、腕によりをかける時間だ。
「アリオス…、美味しいって言ってくれるかな…?」
 心を込めて、一生懸命、彼への想いをスパイスに効かせて、アンジェリークは夕食を作った。

 心待ちにしていたインターホンが鳴った。
「は〜い!!」
 いつものように、玄関に走っていくと、アリオスが鍵を開けて中に入ってくる。
「お帰りなさいっ!」
「おい」
「”ただいまのキス”は? でしょ?」
 アンジェリークははにかんだように笑うと、アリオスの唇にそっと口付けた。
「お帰りなさい。ご飯が出来てるわ?」
「メシよりおまえだ」
「きゃあっ!」
 突然抱き上げられると、そのまま寝室に運ばれる。
 アリオスの部屋だったところは、おとといから、二人の寝室になっている。
「ベッド来ただろ?」
「うん…。あ、アリオス?」
 アンジェリークが、上目遣いで言いたいことは、アリオスにはすぐに判る。
「-----ちゃんと許可を取ってきたぜ? 結婚してても大丈夫だと理事長が言ってくれた。
 ヴィクトール先輩も一緒に掛け合ってくれたからな?」
「良かった!! 先生にもちゃんとお礼を言わなくっちゃ」
 嬉しそうにほっとした表情をするアンジェリークに、アリオスは瞼にそっと唇を寄せた。
「今度は、妊娠したときだな? 掛け合うの」
 ”妊娠”
 確かにしていてもおかしくないのだ。
 この二日間は、愛する男性の愛に溺れていたから。
 その言葉に、アンジェリークは顔を真っ赤にさせて、彼の精悍な胸に恥かしそうに顔を埋める。
「…うん…」
「おい、ガキが早く欲しいって言ったのは、おまえだぜ?」
 からかうように笑いながら、彼は寝室のドアをゆっくりと開けた。
「ベッド来てるな」
「あっ…」
 そのままベッドに寝かされてしまい、アンジェリークはと単に艶やかな眼差しでアリオスを見上げる。
「ベッドの使い心地試さねえとな? 
 ----それに、子作りも…。もう出来てるかもしれねえけど」
「あっ…」
 ぎゅっと抱きしめられて、アンジェリークは何も考えられなくなる。

 結局、アリオスに散々試されて、夕食は随分遅くになってしまった----
 新婚三日目の甘い甘いお話・・・。  
コメント

アリオス叔父さん・・・。
アンジェバカに拍車がかかってしまいました(笑)