Summer Night Fantasy


「アリオス、似合ってる?」
「ああ」
 夏らしく浴衣で登場したアンジェリークは、少し頬を染めてはにかんでいる。
 この夏、レイチェルと講習に行って、初めて浴衣を自分で着たのだ。
 これも、恋人に見せるためである。
「ねえ着崩れてないかな?」
 一回転しながら、アンジェリークはアリオスに浴衣姿を見せてみる。
 彼はヘアメイクのカリスマのせいか、このようなチェックをしてもらうのには絶好の相手なのだ。
「おい、おなかはキツク締めてねえだろうな?」
「うん、平気…」
 少し恥かしそうにアンジェリークは頷いた。
「来いよ。髪を上げてやる」
「うん!」
 こういうとき恋人が美容師だと助かる。
 椅子にちょこんと座ると、アリオスが色々道具をもってきてくれた。
 彼が髪を手に取る。
 それだけでアンジェリークは胸が甘い感覚に支配されてしまう。
「アリオス…」
「伸びたな髪…」
「うん…」
 彼はひと房鼻先もって行き、その香りを楽しんだ。
 フッと優しげな、彼女にしか見せない微笑を浮かべた後、彼は巧みに彼女の髪を上げていく。
 栗色の真っ直ぐとした髪。
 アリオスが愛して止まない髪だ。
「前のボブも良かったが、長いのも似合ってるぜ?」
「有難う…」
 彼は真剣な眼差しになり、アンジェリークを美しく変えていく。
 さしずめそれは”マジック”と言っても過言ではない。
 美しいガラス細工で出来た小さなかんざしを挿して終了する。
 夏らしく、また、彼女の栗色の髪にぴったりなものだ。
「有難う…」
 鏡の中に映るアンジェリークを、アリオスはじっと見つめる。
「あっ…」
 首筋に一瞬彼の唇がかすめた。
 アンジェリークは思わず甘い声を上げてしまう。
「色っぽくなったな?」
「だって、アリオスのお嫁さんにもう直ぐなるもの…。
 あなたのおかげでこうなったのよ?」
 少しはにかみながらも、アンジェリークはくすくすと笑いながら彼を鏡越しで見た。「花火大会の後は判ってるんだろうな?」
「------うん…」
 流石にアンジェリークは真っ赤になって、頷くことしか出来なかった。


 今日は港で大々的な花火大会がある。
 どのルートで花火を見るのも満員になっている。
 アンジェリークはアリオスに連れられて、港の近くの小高い丘に向かった。
 そこは、アリオスがいつもヘアメイクを担当している社長夫人宅の敷地で、私有地のために人はあまりいなかった。
 社長夫人が、「恋人といらっしゃい」と言って、招待してくれたのである。
 途中で、アンジェリークがどうしても欲しがったので屋台でりんご飴を買ったせいか、彼女の手にはしっかりと握られている。
「クッ、おまえ本当に食い物に目がねえな」
 彼は楽しそうに喉を鳴らして笑っている。
「だってりんご飴大好きだもん」
「コレで来年の春には、母親になるのかよ? ったく、ガキがガキを産むなんてな」
「------だって、お腹の子の父親はアリオスじゃない。
 ガキに孕ませたのはどこの誰よ」
 子ども扱いされて、アンジェリークは頬を膨らませて彼を見るが、それが可愛くてしょうがない。
「俺だったな」
 アリオスは笑いながら、ぎゅっと彼女の華奢な肩を抱いた。

 芝生の上で、二人はゆったりと寛いでいる。
「うわあ!!!」
 大きく口を開けて、アンジェリークは判日を一生懸命見物をする。
 その姿が、アリオスにとっては可愛くてしょうがなかった。
 花火が打ちあがるたびに、彼女はその美しさに魅入ってしまっている。
「…妬けるな」
「え?」
 アリオスの艶やかな声に、アンジェリークは彼を見つめる。
「おまえをこんなに夢中にしちまう花火がな」
「アリオス…」
 アンジェリークははにかんで彼を見つめると、先ほどから握りっぱなしの手を更にキツク握り締める。
「あなたと一緒だから、余計に花火に夢中になれるのよ?」
「アンジェ」
 二人はどちらからともなく肩を寄せ合い、暫くは夢中になって花火を見上げていた。

 フィナーレには美しい花火が舞い上がる。
「わぁ!!!」
 思わずアンジェリークは歓声を上げ、空に彩られる華を魅入った。
 はかなく散った後は、もう何も上がらない。
 彼女は急にしゅんとして、肩を落としてしまう。
「・・・おわっちゃった…」
「ああ」
「なんだか上がる時はあんなに勢いがあって素敵なのに、上がってしまったらはかないわね…。胸の奥がすごく寂しくなるわ・・・」
 肩を落とす彼女に、アリオスはポンと背中を叩いてやる。
「来年・・・。今度はガキを連れて見に来ようぜ?
 今度は親子三人で花火を見ようぜ?」
「・・・うん・・・」
 アンジェリークはしっかり頷いて笑うと、アリオスにぎゅっと包み込んでもらった。
「さて帰るか」
「うん!!」
 アリオスに捕まって立ち上がる。
「家に帰ったら、おまえの瞼に花火を見せてやるぜ?」
 次の瞬間、アンジェリークはその意味が判り、真っ赤になる。
「もう!! バカ〜!!!!!!」
 恥かしそうにアンジェリークはアリオスの肩に顔を埋め、甘えるようにして帰宅する。
 その後、アンジェリークガ花火を見たかどうかは、彼女だけが知っている。
   

コメント

夏コミの帰りに、花火大会に行く方々と遭遇!!
それを思い出しながら描いてみました。
誌化し、美容師アりオスと女子高生アンジェの幼馴染。
いつ子供を作ったんだ(笑)



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