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新年、と言うよりは21世紀初の創作はトロアな二人による、初日の出です。
今回初めて、レイアウト枠を使っての創作で、はっきりいって、ひやひやしました。
こんな私ですが、皆様今年も宜しくお願いします。
これは別名お年賀創作(笑)





SUNSHINE BRISE


 心地の良い気だるい浅い眠りからアンジェリークが目覚めたのは、傍らにいる愛しい男性の、冷たくて情熱的な唇を頬に感じたからだった。
「----あ…、ん…、アリオス…、起きてたの…? 朝?」
「朝じゃねえけど、ちょっと起きねえか? いいところに連れてってやるよ」
 ベッドサイドの時計を見ると、確かに午前3時を少し過ぎたぐらいだ。
「いいところって、こんな時間だし、また“楽園”何て言うんじゃないでしょうね?」
 少しはにかんだように答える彼女が可愛くて、アリオスは苦笑してしまう
 確かにいつも、“楽園に連れて行ってやる”と言っては、彼女を抱いているのは否定することはできないが・・・。
「クッ、そんなに行きたいか? 楽園に」
 良くない笑顔を浮かべながら彼は天使をからかう。
「も…、知らない!!」
 上掛けを頭まですっぽり覆い、彼だけの天使は恥ずかしさの余り顔を隠してしまった。
 このような仕草をひとつ取ってみても、アリオスを情熱の波へと高めてゆくことを、この少し鈍感な天使は知らない。
「おい、そんな可愛いことしてるとホントに“楽園”に連れて行きたくなるだろう? 早く着替えて仕度しろ。聖地と違って寒いから、防寒はちゃんとしてな?」
「”楽園”じゃないんだ…」
 ホッとしたような、それでいて少しがっくり来たようにも取れる彼女の溜め息に、アリオスは喉の奥を鳴らして笑ってしまう。
 それを誘いの言葉に取らない男などいないというのに。
 数えられないほど、彼女と体を重ねて来たというに、彼は、彼女が欲しいという気持ちが際限なく高まってしまう。
「そんなことばっか言ってると、ホントに“楽園”に連れて行きたくなっちまうじゃねえか…。そうしちまうと、肝心なものを見せてやれねえからな…」
 上掛けに隠れる彼女を背後から抱きしめると、彼は首筋に唇を軽く這わせる。そこが彼女が苦手な場所だと、彼はよく知っているから。
「あ…ん! ヤダ…、女官さんたちに新年のご挨拶をしなくちゃいけないのに…、また痕つける…、レイチェルにだって…」
 甘い吐息と共に発せられるアンジェリークの声も、言葉も、余りにも彼の心の琴線に触れてしまい、本当に離したくなくなってしまう。
 寸でのところで彼は彼女を何とか離し、昨夜脱ぎ捨てたままのローヴを羽織り、ベッドから出た。
「とっとと着替えろよ? 暗いうちに出なきゃ、間に合わねえからな。スカートは履くなよ? パンツな」
 触れるだけのキスを彼女にすると、艶やかな優しい微笑を彼女に向けた。
「ん…、着替えるね」
 彼が静かに自室へと戻るのを見送ると、アンジェリークもベッドから降りて、仕度を始める。
 白いタートルネックのセーターと、彼に言われた通りに白のパンツ、そして、彼が選んでくれたショート丈のダッフルコートを羽織り、白いマフラー、赤い手袋で、完璧に装備をする。
 彼女が着替え終わったことをまるで知っていたかのように、ドアに力強いノックがされる。アリオスだ。
 飛ぶようにドアへと向かい、アンジェリークは嬉しそうにドアを開けた。
 ドアの前にいる彼は、眩暈がするほど素敵だった。
 黒のセーター、黒のレザーのジャケット、黒のレザーパンツを、均整の取れた体を
包んでいる。その姿は完璧で、艶かしくもある。
「アリオス!!」
 つい先ほどまで彼の腕の中にいたにもかかわらず、彼女は、彼の首に手を回して飛びついた。
「ったく…、しょーがねーな」
 余りもの可愛さに、アリオスは自然と少しにやけてしまう。
 挨拶のような軽いキスを彼女に送ると、彼女の手を取って、廊下へと連れ出した。「ね? どこに行くの?」
「秘密」
「ね、教えて?」
 まるで子供がせがむように、澄んだ青緑の瞳を探るように彼に向けて、甘い声で囁く。
「ダメだ。教えない」
 きっぱりと言っているものの、顔には秘密を隠して穂九村でいる子供のような表情が覗える。
「アリオスのケチ〜」
 頬を膨らまして起こる姿は、とても新宇宙の女王とは思えない。
 この瞬間だけは、自分だけの天使----
 そう思うだけで、彼の心の奥は甘く満たされる。
 この天使のまばゆいばかりの光に導かれ、魂の浄化の旅を終え、その心を癒してくれたことを、彼は忘れることは出来ない。
 女王としてではなく、17歳の少女として深く自分を愛し、癒してくれる天使が、狂おしいほど愛しくて堪らない。
 少女が自分を愛してくれる以上に、彼女を愛してやりたい。
 その笑顔を絶やさないためなら、どんなことでもしてやりたい。
 だから、なるべく、17歳の素顔を思い出す瞬間を、自分の手で作ってやりたい。
 今日の外出も、彼のそんな気持ちからだった。


