柔らかな朝日に導かれて、アンジェリークはゆっくりと眼を覚ました。
 幸せすぎて笑みすら浮かんでしまう。
 隣に、アリオスはもういなかった。
 そっと、彼が眠っていた場所に手を伸ばせば、まだ彼の温もりが残っている。
 まだ彼も起きてそんなに時間が経っていないことを、温もりは教えてくれている。
 ただのぬくもりなのに、彼のものだと想うだけで、愛しくなり、優しい気持ちになる。
「アリオスが眠っていたとこで寝ちゃおう♪」
 彼女はごろんと寝返りを打って、彼が先ほどまでいた場所に身体を置いた。
 仄かに彼の香りがするだけで、妙に嬉しくなってしまう。

 ふふ。アリオスに抱きしめられてるみたい…

 滑らかな素肌に、彼のぬくもりが染み付いたシーツを纏えば、胸の奥が甘い思いで満たされる。
 微笑みながらそっと手を伸ばして見てみると、赤い情熱の華が咲き乱れているのが判る。
 昨夜、彼に情熱的に愛された証。
 その証は体中に散っているだろう。
 目を閉じると、キッチンから水音が響いている。
 きっと彼が何かをしている。
 そう思うだけで、幸せに想う反面、逢いたくてたまらなくなる。

 甘えん坊だな…。私…

 シーツを身体に巻きつけて、彼女はベッドから出た。
 歩こうとするのだが、足の付け根が痺れていて、上手く歩くことが出来ない。
 彼が彼女に刻み付けた甘い悦びの名残。
 その甘い痺れのせいで、彼女はキッチンまでおたおたとゆっくりと歩いた。
 キッチンまでは、マンションなので短い距離のはずが、中々どうして、足が動いてくれないので、長く感じた。

 でもこの甘い痺れは、体が彼に触れられて喜んでる証…。
 今も、もっと、もっと、触れて欲しいって、そう言ってる…。

 アンジェリークはようやく彼のいるキッチンにたどり着いて、ドアを開けた。
 パンが焼けるいい匂いが漂っていて、鼻孔をくすぐる。
 彼は先に起きて朝食の準備をしていたようだ。
「アリオス…?」
 声をかけると、アリオスが流れるように振り向いた。
 その半獣神のような艶やかな姿にアンジェリークはドキリとする。
 乱れた銀の髪。
 肌蹴て胸が見えるシャツ。
 彼を艶やかに見せるディープブルーのスラックス。
 どこを取っても彼女を魅了して止まない。
「おはよう、アンジェ」
「おはよう…」
 余りにもアリオスがしなやかで素敵だったから、アンジェリークは真っ赤になって俯きながら挨拶をした。

 体が…、心が…、彼に触れて欲しいって言ってる…

「----おまえ、なんて格好できたんだ? ん?」
 彼は彼女に手を伸ばして、そっと頬を触れてくる。
 その長い指の繊細さに、彼女は胸がいっぱいになって、瞳を閉じた。
 彼の湯簿先から、愛情が注がれているようで、嬉しくなる。
 そっと彼女の頬に口付けた跡、アリオスは深い微笑を彼女に向ける。
「アンジェ、着替えて来い? このままじゃ俺の理性が持たねえからな?」
「も…バカ…」
 彼女が寝室に戻ろうと、踵を返した瞬間。
「きゃあっ!」
 そのままバランスを崩してしまい、彼女は彼の腕の中に受け止められる。
 彼女が躓いたのも、彼が刻んだ甘い痺れであるに他ならない。
「ご・・・ごめんなさい…」
 恥かしそうに 彼女は彼の腕に掴まった。
 顔を上げると、はっとする。
 彼の唇がそのまま降りてくる。
「・・・んっ!!」
 深く唇を貪られて、舌を絡まされ、口腔内を侵されれば、アンジェリークなど、ひとたまりもなくて…。
「はあん…」
 ようやく唇が離されたとき、彼女の唇から甘いと息が漏れた。
「アリオス…」
「言っただろ? 俺の理性が持たねえって」
「だって…、足の付け根が痺れてて…、上手く…、歩けない…」
 恥かしそうに可愛らしくとても小さな声で言う彼女に、アリオスは思わず喉を鳴らす。
「そいつは光栄だな? おまえの体が喜んでるみたいで」
「も…バカ…」
 耳まで真っ赤にして、アンジェリークは彼の顔を上手く見ることが出来なかった。
 きっと彼は、その異色の眼差しをおかしそうに輝かせているのだろう…。
「だって…」
 言いかけて、彼女は体が中に舞うのを感じる。
「きゃあっ!」
「朝食よりおまえだ…」
「いやん・・・」
 気がつけば、アリオスにしっかりと抱き上げられていた。
 余りにも恥かしくて、彼女は彼の胸に顔を隠してしまう。
 そのまま寝室に運ばれて、彼女はベットの上に乗せられた。
 彼女がそこで座り込むと、彼もベットの上で座りながら彼女を抱きしめる。
「何でこんなことしたんだ?」
 甘く優しい声。
 その声だけでも、彼女の身も心も潤んでしまう。
「アリオスに逢いたかったから…」
「俺に?」
「うん…」
 彼女は恥かしげに言った。
「キッチンにいただけじゃねえか…」
「だけど不安なの…」
 そう言うと、彼女は情熱的な眼差しを彼に向ける。
「よかった…、アリオスがいてくれて…」
「俺がおまえの側を離れるわけねえだろ?」
「・・・うん・・・」
 そっとアリオスの腕が彼女を包み込んだ。
「愛してる…」
「私も…」
 二人はそのまま、シーツの海へと滑り込んだ…。

コメント

よしのさくら様のHP『Night Wings』様の3000番のキリ番を踏ませていただいた際に頂いたイラストを元にした創作です。
イラストの雰囲気壊しちゃいましたね…。
ごめんなさい…