Romance Of Summer


「今日はロマンティックな夜よね〜」
 下界の花屋で買ってきた”笹付き七夕セット”をテーブルの上に広げ、アンジェリークはご機嫌にも、飾るのを頑張る。
 アリオスが部屋に戻ってくるまで、これで楽しむのだ。
「西瓜ってどうして一切れで描くのかな〜」
「可愛いお飾り〜」
 一つずつに感嘆の声を上げながら、アンジェリークは飾っていく。
「レイチェルはエルンストさんと一緒に飾るっていってたから・・・」
 短冊は全部で五つ入っており、ひとつの願いは決まる。”新宇宙安全”と書き、女王としてはこれでいいだろうと、嬉しくなって微笑む。
「えっと後は〜」
 アンジェリークは真っ赤になりながら願いごとを書く。
 残りの願いごとは、恋する乙女の願いごと。
 ”アリオスといつまでも一緒にいられますように”
 ”アリオスと幸せでいられますように”
 スタンダードな願いごとを書いて、とっととそれを笹に付けた。
 私室のドアが開き、アンジェリークはテーブルから立ち上がる。
「お帰りなさい!!」
 その姿を見るなり、”ご主人のお帰り”を待つ犬のように尻尾を振って迎えた。
 彼はブランチ後に良く使うバイクの整備と、馬の毛並の手入れに行き、戻って来たのだ。
「あ、アリオスもこっちに来て!」
「何だよ」
 笑いながら、彼はアンジェリークのそばに行く。
「あのね、あの・・・っ!」
 彼が隣に来るなり、深く唇を貪るように奪ってくる。
 昼間から深いキスをされて、くらくらとアンジェリークはなってしまう。
「はあ」
 うっとりと息を吐き、彼女はアリオスに凭れた。
「”おかえりのキス”がなかったからな?」
「もう、バカ〜」
 ぱたぱたと手足を恥ずかしそうに動かしながら、彼女は耳まで愛らしくしていた。
 アリオスはテーブルの上に沢山ある七夕セットに視線を這わせ、面倒臭そうにアンジェリークを見た。
「何だこれ?」
「それね、”七夕お飾りセット”っていって、その笹に願いごとを短冊に書いてお飾りと一緒に飾るの」
「笹ってパンダじゃあるめえし」
 アリオスは”また始まった”とばかりに、溜め息を吐きながら、まじまじと短冊を眺めた。
「お前は何書いたんだよ?」
「ヒミツ」
 ちょっと舌足らずに話す彼女は、”女王”に見えない、普通の愛らしい少女だ。
「アリオスは何をお願いするの?」
 短冊を持って眺めてるアリオスの肩を持って、じっと見つめている。
「そうだな”豊かな老後を過ごしたい”か」
「そんなのジジ臭い」
「俺がおまえより11もジジィだからな」
「もう」
 きゅっと唇を尖らせる彼女の腰を抱くと、アリオスは短冊を透かすようにして見た。
「願いなあ、叶うのか?」
 疑い眼でみるアリオスに、アンジェリークは口を尖らせて拗ねる。
「こういうのは雰囲気よ! 雰囲気!」
「おまえこういうイベント好きだからな」
 アリオスは微笑ましそうに笑うと、彼女の肩を叩く。
「ねえ、何をするの? お願い」
「そうだな・・・」
 ニヤリと笑うと、彼は短冊をテーブルに置いてさらさらと書き付ける。
「なっ・・・!」

 ”年間700発以上達成出来ますように!”

「だろ?」
 ニヤリと良くない微笑みを浮かべると、アリオスはアンジェリークを後ろから抱き締めた。
「もう、アリオスのバカ〜っ!!」
「俺の願いはそれだけだぜ?」
「ぷー」
 すっかりアンジェリークは唇を尖らせて、拗ねたふりをした。
「今夜、星を眺めましょうよ。ちゃんと浴衣も用意してあるから・・・」
「ああ。雰囲気味わうか・・・」
 アリオスは軽く頷いて、彼女の頬に軽くキスした。
「準備するから、笹をバルコニーに飾っておいてね」
「ああ」
 ばたばたと寝室に入ってきた彼女を見送ってから、残った短冊に祈りを込めて願いごとを書き綴った。
 夕方になり、二人は取り寄せた浴衣を着て夕涼みをすることにした。
 とても心地好くて、ほてった躰を癒してくれる。
 浴衣は、アンジェリークは自力で着、アリオスをも着せてやった。
 ベランダには風情あふれる縁台を置き、さらに雰囲気を高める。
 バルコニーに飾られた笹も、涼しげに揺れていた。
 縁台にゆったりと座り、二人は空を見上げる。
「織り姫と彦星ってね、年に一度しか逢えないの。それが七夕。きっとね、恋する人を応援してくれる魔法のパワーがあるのよ」
 うっとりとしながらアンジェリークは言う。
「でも一年に一回しか逢えねえなんて、片手が席の山だぜ」
「何が片手なのよ・・・」
 答えは判っているが、つい言ってしまう。
「判ってんだろ?」
 囁かれて、アンジェリークは耳真っ赤にするのであった。

 食事はベランダに運ばれ、ふたりはロマンティックな気分で食事をする。
「たまにはこういうのもいいな?」
「でしょ?」
 夜空を眺めながら食事をした後、デザートを食べていた。
「願い、叶うといいわね?」
 アンジェリークは優しく微笑みながら、笹を見つめた。ひとつの短冊を見た時、彼女は息を呑む。
「アリオス、これ」
「・・・なんだ、見たのかよ…」
 少し照れくささが入った声でむすっと言う彼だが、決して怒ってはいない。
 アンジェリークは深く頷くと、感激するあまり言葉を紡ぐことが出来なかった。
「アリオス…」
 ふざけて”年間700発以上達成出来ますように!”などと書いていたが、彼の純粋な願いに、彼女は泣きそうになる。

”アンジェリークとふたりで幸せにいつまでも一緒にいられますように”

「おまえの願いは俺の願いなんだからな。忘れんなよ?」
「うん…」
 泣いている彼女を、アリオスは抱きしめ、甘くキスをする。
「二人の願い、一緒に叶えていこういぜ?」
「うん…二人なら叶えられるものね・・・」
 誓いのキスを交わし、織姫と彦星に負けないほどのアツアツぶりで、二人は天の川を見ていた------

 最高にロマンティックね?


 食事を片付けさせた後も、二人はまだ願いを込めて天の川を見つめる。
 甘い夏のロマンスに浸りながら、年に一度のこの祭りを、いつまでも楽しんでいた。


 その後------
 ベランダにマットが置き、ロマンティックな気分に浸りながら、二人が願いを込めて愛し合ったのはいうまでもない -------
コメント

七夕です。
年間700発以上って、花火ですか?
アリオスさん(笑)

モドル