 静まり返った宮殿の廊下をこっそりと抜け、アリオスはアンジェリークの手を引いて中庭へと連れて行ってやった。
 月の光しかなく、暗くて何も見えない道だが、彼に手を引いて貰うという行為が、彼女に穏やかな安心感を与える。
「ね、ホントにどこに行くの? 教えてくれてもいいじゃない」
「ダメ! いくら可愛く囁いたって、ダメなものはダメだからな」
「ケチ…!!」
 言いかけて、彼女は何もないところで躓く。
 アリオスは片腕で軽く彼女を抱きとめた。
「ごめんね」
「いいぜ。俺が日夜の努力で、どれだけおまえの胸を成長させたか判ったからな」
 彼の腕はしっかりと彼女の胸を抑える格好になっている。
 その事実を目の当たりにすると、彼女の全身はみるみるうちに赤くなる。
「バカ!! もう、知らない」
 恥ずかしそうに俯く彼女が愛しくて、彼はフッと優しい微笑を浮かべた。
「さ、行くぜ? とっととしないと見逃しちまうからな」
「あ、アリオス〜」
 アリオスは、アンジェリークを、さらに中庭の奥へと連れて行った。


「あ、エアロバイク!!」
 アンジェリークの前に姿を現したのは、シルヴァー・メタリックのエアロ・バイク。
 女王候補時代、鋼の守護聖が乗っていたものよりも、さらに大きい。
 そのデザインは、まるで白馬のように優美で、荘厳としている。

 なんだか、アリオスにぴったり…

「ほら、これつけろ」
 ふいに赤いヘルメットが彼女に向かって投げられ、慌ててそれを受け取る。
 恐々とそれを頭につけると、ぴったりなことが彼女にも判り、思わずアリオスを見つめる。
 彼は既にバイクにまたがり、黒いヘルメットをかぶり、手にはレザーの手袋をしている。
 艶やかで、野性的なアリオスがそこにいる。
 翡翠と金の瞳だけが艶やかに輝いている。
 信じられないほど素敵で、胸の奥が篤くなるのをアンジェリークは感じる。
 鼓動が早くなり、指先が震えてしまって、ヘルメットに紐を上手くつけることが出来ない。
「どうした?」
 バイクから素早く降りて彼は彼女に駆け寄る。
「紐が上手く出来ない…」
「しょーがねーな。ほら、顎を上に向けろ」
「うん…」
 彼に言われるままに、彼女は顎を上に向ける。うっすらと頬を上気させて。
「クッ、そんなに顔を赤くして、なんだかキスするみてーなかんじだからか?」
「そんなことないもん」
 意地悪そうに笑いながらも、アリオスはアンジェリークに素早く紐をつけてやった。「ほら。行くぜ? 後ろ乗れよ」
「うん」
 彼が運転席にまたがり、彼女が続いて後ろにまたがる。
 彼がパンツをはいて来いと言った理由がようやく判った。
「俺の腰に腕回して、しっかり掴まっとけよ?」
「うん」
 彼の背中に体を預け、しっかりと腰に腕を巻きつけると、彼女は一度大きく深呼吸をする。
 彼のぬくもりと香りのせいで早くなる、鼓動を抑えるために。
「オッケ?」
「ん、大丈夫」
 彼女の言葉を合図に、彼はエンジンをかけ、エアロバイクが宙に浮く。
 そのままバイクは、猛スピードで、宮殿、聖地を抜けてゆく。
 アリオスの背中に総てを預けていれば、いくらスピードが速かろうと、高かろうと、アンジェリークは恐くなかった。
 彼の香りと、温もり、そして心臓の鼓動を感じながら、甘い旋律に酔い知れている。 もちろんアリオスも同じだった。
 彼女の穏やかな温かさと、柔らかな感触が彼を優しく包み、その甘さに酔っていた----



「着いたぜ」
「え?」
 アリオスの低い魅了的な声が背中から響いて、アンジェリークは彼の背中から腕を解き、バイクから降りた。
 ヘルメットを脱ぎ、目の前を見つめるとそこは、穏やかな冬の海が広がっていた。
「何とか、間に合った見てえだな」
 アリオスもバイクから降り、ヘルメットを取って、彼女の隣にやってくる。
「アンジェ、最高の眺めの場所があるから、行くぜ?」
 コクリと彼女が頷くと、それを合図に彼の優しく大きな手が彼女の小さな手を覆う。 優しい眼差しで彼女を見つめると、彼は静かに彼女をその場所へと連れて行った。


 そこは、海が一望できる、少し高台の場所だった。
 アリオスは着くなり座り込むと、その膝にアンジェリークを乗せてしまった。
「アリオス〜、誰か見てたらどうするの?」
 恥ずかしそうに俯く彼女は、どこかしら艶めいていて、彼を魅了して止まない。
「誰も見てねえよ」
 軽く耳朶を甘噛みされて、彼女は思わず甘い吐息を漏らしてしまう。
「ほら。せっかく連れてきてやったんだから、前を見てろよ?」
 意地悪げに良くない微笑を浮かべながら、彼女を包み込むようにぎゅっと抱きしめる。
「ん…」
 ゆっくりと二人は、同じ視線の高さで、水平線を見つめる。
 その間もアリオスはアンジェリークを離すことはなく、彼女もまた彼の手と自分の手を重ね合わせている。
 朝日はゆっくりと上がってきて、あたりを薄紫に照らし出し始め、やがて二人の顔を黄金に染めてゆく。
「----綺麗…」
 アンジェリークは心が澄んでゆくように思えた。
 新宇宙の初日の出を、誰よりも愛しい人と向かえることが出来るなんて。
 余りにも綺麗で、嬉しくて、彼女はいつのまにか涙を流していた。
「アンジェ?」
 アリオスの指で優しく涙を拭われ、余計に涙が溢れてしまう。
「朝日に何か、願い事をするといいらしいぜ?」
「ん…。じゃあ二人で今からお願い事をしよう」
「ああ」
 二人は夫々瞳を閉じ願いを込める。

 アンジェリークはこの発展途上な宇宙の人々の幸せを。
 そして愛しい人の幸せを。

 アリオスはアンジェリークの幸せを。

 二人は深い祈りを込めて、願う。
 同時に瞳が開かれ、お互いに深い微笑を交わす。
「聖地の日の出も綺麗だが、今日は最高の日の出をおまえに見せてやりたかった」「ん…、私、最高に嬉しい」
 どちらからともなく唇が重ねられ、お互いの愛を伝え合う。
 時間がたつごとに、それは深く、そして激しくなってゆく。
 唇がようやく離されると、アリオスはアンジェリークを抱き上げたまま、立ち上がった。
「アリオス?」
「今日の挨拶は、3時からだったよな?」
「そうだけど」
 答えて、彼の顔を見つめると、良くない笑みが広がっている。
 その意味が判らないわけもなくて。
「あ、アリオス?」
「大急ぎで帰って、今度こそ“楽園”に連れて行ってやるからな?」
「もう、バカ…!!」
 アリオスは、往路よりも速いスピードで聖地まで飛んで帰り、アンジェリークをたっぷりと“楽園”とやらに連れて行ったらしい・・・。